トランプのことが知りたくて、共和党選挙ボランティアになってみた
アメリカに渡って共和党のボランティアになってしまえば、トランプ支持者たちの実像に迫れる――。ユニクロ、Amazonの「潜入」でおなじみ、ジャーナリストの横田さんがトランプ選挙に大潜入。突如発生したコロナパンデミック、BLM運動、そして議事堂占拠の大混乱に巻き込まれながら「赤い帽子」をかぶり、専用アプリをスマホで操作、のべ1000軒以上の戸別訪問で声を聞いたアメリカの本音。歴史的な2021年アメリカ大統領選「体当たりレポート」。
← 左にスクロール
シェア ツイート

1回 激戦州ミシガンで共和党選挙ボランティアとなる

「なぜボランティアをしようと思ったの」

 ミシガン州の共和党事務所は、2階建てのこぢんまりした建物だった。どこの町にもありそうな図書館ほどの大きさ。

 選挙のボランティアになるために訪れた私が通されたのは、1階の会議室だった。

 壁は象の置物であふれていた。鼻を持ち上げた象のマグカップが色違いで6個。それぞれの鼻を持ち上げた3頭の象が、その鼻が円球を支えている置物――。

 そうだった。民主党のシンボルはロバで、共和党のシンボルは象だった。

 今でも米国民に根強い人気を持つ共和党のリンカーン大統領の人形もあった。首都ワシントンの連邦議会議事堂のプラモデルも飾られていた。

 州都ランシングにある共和党の事務所に私が初めて足を運んだのは、2020123日のこと。アメリカ中西部の田舎町であるランシングは、数センチの雪で覆われており、路肩には除雪車によってかき集められた雪が積まれていた。

 私が1年以上にわたるアメリカの取材拠点を探すため、ネットで下調べをしていた時、この共和党の事務所の存在を知り、その位置を確認していた。

 アメリカにやってきたのは1912月中旬。ここでボランティアをすることを見越し、この事務所から車で10分のところにアパートを借りた。

 全米を回り正攻法で大統領選挙を取材するのと並行して、ミシガンに軸足を置き、共和党のボランティアとして戸別訪問をすることでトランプ支持者の実像に迫ろうと考えたからだ。

トランプ支持の旗が立つ支持者の家

 ボランティアに応募するため1カ月以上かかったのは、身分証明書となる運転免許証を取るのに時間がかかったからだ。パスポートを使うという手もあったが、私のパスポートには5年間有効のジャーナリストビザが貼られている。それに気づかれる心配はほとんどなかったが、念には念を入れ、運転免許証が取れるまで待った。

 ボランティアの取りまとめをする担当者が現れるまでの10分間、私は部屋の中をあれこれと見て回っていた。

 身長170センチ強のコービー・トンプソンが部屋に入ってきた。あごひげを蓄えているせいか、30代に見えたが、大学を出たばかりだという。金髪碧眼の男性で、その後、私が話を聞くことになる多くのトランプ支持者と似ていた。

「名前は何ていうの?」と訊かれたので、

――本当は、マスオっていうんだけれど、マイクでいいよ。

 それまでの経験で、マスオという名前が、アメリカ人には覚えにくく、発音しにくいのを知っていたから。

 ここでボランティアをしたいんだ、と私が切り出した。

「選挙のボランティアをした経験は?」

――ない。

「なぜ、共和党の事務所でボランティアをしようと思ったの」

 そこで私は、日本から持ってきた『トランプ自伝』を取り出した。アメリカでは、“Trump:The Art of the Deal”という書名で1987年に出版されると100万部超が売れた。ニューヨークの一介の不動産屋だったトランプを、全国区のビジネスマンとして売り出した本。日本語の文庫本の表紙には、40代のトランプが大写しになっている。

ミシガン共和党事務所

――この本を読んで以来、トランプのファンで、日本にもトランプのような強いリーダーシップを発揮する政治家が必要だ、と思ったから。

 と、多少脚色の入った志望動機を語った。

「じゃぁ、ここに、名前と電話番号とメールアドレスを書いてくれるかい」

 それでボランティアの面接は終了。

 差し出されたノートに、こちらの連絡先を書くだけでボランティアとなれた。

 免許証の提示も求められず、私がアメリカで投票権を持っているかどうかも訊かれなかった。以前に新聞記事で読んだような、トランプ陣営の選挙スタッフとして働く際、守秘義務を結ばされるようなこともなかった。

 細心の注意を払い面接に臨んだのに、あまりに簡単にボランティアになれたことに拍子抜けした。

有権者の情報が出てくる専用アプリ

 私は本拠地をミシガンとしたが、なぜミシガンだったのか。

 それは、トランプが16年の選挙で、0.3ポイントという最小僅差で勝利を収めた州だったからだ。同州での総投票者数が470万人超に対し、勝ったトランプと負けた民主党のヒラリー・クリントンの得票差は1万票強という大接戦だった。

 トランプの再選には、ミシガンを死守する必要があった。逆に、民主党候補者が大統領になるには、是が非でもミシガンを奪還する必要があった。20年の選挙でも、ミシガンが最重要州の1つになるというのが私の読みだった。

 では、なぜ共和党事務所でボランティアなのか。

 それは、20年の選挙が、トランプの信任投票という意味合いを色濃く帯びると見込んだからだ。そのトランプの選挙を支援する人たちと知り合い、さらにはトランプ支援を求めて戸別訪問をして、1人でも多くの有権者の声に耳を傾けることで見えてくるものがあるはずだ。

 何かを深く知りたいのなら、相手の懐深くに潜り込め。これまでの取材で身につけた手法だ。

 しかし、まだミシガンでは深い雪が積もっており、戸別訪問が始まるのは春が近づいた3月に入ってからとなる。

 スマートフォンに専用のアプリである「Advantage Mobile」をダウンロードしてから、名前とパスワードを入れてログインする。これは共和党が作った携帯用のオリジナルのアプリで、すでにネットで公開されている有権者情報を選挙用に活用したもの。

 ログインすると、最初に注意事項が表示される。礼儀正しくしろ、相手へ敬意を払え、はっきりと話せ――など。その後、「Walk Book」という地図が表示される。地図上の丸印を押すと、住所とそこに住む有権者の名前、年齢などの情報が出てくる。その住所を訪ね、ドアの呼び鈴を押して、現れた人の姓名を確認した上で、アプリ上に現れる文面を読みながら、アンケートを取っていく。

Advantage Mobileのトップ画面

 アンケートの内容は、「トランプ大統領への支持を期待することはできますか」から始まり、「選挙では、郵便投票を使いますか、それとも当日、投票所に足を運びますか」や「あなたはどこの党派に所属しますか」などなど。

 最初に割り当てられた「Walk Book」は、私が住んでいるアパートの裏側にある郊外型の住宅地の150戸ほどの家庭の情報が載っていた。いわゆる典型的な郊外(サバーブ=suburb)の住宅地である。それぞれの住宅区域ごとに、専用の入り口があり、その中で1つの住宅地の集団を形成している。

 アメリカでは居住地を大きく3つに区分する。1つが、裕福な白人が多く住む郊外。2つは、黒人などが住む都市部のインナーシティー(inner city)と呼ばれる低所得地域。最後は、白人を中心とした農業・酪農従事者などが住む田舎(countryside)。

 インナーシティーは、民主党の票田であり、田舎は共和党の地盤である。選挙の結果は、浮動票が多い郊外の住民の投票が左右することが多い。

 つまり、私がボランティアとして歩き回るミシガンの郊外の住民の投票が、20年の選挙に大きな影響力を持ってくるのだ。

 私は訪問した家の情報を小さな手帳に書き、加えて、スマホ上の画面に現れる情報を、スクリーンショットで撮りためた。個人情報保護という意味合いもあるのか、一度、訪問した投票者の情報を、そのあとで再び見ることはできない仕組みになっていた。すべての情報を書き留めるのは無理だが、スクリーンショットなら漏れなく情報を手元に残すことができる。

 そうすると、ただ単に戸別訪問するのと比べ2倍以上の時間がかかる。しかし、目的はボランティアとして数多く回ることではなく、人びととの対話を記録することにあるので、記録を怠って件数だけを伸ばそうとするのは本末転倒だ。

 私にとっては初めての選挙のキャンペーンである。しかも、英語で戸別訪問。事務所では、簡単な説明だけで、あとは自分でやってくれ、という方針なので、手探り状態でスタートした。

トランプの赤い帽子の力

 ボランティア初日となったのは2035日。最高気温は50℉(10℃)で、晴れ。陽射しは暖かいのだが、冬の枯れ葉が舞うほどの風が吹いていた。ポケットに使い捨てカイロを4つ押し込んで出発した。

 その初日、熱烈なトランプ応援団に出会った。

 私がおっかなびっくりドアの呼び鈴を押して回っていると、2匹のセントバーナードと一緒にジョン(59)が出てきた。

「何だって、ミシガン共和党のボランティアだって。そこに座って待っていてくれ」

 と、玄関先にあったパイプイスを指さす。

 すぐに戻ってきたジョンの手には、赤い帽子があった。「President Trump 2020 KEEP AMERICA GREAT」と刺繍してある。

「最近、この帽子を20個買って、いろんな人に渡しているんだ。あんたにもやるよ。オレは、共和党員ではなく、無所属だな。今でも、自動車産業で働いているんだ。過去に組合の委員長をやった時は、民主党にも投票した。08年にはオバマにも投票した。

 けれど、毎週教会に通い、聖書の勉強会にも参加するオレにとって一番大切な政策は、人工中絶の是非についてなんだ。聖書の解釈では、中絶は殺人にあたるので、人口中絶はどうしても認めることはできない。トランプは、これまでで最も中絶に反対している大統領だから応援しているんだ。

 それに息子は今、陸軍に入っているんだよ。トランプは、軍に予算をつけて軍隊を立て直してくれただろう。16年にもトランプに投票したし、今年も投票するよ。オレだけじゃないよ。看護婦の妻も一緒に住んでいる息子と娘もトランプに投票する。我が家だけで、トランプに4票を入れるんだ」

 熱くて、陽気なトランプ支持者だった。

 人びとが共和党を支持する最大の理由として、小さな政府を掲げ、税率の引き下げなどによって企業間の自由な競争を促し、アメリカの国力を高めるのが一番だ、という考え方がある。

 その次に、中絶や銃規制、移民問題などの“文化戦争”と呼ばれる争点がある。保守的な共和党支持者の多くは、人工中絶や移民の流入に反対し、銃規制については緩和を求める。

 だからトランプは16年の選挙に出馬を表明するとき、メキシコからの不法移民を「麻薬や犯罪を持ち込む。彼らは強姦犯だ」と決めつけ、彼らがアメリカに入ってくるのを防ぐために国境間に壁を作るという公約を掲げた。

 一方、人びとが民主党を支持する第一の理由には、政府が税金を集め、さまざまな政策で所得を再配分することで、貧富の格差を縮めるべきだ、という考えがある。その端的な例が、富者と貧者の区別なく医療が受けられることを狙った国民皆保険の導入だ。民主党のオバマ政権の10年、通称オバマケア(Patient Protection and Affordable Care Act)が、議会を通過した。しかし、トランプ政権が発足した17年、トランプはオバマケアの改廃に向けた大統領令に署名した。

シェア ツイート
第1回 激戦州ミシガンで共和党選挙ボランティアとなる(2)
01