「農協」の素顔――組合員1000万人の大組織を徹底解剖
2015年JA全中解体とはなんだったのか。あまりに多くの問題を抱える日本の農業はこれからどうなるのか。わかりやすく解説する。

1章 なぜJAは狙われたのか

1 JAとは何なのか

■農業者のための協同組合

 私たちはいたるところでJAを見かける。山間部だけでなく、例えば東京都世田谷区や神奈川県横浜市のように、農業とは無縁に思える都市部にもJAは存在する。「JAってこんなところにもあるの?」という違和感を覚えたことのある読者も、もしかしたらおられるかもしれない。このJAとは、はたしてどのような存在なのだろうか。

 まず押さえておきたいのは、JAが農業者による協同組合、農業協同組合である点だ。当たり前に思えるかもしれないが、これは20142015年の農協改革を理解する上でも重要なポイントだ。以下、確認しておきたい。

 農協とは、一言でいえば、農家が互いに助け合うための仕組み、特に、農畜産物やその生産に必要な物資を、まとまった量、有利な価格で取引するための組織である。農家が集まり出資し合って農協を設立し、農畜産物を共同で販売したり、肥料や農機を一括購入したりするのだ。例えば、肥料を単独で購入しようとすれば購入量の少なさから高く買わざるをえないことがあるかもしれない。コメを売ろうとする場合にも、単独で交渉を行えば、不利な価格しかつかないかもしれない。それを避けるため作られたのが農協だ。

 地域農協(単位農協とも呼ぶ)は、201571日現在で、全国に679存在している(図表11)。農林水産省によると、1960年度末の地域農協数は12050だったが、経営基盤を強化するための合併が進み、大きく減少した。現在も合併は進んでおり、県によっては一つの地域農協しかない。

 農協は15人以上の農業者が発起人となって設立される。農家が出資して作った組織なので、当然、運営を担うのも農家で、最高意思決定機関は組合員による総会だ。株式会社における株主総会のようなものだと理解すればよい。ここで年度の事業計画など重要事項が決まる。農家である正組合員が500人以上の農協は、組合員の代表で構成する総代会を総会の代わりに置くことができる。

 農協と株式会社の大きな違いは、議決権の分配の仕方にある。株式会社の議決権が、原則として保有株式の量に応じて配分されるのに対し、農協の議決権は11票制になっているのだ。よって、株式会社では大株主の主張が経営により反映されやすくなるが、農協の場合はすべての農家組合員の扱いが平等になる。具体的な事業の意思決定をするのは理事会で、これは株式会社の取締役会のような位置付けだ。農協によっては、経営方針を決めたり重要事項の判断を下したりする経営管理委員会を置き、理事会は日々の業務執行を担う機関となっている場合もある。

 実はJAの組合員は農家だけではない。正組合員は農家組合員だが、非農家の准組合員も存在する。准組合員は、金融やスーパーマーケットなど農業以外の事業を自由に利用することができるが、議決権を持つのは正組合員のみで、准組合員は経営に関する重要事項の決定に関わることができない。現在は正組合員よりも准組合員の方が多くなるという逆転現象が起きており、この構造は、現在の、そして今後のJAの在り方を考える上で非常に重要なポイントになっている。

 また、地域農協は組合員のための組織だが、正組合員や准組合員でなくても事業を利用することができる。ただ、利用には規制がかけられていて、それは員外利用規制と呼ばれている(図表12)。例えば、貯金の受け入れの場合、非組合員からの受け入れ総額が、組合員からの受け入れ総額の25を超えてはならない。農家以外の人が制限なしに自由に地域農協を利用するには、一定金額を出資して准組合員になればよい。求められる出資金額は地域農協によってまちまちだが、1000円程度で済むところもある。

 農協をめぐるルールは農業協同組合法(農協法)や政省令で定められている。農協法とは地域農協、全国農業協同組合連合会(JA全農)や都道府県経済連をはじめとした連合会、JA全中や都道府県中央会を設立する方法や事業内容を定めた法律だ。本書で扱う農協改革の議論は、2015年の通常国会に提出された同法改正案をめぐる顚末であった。

■農業関連事業と金融事業

 地域農協は様々な事業を手がけている。以下、主な事業を紹介しよう。

◉農業関連事業

 代表的なのが、農畜産物を販売する事業だ。組合員が生産したコメや野菜、果物、牛肉・豚肉などを集めて、卸売業者や小売業者に売る。農協は農家から販売委託を受けるのだが、それを流通業者に直接売ることはまだそれほど多くはなく、全国の農畜産物関連事業を束ねるJA全農へと再委託したり卸売市場で販売したりするケースが多い。

 農協の取扱高は、市場の縮小とともに減少傾向にある。農水省の「総合農協統計表」によれば、主要産物のコメの場合、1985年度の農協取扱高(販売手数料除く)は25273億円(総産出額の約66)、それが、2012年度には9528億円(同約47)にまで縮小した。依然、コメの国内流通の半分近いシェアを握る大きな存在ではあるが、JAグループにとって、今後、取扱高を伸ばすことは、重要な課題となっている。

 肥料や農薬、飼料、農機といった生産資材を組合員に売る事業も、同様に重要だ。各地域農協が組合員からの注文を受けて、JA全農などに集約し、メーカーと価格交渉した後に、各地域農協を通じて組合員へと売る。農水省によれば、この事業でも取扱高が減少している。1985年度には約33726億円だった取扱高が、2012年度には約2667億円にまで落ち込んだ。ホームセンターが安い資材を販売し、競争が激しくなっていることが背景にある。

◉金融事業(信用、共済)

 農業関連以外で有名なのは信用事業だ。各地の農協による貯金や貸付などの事業を指し、原則として、個別の組合ごとの独立採算制を採っている。グループの信用事業の総称をJAバンクという。組合員や地域住民から貯金を集め、農家組合員が農機を購入する際などに費用を貸し付けるという、銀行と同様の事業を行っている。近い分野でこちらもよく知られている共済事業は、生命保険会社や損害保険会社が扱う保険に似た「共済」を扱っている。グループの共済事業の総称がJA共済だ。

 JAバンク、JA共済の規模は、メガバンクや大手保険会社と比較しても引けを取らない。例えば、20143月末時点で、全国のJAバンクの貯金量合計は、約915000億円にもなる(JA全中「JAファクトブック2015」)。同時期の三井住友銀行とみずほ銀行の預金残高は、それぞれ約982000億円、約979000億円(単体、各行のディスクロージャー誌)だ。

 また、JA共済の生命総合共済の保有契約高が約145兆円なのに対し、日本生命保険は約172兆円、第一生命保険は約137兆円となっている(ディスクロージャー誌)(図表13)。

 金融事業は地域農協の事業の中でも特に好調で、多くの地域農協が、農業関連事業の赤字を信用・共済事業の黒字で穴埋めしている。この経営構造は、農家の組織という農協の設立趣旨から外れるのではないかと、以前より問題視されてきた。

◉その他事業(小売りなど)

 地域農協ではこのほか、地方を中心に、スーパーマーケット「ACOOP」やガソリンスタンドなどの経営も手がけ、地域住民の重要なインフラとなっている。

 このように幅広い事業を手がけているため、JAは総合農協と呼ばれ、酪農や青果物など特定の農畜産物を専門的に販売する専門農協とは区別される。JAの経営形態が独特なのは、信用・農業関連事業を担っていた産業組合という組織と、農業指導をしていた農会という組織に端を発することが影響している。ちなみに両組織は戦時中に統合されて農業会という組織に再編され、農村統制を行う機関となった。農業会は戦後、連合国軍総司令部(GHQ)により解散させられ、現在の農協に再編された。

■地方型農協と都市型農協

 各地で営まれる農業が千差万別であるように、地域農協の事業構造も、実に多様だ。ここでは、地方の農協と大都市の農協にパターンを絞って、大ざっぱに理解してみたい。それぞれの組合員構成や事業別収益を確認する。

◉地方

 徳島県南部、阿南市にある「JAアグリあなん」は、典型的な地方型農協だ。主な取扱農産物はコメ。営業エリア内で栽培する特産品「木頭ゆず」を欧州向けに輸出するといった取り組みも進めている。2013年度末の組合員(個人・法人)は14436人で、うち正組合員(農家組合員)が11067人、残りの3369人が准組合員(非農家組合員)だ。

 2013年度の部門別損益計算書を眺めると、農産物販売や生産資材販売といった農業関連事業が経営の中心にあることがわかる。事業の売上高に当たる事業収益は、農業関連が319546万円で、全体の約53を占める。信用が76650万円で約13、共済が5446万円で約8%だ。

 これが事業利益になると様相が変わり、信用が19208万円、共済が7173万円と、農業関連の3086万円を上回っている。さらに、利益を生まない営農指導費用を組み入れると、農業関連事業の利益は2382万円のマイナスになってしまう。

◉大都市

 大阪市平野区に本店を置く「JA大阪市」は、日本有数の大都市を営業エリアとする、都市型農協だ。コメや花を取り扱っているが、エリア内の農業自体が小規模で、信用、共済に大きく依存した経営構造だ。組合員の構成をみても、2013年度末の18595人のうち、准組合員が17639人と大半を占め、正組合員は956人しかいない。

 部門別の事業収益は信用が258741万円、共済が78449万円なのに対し、農業関連は9751万円にすぎない。特に信用への依存が際立っており、事業収益全体に占める割合は約68となっている。事業損益をみると、信用は26203万円の黒字、共済が23333万円の黒字だが、農業関連は8863万円の赤字となっている。

 金融事業への依存体質は多くの地域農協で共通しているものの、それぞれの地域のカラーを反映した収益構造になっており、ひとくちに地域農協とくくるにはあまりにも違いがありすぎる。言うまでもなく、この2パターンに当てはまらない地域農協も多い。農協の改革を考える際にも、具体的な施策については地域ごとの検討が必要で、これはJA全中を中心としたJAグループの中央集権的な構造を改革する動機の一つとなっている。

第1章 なぜJAは狙われたのか(2)

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