「穀物栽培によりホモ・サピエンスが失ったものも、また多かった」
傷の湿潤療法の創始者で糖質制限ブームの陰の火付け役・Dr.夏井の待望の書!文明発祥や哺乳類誕生の秘密にも迫る。

  やってみてわかった糖質制限の威力

1 体型が学生時代に逆戻り!

 2011年の暮れから翌年5月にかけて、個人的に一大事件があった。なんと、半年ほどで11キロも痩せたのだ。

 最初のころは、「そういえばズボンがゆるくなってちょっと体重が減ったかな?」という程度のものだったが、久々に体重計に上がってびっくりした。70キロの大台に近づいていることがわかってから、徐々に増大する体重を自覚するのが嫌で体重計に上がらないようにしていたのに、なんと59キロなのである。わが目を疑うとは、まさにこういう時に使う言葉だろう。

 思い起こせば、医学部入学当時は55キロくらいだったのが、医者になり、結婚し、同僚との宴会が増え、それに歩調を合わせるかのように体重も順調に増え、気づいたら70キロである。59キロなんて数字にお目にかかるのは20年ぶり、いや30年ぶりだ。

 糖質制限の具体的な方法については後ほど詳細に説明するが、当時、私は単身赴任生活だったこともあり、その数年前から、「朝はオールブランなどのシリアルだけ、昼は売店で買ったお弁当、夜はビールや日本酒を飲みながら野菜炒めと焼き魚、主食なし」という食生活を続けていた。今考えると、意図せずに「なんちゃって糖質制限」をしているようなものだったのだ。だが、「上半身は貧弱なのにお腹だけぽっこり」という、人前で裸になりたくない情けない体型であり、体重は70キロ近くをキープし続けていた。何気なく食べていたものに、けっこう糖質が含まれていたのだろう。

 ところがそのころ、インターネットでこう先生(京都・高雄病院)の記事を読み、ものは試しと昼食のお弁当のご飯を半分残し、その後は3分の2を残しと、次第にご飯の量を減らしてみたのだ。20111010日ごろのことである。

 するとその2週間後、知人が、「お腹がへこんだよね。痩せたよね」と声をかけてきたのだ。あとで聞いてみると、周囲の人たちは私が痩せたのに気がついていたが、何しろ当時の私は54歳である。50代半ばで急激に痩せたとなったら、理由はほぼ確実に、ガンか何かの病気と相場が決まっている。そのため、みんな遠慮して「先生、ちょっと痩せました?」と声をかけづらかったそうだ。

 だが、1月初めからは昼食のご飯をまったく食べなくなり、同時に夕食時に1杯だけ飲んでいた日本酒も、飲むのを止めて焼酎に切り替えた。すると、1月中旬には、体重が66キロに減っていたのだ。数年ぶりに再会した66キロという数字である。

 2月初めには、ベルトは穴2つ分、細くなり、きつくて着られなかったスーツが10年ぶりに楽に着られるようになった。そして2月下旬には、これまた10年ぶりくらいにジーンズが30インチになり、5月中旬には体重は59キロになり、ジーンズを29インチのものに買い換えた。59キロで29インチといえば、医学部卒業時の体型ではないか。

2 高血圧も高脂血症も自然に治っていた

 しかもこのころ、さらに大きな変化があった。高血圧がいつの間にか治っていたのだ。

 じつは私は、40代半ばごろから、次第に血圧が上がり始め、50歳前後から150100㎜Hgという立派な(?)高血圧患者だった。

 しかし、「医者のくせに高血圧を放置するなんて、何を考えているんですか?」と医者にしつせきされるのが嫌だったため(私が内科の医者で、私みたいな患者がいたら、絶対に叱りつける)、仕事が忙しいことを口実に、数年間、未治療のまま放置していたのだ。

 とはいっても、治療が必要なレベルの高血圧であることは、医者だから十分に知っているし、このままだとかなり危なそうなこともわかっている。それどころか、血圧上昇に歩調を合わせるかのように、血液中の中性脂肪もLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)も上昇し、どう見ても立派な高血圧症+高脂血症患者であり、そろそろ治療しないとマズイことになりそうなことも明らかだった。

 そんな私が、糖質制限開始から5カ月目に、何気なく血圧を測ってみたら、12482㎜Hgとまったく正常になっていたのだ。この間、私がしたことといえば、昼食のご飯を食べなくなったことと、日本酒を飲まなくなったことだけである。降圧剤も飲まず、運動もしていないのだ。

 そして同時に、中性脂肪やLDLコレステロールの値も正常化していた。ところがこの間、唐揚げもフライも、以前よりたくさん食べていたのである(後述するように、糖質制限では脂肪とタンパク質は好きなだけ食べられる)。

 現在の医学の常識でいえば、血液中の中性脂肪を減らすには、脂肪と摂取カロリーを減らすのが常道なのに、私の食生活は、カロリー制限なし・脂肪摂取制限なしで、中性脂肪もLDLコレステロールも低下したわけだ。

 これはどう考えても、「医学の常識」が間違っていると判断せざるをえなくなってくる。

 こんなことから、私は糖質制限の世界にのめり込んでいった。常識を疑うことが三度の飯(もちろん、このころの私は「三度の飯」どころか「飯」は一粒も食べなくなっていたが)より好きだったからだ。

3 昼食後に居眠りしなくなった

 糖質制限をするようになって、ふと気がついたのは、「昼食後に眠らなくなった」ことだ。それまでは、「昼食を食べて眠り、午後の仕事に備える」のが、あたりまえというか日課だった。食後に眠るのはあまりに日常的であり、他の医者もみな寝ているため、それが普通だと思っていた。

 だが、どうやらそれは「普通」ではなかったのである。

 どこの医局もそうだと思うが、午後の医局や談話室などは、居眠りオッサンばかりである。ソファの上に横になって熟睡している医者、自分の机にうつ伏せになって眠っている医者、椅子に座り背もたれに寄りかかって眠り姫状態の医者など、みんなさまざまな格好で夢の世界である。なかには、ソファの上で豪快なイビキをかいては、睡眠時無呼吸発作をくりかえしている医者までいる(今思い起こすと、無呼吸発作で呼吸が止まっていた医者はみな、見事なまでに肥満体型だった)。

 ところが、昼食のお弁当のご飯を食べなくなってからは、食後にまったく眠くならないのだ。頭がすっきりしたままというか、眠気が襲ってこないというか、そういう状態がずっと続くため、眠る必要がないのだ。

 眠くならなければ起きているしかなく、せっかく起きていてもそこは病院だから、仕事をするくらいしかすることはない。かくして、糖質制限を始めてから、「昼食後の1時間の居眠り」がなくなってしまった。つまりそれは、「日中の時間が1時間増えた」のと同じだ。

4 二日酔いがなくなった

 しかし、この「昼食後の1時間分の昼寝」という、医者になってほぼ毎日の習慣と化していた睡眠がなくなることで、その分どこかにしわ寄せがくるのではないだろうかと心配にならないだろうか。私もちょっと心配したが、どこにもしわ寄せはこなかった。

 昼食後に眠くならないまま夕方までずっと仕事をして、その後、いつもの居酒屋さんで夕食(野菜炒めと焼き魚、1杯のビールとその後は焼酎)を食べて帰宅しても、眠気はおそってこないのである。その後は、焼酎水割りやウイスキーのハイボールを飲みながら仕事を続け(ちなみに酒のつまみは一切食べない)、午後11時すぎにスイッチが切れたようにベッドに倒れ込んでこんこんと眠り、翌日朝5時に何事もなく起床(年寄りは朝の目覚めが早いのだ)するだけだった。何日続けても、このパターンが続くだけで、不眠症になるわけでもなければ睡眠障害が起こるわけでもなく、その他の不愉快な症状も見られないのである。

 それどころか、朝の目覚めが非常にさわやかなのだ。二日酔いしなくなったからだ。具体的に言えば、胃のムカツキと吐き気という、二日酔いの不快な消化器症状がないのである。酒量が過ぎれば、朝起きても「酒が残っている」症状はあるが、消化器症状はかいなのだ。

 ようするに、飲酒量は減らしていないのに、二日酔いだけが消失したのだ。

 私は20歳になる前から酒の味を覚え(もうすでに時効成立と思うが)、以来、30年以上酒を飲まない日がないという休肝日なしの酒好き人間だが、糖質制限を始めてから、ものの見事に二日酔いをしないのである。二日酔いがないから、「スッキリ爽やか」な目覚めなのだ。

 じつは、糖質制限を始めたころ、宴会のシメのぞうすいがあまりにしそうだったので(目の前のふぐ鍋の雑炊を我慢できる人はそうそういないと思う)、それを茶碗1杯食べたところ、翌日に猛烈な二日酔い症状に苦しんだことがある。韓国のチゲ鍋でシメに入れたインスタントラーメンを食べた時も、寿司屋の宴会で最後にお寿司を1人前食べた時も、申し合わせたように翌朝は二日酔いになった。ようするに、二日酔いになるかならないかは、飲んだ酒の量ではなく、糖質を食べたかどうかだけなのである。

 これは医学的にも説明できる。

 食物が胃袋に留まっている時間のことを、胃たいりゆう時間という。一般的には、胃滞留時間の短いものを「消化がよい食べ物」と呼んでいる。

 では、肉・魚とご飯・麺類では、どちらが胃滞留時間が短いだろうか。

 一般的には、「ご飯や麺類は消化がよい。しかしお肉は消化に悪い」と言われているが、これが大間違いなのである。肉や魚などのタンパク質は、胃酸で速やかに消化されて小腸に送られるため、胃滞留時間は数十分程度である。逆に、ご飯や麺類は胃酸では消化されず、いつまでも胃のなかに留まっている。

 ようするに、「ご飯やうどんは消化によい」と世間にしている常識のほうが、間違っているのだ。

 このことは、消化器内科や消化器外科の医者なら、日常的に実感しているはずだ。

 たとえば、緊急内視鏡検査では、普通に食事をしたあとの状態の胃のなかを見ることになるし、十二指腸かいよう穿せんこうで急性腹膜炎が起きた時には、緊急開腹術が行なわれ、胃袋を切開することになる。

 そんな時、きまって目に入るのは、米粒と麺類と野菜だ。しかし、ステーキを食べた直後でも、肉のかたまりはどこにもないのだ。かき消したように肉は姿を消している。

 これは一般の人も目にすることができる。でいすいして吐いている人のゲロを観察してみてほしい(もちろん、頼まれても見たくないものの一つがゲロであるが)。

 ゲロの中身は米粒、麺類、そして野菜だけであり、肉の姿はどこにもないはずだ。ついさっき、焼き鳥や唐揚げを食べていたのに、それらはどこを見ても見つからない。ようするに、胃袋のなかの肉や魚はすみやかに姿を消すのに対し、いつまでも居座っているのはご飯と麺類、つまり糖質なのである。

 ここで話を二日酔いに戻す。

 宴会で、「シメの雑炊・うどん」や、「酒のあとのラーメン」を食べたら何が起こるだろうか。そう、雑炊のご飯や麺類は何時間も胃袋に居座り続け、その間、胃袋はそれらを消化しようと胃酸を出し続けるはずだ。午後11時に「シメの雑炊」を食べ、自宅に戻って12時に寝たとしても、おそらく午前3時か4時までは胃酸は出続けているのだ。

 そして翌朝、目が覚めた時、逆流性食道炎特有の胃もたれ症状と、胃部の不快症状に悩まされるのだろう。

 逆に糖質制限の場合、夜11時までステーキと焼き鳥を食べたとしても、30分後には胃袋は空っぽ状態になるから、胃酸はそれ以上出ず、朝起きた時も、逆流性食道炎のような症状は起きないと説明できる。

「酒のない 国に行きたい二日酔い また三日目には帰りたくなる」という江戸狂歌がある。

 まさに、酒飲みの心の内を代弁してくれる名歌(?)であるが、糖質制限を始めたことで毎日二日酔い知らずになり、「酒のない国に行きたい」と思うこともない。

 酒飲みというのは、酒は好きだが、二日酔いは大嫌いな生き物だ。しかし、酒と二日酔いは不可分の存在だと思っていたから、二日酔いになるとわかっていても、酒を飲んできた。

 しかし、二日酔いの原因は、酒ではなく、糖質だったのだ。つまり、糖質さえなくしてしまえば、酒と二日酔いは分離でき、「酒を飲んでも二日酔いにならない」という、酒飲みにとっては天国のような理想の状態になる(もちろん、飲みすぎれば酒が残り、頭痛には襲われるが)。

5 睡眠時無呼吸が治った

 もう一つ、自然に治ってしまったのが、イビキと睡眠時無呼吸症候群だ。

 以前は両方ともひどく、隣の部屋で寝ていても、「うるさい」「呼吸が止まって怖い」と家族に文句を言われるほどだったが、糖質制限をして10キロほど痩せてからは、イビキが少なくなり、無呼吸になることもなくなったようだ(……もちろん、伝聞証拠ではあるが)。

 睡眠時無呼吸の原因には、肥満をはじめとしてさまざまな原因があげられているが、私の場合、体重が10キロ減っただけで睡眠時無呼吸の症状がなくなったのだから、原因は単なる肥満だったと見るべきだろうし、イビキの原因も肥満だったと思われる。

 睡眠時無呼吸がなくなったことは、自分でも自覚していた。夜中や早朝に悪夢を見て目が覚める、ということがなくなったからだ。体重70キロ時代には、とても怖い夢を見て真夜中に目が覚めることが少なからずあった。今考えると、あの時は呼吸が止まっていて、さんの川の渡し舟に片足をのせていたのかもしれない。とても心臓によくない目覚め方である。

 しかし、糖質制限で体重が減ってからは、そういう「恐怖の目覚め」がなくなった。その結果、朝に自然に目が覚めるまで、ぐっすりと熟睡するようになったし、寝覚めもすっきり爽やかになったのかもしれない。たぶん、睡眠時無呼吸のために睡眠が中断されなくなったためだろうと思う。

Ⅰ やってみてわかった糖質制限の威力(2)

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