理化学研究所の雇い止め裁判で浮き彫り になった研究者「切り捨て」
理化学研究所(本部・埼玉県和光市、五神真理事長)に雇い止めをされたのは違法として男性研究者(64)が起こした訴訟で、さいたま地裁(鈴木尚久裁判長)は12月20日、研究室を主宰する「チームリーダー」としての地位確認を求めた男性の訴えを却下し、損害賠償請求を棄却した。
男性側は判決後の記者会見で、「結論ありきの不当な判決だ」として控訴する方針を示した。
理化学研究所では2023年3月末に184人の研究者や技術者が雇い止めにされ、訴訟が相次いでいる。
国内唯一の自然科学の総合研究所で何が起きているのか。今回の判決のポイントと、アカデミアで多発する雇い止めの背景を解説する。
科学ジャーナリスト 須田桃子
勤続10年超で雇い止め通告に
理研の研究者の7割弱は、1年単位の雇用契約による任期制職員だ。今回の原告の男性も、2011年4月に生命科学系の研究室を率いるチームリーダーとして採用されて以来、雇用契約を11回にわたり更新しながら研究を続けてきた。
「光を使って生体の内部を可視化する研究です。乳がんの早期検出や、手術中のがんを切除する蛍光マーカーとして使うなど、医療応用の可能性が高いテーマ。10年かけて築き上げた成果により、社会実装も間近になっています」(男性)
ところが2022年春、1年後の23年4月1日以降の雇用契約は締結しないという、それまでの更新時になかった条項が契約書に盛り込まれた。雇い止めの通告だった。男性は条項への同意を拒んだが、4月上旬、同じ内容でサイン不要の「雇用条件通知書」が渡されたという。
男性ら3人の研究者は同年、雇い止め通告の取り消しを求め、相次いで理研を提訴した。すると、理研は方針を一転し、「理事長特例」で3人を23年4月以降の2年間、再雇用することを提案した。ただし、男性が求めたチームリーダーとしての雇用は拒否した。
男性はやむなく提案を受けいれたが、「上級研究員」に降格されたことで年俸は3割減少。さらに、自身の研究チームがなくなり、大学との共同研究もできなくなるなど、研究活動にも大きく支障が出た。
そこで最初の訴訟を取り下げ、23年7月に新たに起こしたのが、地位確認と損害賠償を求める今回の訴訟だった。
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