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議員の兼職はどこまで認められるか、そして「公職」の情報公開がなぜここまで遅れているのか。改めて考えさせられる毎日新聞のスクープ

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維新・池下議員、公設秘書に2市議を採用 兼職届けず「二重報酬」

毎日新聞の報道によると、日本維新の会の池下卓衆院議員(48)が、地元の大阪・高槻市議だった2人を任期中に公設秘書として採用していたことが分かったということです。

公設秘書は国費で給与がまかなわれるため、国会議員秘書給与法で兼業が原則禁止されています。例外規定はあるものの、「兼職届」を衆院議長に提出しなければなりません。この2人の兼職届は出ていませんでした。いずれも税金が原資になる秘書給与と議員報酬を二重で受け取っていたということです。

池下議員は秘書の兼職の事実を認めていて、「一生懸命に働いているので問題はない。届け出の提出を忘れたのはミス」としています。

しかし、毎日新聞は、「そもそものルールがおかしい」という根本的な問題提起をしています。問題点は二つ。

①法律で公設秘書の兼職は「原則禁止」なのに、議員側の解釈で可能だとして届け出さえすればいい、いわば「ザル法」になっている。

②公設秘書を雇った場合、給与支給の根拠となる「採用届」、秘書の情報を示す「現況届」、そして兼務する際は報酬額も示した「兼職届」を出す必要があるが、全て情報公開制度の対象外になっている。

まず、①についていえば、恣意的な運用が可能になってしまえば、そもそも法律を作った意味がありません。立法機関である国会の議員には、職責も考えたうえで法律の運用がそれでいいのか、よくよく考えてもらいたいものです。

さらに「激務という声もある国会議員の公設秘書が兼務でできるものなのか」という疑念がつきまといますよね。毎日新聞も公設秘書の経験者や専門家の話でその点を指摘しています。

一方で、「地方議員の兼職」という観点からはどうでしょうか。

確かにいま、地方議員は「なり手不足」が大きな問題になっていて、どのようなケースなら兼職を認めてもいいかという条例を定める動きが出ています。定員割れになって議員定数さえ満たせない恐れがある自治体では、もはや兼職を広く認めて、議員のなり手を確保しないと回らないという状態です。

しかし当の高槻市に関して言えば、選挙の結果を見ると十分な候補者もいて、そうした状況とは程遠い感じです。

また、「地方議員の兼職」には、自治体によっては議員報酬だけでは生活が苦しいという側面もあります。ただ、高槻市の場合は条例によると、議員報酬は議長や委員長などなんの役職についていない人でも月額66万円。兼職しないとやっていけない額ではありません。

そもそも貴重な一票を投じた人からすれば、自分たちの市のために全力投入してほしいと願うのではないでしょうか。もちろん、立候補の際に兼職をすることを堂々と宣言したうえで自分への投票を呼び掛けるのならば話は別ですが。

過去に全国の地方議員に一斉アンケートをした結果を見てみると、なり手の確保のためには兼職を認めるしかないという意見の方が多く見られました。一方で、「どちらが本業が分からなくなっている人がいて勉強不足」「県政課題についてほぼ全日、24時間調査、研究、論戦、住民運動との連携などに力を注いできたのが実情。兼業のイメージがわかない」という意見などもやはりありました。

そして②についても大きな問題です。公設秘書はまごうことなき公職。どのような人が雇われ、報酬が公金からいくら払われているかは国民がチェックできてしかるべきですよね。

毎日新聞の記事によれば、例外的に公設秘書の兼職を認めるルールになった背景に、「議員の落選と同時に失職しかねない不安定な秘書の生活保障」が考慮されたということですが、それであればなおのこと公開して、そんな不安定な職であれば、もう少し待遇を良くしたほうがいいのではないか、などという議論もできるのではないでしょうか。

「ミスでした」という釈明が定番になっている政治とカネの問題。そうであれば尚のこと、そもそものルールを見直したほうがいい側面が数多くありそうです。(熊)

(毎日新聞 2023/9/18)

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