日本は、人口減少時代に突入している。
5年に一度実施されている国勢調査によると、2010年度まで少ないながらも増加してきた総人口が、2015年度の調査で初めて減少に転じ、前回調査時点の2010年度よりも100万人近く少ない1億2709万人となった(図1)。
そして、日本の労働力人口(15歳以上で、仕事に就いている、または求職中の人の数)は、総人口に先がけて1998年にピークを迎えてから減少を続けている(図2)。2015年平均では1998年のピーク時と比較して200万人少ない6598万人となっている。
四国地方全体の労働力人口が191万人(2015年時点)であるから、この15年程度の間に、四国分の労働力が日本から消えてしまった事になる。
今後、総人口と労働力人口が減り続けることは避けられないが、どのくらいのペースで減少していくのか、具体的な数字を見てみたい。
国立社会保障・人口問題研究所が行っている推計では、日本の総人口は、2020年には1億2410万人、2030年には1億1662万人になるという。また、国連が世界各国の人口推計を発表している。長く世界10位の人口数だった日本は、2015年にメキシコに抜かれて11位(図3)、2030年までにはフィリピンとエチオピアに抜かれると予想されている。
また、人口が減っていくだけでなく、人口の構成も変わっていく。日本は世界で最も高齢化が進んでいるが、この先高齢化は更に深刻化する(図4)。
一般に、65歳以上が人口に占める割合が7%を越えると高齢化社会、14%を越えると高齢社会、21%を越えると超高齢社会と呼ばれる。日本は1994年に高齢社会に、2007年に超高齢社会に突入した。2015年現在、超高齢社会に分類されるのは、世界で日本、イタリア、ギリシャ、ドイツの4カ国のみである。
現在、日本において65歳以上が占める割合は約4人に1人(26・3%)であるが、2030年には約3人に1人(31・6%)になると予測されている。
一方、労働力人口については、労働政策研究・研修機構が推計している。経済はゼロ成長、労働参加(すなわち各年齢層で働いている人の割合)もこれまでどおりの、いわゆる現状維持のシナリオを想定した場合、2020年に6314万人、2030年には5800万人まで縮小する(図5)。2014年度の実績値に比べれば、2030年までの約15年の間に700万人強の労働力を失うことになる。労働力人口が最も多かった1998年から2015年までの約15年間に四国地方相当の労働力が失われたが、次の15年間ではさらに東海地方の労働力人口相当が失われる。
特に若年層(15~29歳)の労働力人口の減少が急速に進み、2014年に1106万人だったのが、2020年には1043万人(約6%減)、2030年には947万人(約14%減)にまで減ってしまう。
今後、労働力人口が減少を続ける状況は、政府も当然意識しており、現在労働に参加していない女性や高齢者の労働参加を促すことが考えられている。第3次安倍政権において、アベノミクス第2ステージという位置付けで「一億総活躍社会」の実現を目標とし、新・三本の矢「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を設定した。出生率の向上や育児・介護を理由に休職・離職する人数を減らす施策を打っていく取りまとめのために、一億総活躍国民会議が設置された。
この一億総活躍社会構想が順調に進み、労働参加率が増加したとして、一体どれだけの労働人口が確保できるのだろうか。先ほど紹介した労働政策研究・研修機構が発表している推計のうち、経済成長が回復して実質2%の水準になった上、若者や女性、高齢者等の労働市場への参加が進むという楽観的な前提において、2014年時と比較して、2030年までに225万人の労働人口が減少すると試算されている(図6)。これは、女性がスウェーデン並みに、出産・子育ての世代も働き、いわゆる高齢者が5年長く働いたとしても、日本は今より少ない労働力で日本社会を維持しなければならないことを意味している。
この様に、働き手の数が減り続ける中、世間では人手不足の問題が取りざたされるようになった。人手不足が深刻化している産業の一つである小売業界では、人手確保のために企業が様々な打ち手をくり出している。
特に人手の確保が難しくなっている東北地方で21店舗を展開するイオンスーパーセンターは、2016年春から、店長を含む店舗の管理職に在宅勤務を認める人事制度を本格導入した。店舗で勤務する管理職に在宅勤務を取り入れるのは、小売業では異例である。この様に、多様な働き方を可能にしなければ、人手を確保できないのが現状である。
また、企業が海外の働き手を確保しに行く取り組みもある。ローソンはベトナムにおいて、現地の人材教育機関と連携し、日本への留学予定の学生に対してコンビニエンスストアの業務等を学ぶ研修所を開いた。来日1カ月前からコンビニのレジ打ちや接客の研修を受けてもらい、来日後、留学先に近いローソンの店舗でのアルバイトを紹介する。この様に、国内で確保できない働き手については、企業が自ら海外に探しに行かなくてはならない。
ビジネスの現場における、人手不足の実態は数字にも表れている。
厚生労働省が発表している一般職業紹介状況を見ると、平成28年6月の有効求人倍率(季節調整値)は1・37倍と、平成21年以降増加を続けている(図7)。イオンとローソンの例を紹介した小売り(商品販売の業種)では倍率は更に上がって2・1倍だった。その他の有効求人倍率が高い職業を見ると、外食業(接客・給仕の職業)で3・7倍、介護サービスで3・5倍、建設業(建設軀体工事の職業)で8・6倍となっている(図8)。
また、企業が人手不足を感じているかを測る指標としてよく用いられる日銀短観においても、同じ様な状況が見て取れ、継続して人手不足が続いている事がわかる(図9)。産業別の数値を見ても、全ての産業においても働き手が足りていないと感じているという結果になっている。
足下の人手不足は「アベノミクス等の影響で一時的に景気が回復傾向になったため人手不足感が出ているのでは」という声を耳にすることがある。また、「総人口の縮小に伴って日本経済も縮小していくのであれば、経済を支えるのに必要となる労働力も減って、中長期的には人手不足にはならない」と考える人もいるかもしれない。
しかしながら、我々は現在世間で感じられている人手不足は中長期的に継続する上、日本にとって深刻な、構造問題と捉えている。
特に有効求人倍率が高く人手不足が深刻とされている建設業界を例に、説明してみたい。
まず、今後どれだけ住宅が建築されるのかという、需要サイドの話がある。2015年度の国内新設住宅着工戸数は約92万戸であった。1990年代には百数十万戸で推移し、2009年度に77万戸台まで落ち込んだ後に回復してきたものの、依然として100万戸には届かない。日本の総世帯数も2019年にピークアウトするとの予測に加え、消費増税の影響などを考慮した推計では、2030年度における新設住宅着工戸数は大幅に落ち込んで、約53万戸となった。
次に、供給サイドの建設技能労働者として、大工人口を取り上げる。野村総合研究所(NRI)は、2010年に40・2万人いた大工人口が2020年に23・4万人、2030年には14・2万人まで減少すると予測している(図10)。確かに、需要サイドも減少するが、供給サイドはそれより速いスピードで減少するのである。結果、2030年に大工1人が手がける戸数は2010年の約1・5倍になり、建設業界で大幅な生産性の向上が実現しない限り、需要に対して人手が不足する。もしくは、需要はあっても、家が建てられない事も起こりうるのである。
つまり、現在の人手不足は一過性のものでなく、今後も継続する構造問題なのである。
大工人口が減少を続ける要因として、そもそも若者の人数が減っている上に、若い世代が大工という職業を選ばなくなっていることが挙げられる。
15~19歳層、20~24歳層に占める大工人口の構成比は、過去25年間で最も高かったのは1995年で、それぞれ0・23%、0・54%であった。それが、2010年時点でそれぞれ0・04%、0・16%まで減少している(図11)。
こうした若者離れは、建設業界だけで起こっているわけではない。厚生労働省のデータで、産業別若年労働者割合の変化を見ると卸売業・小売業、運輸業・郵便業、医療・福祉(ヘルスケア)分野において、平成21年から平成25年にかけて若年層(15~34歳)の割合が減っている(図12)。
若者離れがこれらの業界で進んで採用が一段と難しくなる一方、労働力はほぼ全ての産業で不足していく。
パーソル総合研究所は、2025年に日本が経済成長率0・8%を維持するために必要な就業者数と、日本の就業者数の推移を推計し、その差分を算出した。結果は、製造業と政府サービスを除けば、全ての産業で人手が不足するとの予測であった。特に情報通信・サービス業における人手不足が深刻になり、また事例でも紹介した建設業や小売業においても、数十万~200万人弱の労働力不足となっている(図13)。
日本の労働力不足は、長期的な構造問題として存在し、今、日本社会はその対応を迫られているのである。
これまでの議論で、今後日本の労働力人口は減少を続け、人手不足が日本経済にとって長期的な課題となることはわかっていただけたと思う。ここからは、日本社会が人手不足とどう向き合っていくのか、図14をもとに考えたい。
必要な仕事を担うだけの人手が足りていないのであれば、何かしらの方法で労働力を補充する必要がある。その一つの解として考えられるのが、人工知能やロボットを始めとしたテクノロジーを活用し、仕事を自動化し、必要とする人手自体を減らす、という選択肢である。我々は、人工知能やロボットも含めたこの選択肢をデジタル労働力(Digital workforce:D-wf)と呼びたい。
ところで、そもそもデジタル労働力(D-wf)は、人の仕事の代わりができうるのだろうか。実際にはすぐにでも代わりができる職業と30年経ってもできなさそうな職業があり、一緒くたの議論は危険である。その議論を深めるため、野村総合研究所では2015年に、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授とカール・フレイ博士との共同研究を行い、日本における601の職業ごとの自動化可能性を算出した。共同研究の内容については、第3章以降で詳しく述べる。図14の右上象限に当てはまる様な、人手不足が深刻で、技術的に代替可能性の高い職業については、デジタル労働力(D-wf)の活用=自動化によって人手不足の解消が期待できる。
一方で、人手不足は深刻であるが、人工知能やロボットによって自動化が難しい仕事(図14の右下象限)については、今後も継続して人の手が必要になる。もし、これらの職を担う人手が国内で確保できないのであれば、外国人労働力(Foreign workforce:F-wf)、すなわち外国人労働者を受け入れて労働力不足を補う手段を考えざるを得ない。外国人労働者としては、既に日本で実質的な労働力として活躍している技能実習生から、高度人材までも含んだ議論が必要となる。
図14の左上の象限は、職を自動化する技術は存在している、または中長期的に自動化できる可能性が高いが、労働力不足が深刻でない業種である。この場合、人手を削減して得られる効果が、自動化するための機器やシステムの導入コストに見合わないため、投資が行われずに今後も人手に頼り続けることになるだろう。自動化を進めていくには、技術的に可能かという判断だけでなく、コストに見合うメリットが得られるか、という観点も考える必要が出てくるのである。
最後に、左下の象限の職については、労働力不足が深刻でなく、自動化可能性も低い職種であり、問題として顕在化しないだろう。
もう一つ重要なことは、労働力不足の結果、D-wfまたはF-wfで代替できるかどうかにかかわらず日本はある程度のサービスレベルの切り下げを許容することを求められることになる。これは、労働力不足が解消されなければ明らかである。
外食や小売業界においては人手の確保が難しく、店を早く閉めたり、定休日を増やす等の対応を実施する飲食店が既に世の中に出てきている。たとえば、首都圏を中心にスーパーを展開するオオゼキは、2015年10月に7店において閉店時間を1時間早めた。東武ストアでは、この2年間程度の間に24時間営業を中止した店舗が20を超える。24時間営業でいつでも欲しいものが買えるサービス水準に慣れている日本の消費者は、その期待値を下げて、店が開いている時間に買い物をする必要が出てくる。
また、たとえテクノロジーや外国人労働者で労働力不足が解消したとしても、これまでどおりのサービスが受けられるわけではない。人中心でサービス提供が行われていた接客やレジはロボットに置き換わり、これまでどおりの人による柔軟性の高いサービスは受けられなくなるだろう。そんな世の中では、人によるサービスを受けるためには追加でサービス料金を支払うことが必要となり、人によるサービスは富裕層のみが受けられるサービスへと変わって行く。また、外国人労働者が増えれば、流暢な日本語でサービスを受けることが一般的ではなくなり、片言の日本語や英語で日頃からコミュニケーションを取ることが日常になっていく。
つまり、労働力が補充できなければ、より一層のサービスの引き下げが必要となり、また外国人労働者やテクノロジーによって労働力を確保できたとしても、サービス提供側の変化に合わせて日本人のサービスの受け方も変化していくことを、日本全体が受け入れる必要がある。第2章では、労働力不足を補う一つの解決策としての外国人労働者の将来について掘り下げたい。
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