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「政治のカネにはもっと切り込める!」元特捜検事にして自民議員だった若狭氏が語る「ブラックボックスを打ち破る方法」とは

先日、スローニュースで「パーティー券を利用した裏金作りが6年前の本で指摘されていた!特捜検事と国会議員、両方を経験した著者だから書けたこと」という記事を配信しました。

この本を書いたのが、東京地検で特捜部副部長や公安部長などを歴任し、2014年から17年にかけて衆議院議員も務めた若狭勝弁護士です。

その若狭さんが、5月24日に日本記者クラブの会見で現在の「政治とカネ」の問題について語りました。現状をどう改善すればいいか、特捜部時代にはどんな議論がなされていたのか。ここでしか聞けない示唆に富む内容だったので、ポイントをリポートでまとめたいと思います。

スローニュース 熊田安伸


政策活動費の解明には、この条文を使え!

今回、若狭さんは政治資金の中でも「ブラックボックス」になっている「政策活動費」をターゲットにして語りました。政策活動費というのは、政党から政治家に支払われるカネで、どんなに多額であっても、政治家側の団体の収支報告書には収入として記載されず、使途が全く見えなくなってしまいます。

いま政治資金規正法の自民党の改正案では、政策活動費は以下のようになっているということです。

  • 支払いを受けた者がその使途を報告し、収支報告書に記載する

  • 1件あたり50万円超の支出を受けた議員の使途を項目のみ公開

  • 支出先は明らかにしない

これではやはりブラックボックスのままですね。そこで若狭さんが提案するのが、「政治資金規正法19条の3」を使えということです。

若狭弁護士作成の資料より

この法律の条文はあまり知られていませんが、若狭さんによれば、「政党から受けた政治活動に関する寄附」というのが政策活動費のことで、それについて書かれた規定だということです。

「これを適用すれば、今までブラックボックスでわからなかったのが、相当明らかになる代物なんです」

政策活動費を政治家の財布である「資金管理団体」に寄付させれば、収支報告書を毎年出す必要が出てくるため、使途が明確になり、透明化が図れるはずだと指摘しています。

「岸田さんがこの19条の3の規定に基づいて、政策活動費は資金管理団体に入れることにしますと一言いいさえすればいいんです」

この規定があることを知っている政治家もいるはずなのに実現していないのは、「政策活動費という利権を失うので、口に出して言わない政治家が多いのが実情」だと語っていました。

実は特捜部時代、政策活動費に切り込もうとしていた

東京地検特捜部時代、政治家の汚職を主に追及する「特殊一班」に所属していた若さんさんは、当時から政策活動費に切り込みたいと思っていたそうです。

例えば、自民党の幹事長だった二階俊博氏に4年で37億円超の政策活動費が渡され、何にどう使われたのか分からなくなっていることが2021年に報道されました。こうしたケースをどう見るべきか。

今回の会見で若狭さんは、特捜部にいた2004年当時の法務省の見解を明らかにしました。

「自民党から幹事長に政策活動費が渡される。さらにそれを幹事長が選挙の応援などで別の党所属議員に渡すとどうなるか」を想定したものです。それを簡単にまとめると、こういうことのようです。

  • 自民党から幹事長への政策活動費の交付には「幹事長個人」への支出と、「幹事長という党の機関」への支出の2つのケースがある

  • 「幹事長個人」への支出だと、幹事長が議員に渡すことは個人献金禁止に違反する

  • 議員個人ではなく資金管理団体に支出した場合でも、収支報告書への不記載が疑われることになる

しかし、ある「壁」が捜査を阻んだということです。

「自民党を支える総務省の解釈」とは

それが総務省の解釈です。若狭さんはこのように解説します。

  • 幹事長など党の役職員から所属議員に寄付することは、党からの寄付にあたり、個人献金禁止には引っかからない

  • 党から幹事長への交付は個人に対する支出。それでも幹事長が議員に交付した場合は、党からの交付にあたる

これは自民党も同じ解釈だということです。若狭さんは「場面によって個人にしたり、党内での資金移動としたり、いいとこどり。自民の考え方は総務省が支えている」と語っていました。

結論として、政策活動費の透明化には以下のことが必要だとしています。

  • 19条の3を適用して政務活動費を資金管理団体に全て入れて透明化を

  • それができないなら、支出先が幹事長個人なのか、党の機関としての幹事長なのかを国会で議論をすべき

  • それでも「その時々で違う」と主張するなら、党の収支報告書に幹事長個人への支出と記載されているのは「虚偽記載ではないのか」と指摘をすべき

今、ここでメスを入れないと…

若狭さんがもう一つ主張していたのは、政治資金収支報告書への虚偽記載の時効が「5年」というのがいかにも短いということです。

「企業で言えば、有価証券報告書の虚偽記載は時効が10年。それを考えると議員が5年は短い」

せめて「7年」にすべきだとしていて、それなら捜査の幅は大きく広がると語っていました。

さらに質疑の中では、こんなことも述べていました。

日本記者クラブの収録動画より(サムネイルの画像も)

「パーティー券の問題に合わせて政策活動費の話が出てきたので、特捜部は切り込むんじゃないか、と私は思っていた。今のところ切り込んでいないが、この間の事件で資金の流れが宝の山のような形で特捜部に収集された。各議員のお金の流れ、銀行口座の動きとか。

相当、いろんな可能性があるので、1月ぐらいに捜査が終了したと言われていても、にわかに信じがたいところがあって、特捜部はまたこの政策活動費を含めて、なんらかのものにこれから切り込んでいくんじゃないかと今でも思っています。20年前からずっと水面下にあったものに、ここでメスを入れないと、また10年、20年とブラックボックスがはびこっていく」

その上で、自らも議員を務めてきた経験から、100%オープンにはできないとは分かっているが、きちんと区分けをして、説明責任を果たすことが重要だと締めくくっていました。


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