「これでは誰もハッピーになれない」
サーファーの聖地、ハワイ・オアフ島のビーチが土嚢だらけになっている。絶景が汚れてしまったのは、崖の上のビーチハウスを守ろうとする家主たちが、次々と海岸に土嚢を積んでいるからだ。これでは2050年にハワイのビーチの40%は消えてしまうかも――。資本主義と地球温暖化がもたらしたハワイの苦悩。プロパブリカと、ハワイの地元紙「ホノルル・スター・アドバタイザー」のコラボによる調査報道。

パラダイス・ロスト

有名サーファーと金持ち家主が、ハワイのビーチを危険にしている

(取材・執筆 ソフィー・コック ホノルル・スター・アドバタイザー紙)

 ハワイのビーチは公有地であり、維持・保全されなければならない。ところが、美しいビーチはどんどん浸食され、深刻な問題を引き起こしている。ビーチフロント(海辺)物件のオーナー――著名サーファーのケリー・スレイターも含む――が当局から特別扱いされ、公共財産(ビーチ)よりも私有財産(ビーチハウス)の保護が優先されているためだ。

 本稿はホノルル・スター・アドバタイザー紙と同時掲載。同紙は「プロパブリカ地域報道ネットワーク」のメンバー

Klawe Rzeczy for ProPublica

絵はがきのような光景が、土嚢で様変わり

 オアフ島北東部のプナルウビーチ。砂浜に寝そべって日光浴を楽しんだり、タコを狙ってサンゴ礁の海に飛び込んだりする地元住民――。木造ビーチハウスのオーナーが大型ピクチャーウインドウから見る光景は絵はがきのようであり、何十年も変わらなかった。

 ところが今世紀に入って状況は大きく変わっている。年を追うごとに大きな波がどんどん海岸を浸食し、2006年にはビーチハウスをのみ込んでしまう恐れも出てきた。

 そこで地元の家主2人が州当局に出向き、浸食から家屋を守るためにのうの設置を申請した(公有地であるビーチには勝手に土嚢を置けない)。これに対して州の土地・天然資源局(DLNR)は条件付きで許可証を交付した。土嚢は緊急避難的な臨時措置であり、一定期間後には取り除かれなければならない――これが条件だった。土嚢の山が放置されると、海岸の浸食が進みかねないとの判断からだ。

 2人はDLNRの条件を受け入れ、数年内に長期的な代替計画を策定して土嚢を撤去すると約束した。

 ところが、数年の期限が近づくと、DLNRは延長を認めた。さらに数年たつと、再延長を認めた。そのうち海岸線に沿って土嚢の山はどんどん伸びていった。周辺のビーチハウスを保有するオーナーもまねをして、季節性の高波や海面の上昇に備えて土嚢を積み上げていったからだ。

ビーチハウスを守る土嚢設置はノースショアに集中

 それから15年近くたった現在、土嚢は残って砂浜はほとんど消え去った。こうなると、海に出たい住民はその場しのぎの堤防――黒色や褐色の防水シートで覆われてロープで固定されている――をよじ登らなければならない。看板の「立ち入り禁止」や「危険」といった警告を無視して。

 このような警告は矛盾している。というのも、土嚢が積まれているビーチ――ハワイ全土のビーチと同様に――は公有地であり、一般に開放されているからだ。州法の定義によれば、一年で海面の水位が最も高い時期に海面下にある土地はすべて公有地である。当局は公有地であるビーチを維持・保全する義務を負っている。

 気候変動によって海面が年々上昇しているなか、海岸沿いの家主はせっせと土嚢の山を築いている。当局に申請すれば簡単に土嚢設置の臨時許可を得られるためだ。結果としてビーチの浸食は加速している。

 DLNRによる臨時許可はどのくらいに上るのか。過去20年間の累計で見るとハワイ全土で66件に達する。対象地域の半分近くは、「セブン・マイル・ミラクル(7マイルの奇跡)」とも呼ばれるノースショア(オアフ島北部の海岸線)。世界的なサーフスポットと絶景のビーチで知られる一帯だ。住民の中にはフレッド・パタキアら著名サーファーもいれば、1泊千ドル以上で貸し出す高級貸別荘のオーナーもいる。

オアフ島のビーチ、2050年までに全体の40%が消失?

 臨時許可は通常3年で期限切れになる。ところが、われわれ取材班――ホノルル・スター・アドバタイザー紙とプロパブリカの共同チーム――が何百ページに上る文書を点検したところ、臨時許可制度が形骸化している実態が明らかになった。DLNRは安易に臨時許可を延長しているし、期限切れになっても土嚢の撤去を強制していない。

 問題はほかにもある。臨時許可の対象になった堤防を見ると、5件のうち1件は違法状態にあるのだ。違法であっても当局は少額の罰金を科すだけで、土嚢の放置を黙認している。

 土嚢の設置は緊急避難措置であるから、家主は長期的な代替計画を作成する義務を負っている。ところが、公的記録の分析や家主へのインタビューで浮き彫りになったのは、代替計画を実行する家主はほとんど存在しないという実態である。

 結果としてどうなっているのか。ハワイが誇る海岸線のあちこちに土嚢の壁が築かれたままで、何年も――場合によって数十年も――放置されているのである。地球環境の観点から海岸線の保護は極めて重要であるというのに、オアフ島では護岸対策の影響で全ビーチの4分の1が消失している(われわれは2020年の夏に問題点をすでに報じている)。2050年までに消失割合は40%に達すると警告する専門家もいる。

左側は2007年のプナルウビーチ、右側は2020年のプナルウビーチ。2020年は土嚢設置後で、砂浜が消えている(2007年の写真はホノルル市・郡提供、2020年の写真はホノルル・スター・アドバタイザー紙ソフィー・コック撮影)

 われわれはDLNRにインタビューを申し込んだものの、拒否されている。ただし、DLNRは書面で質問に答え、これまでの対応を正当化している。

 書面の中でDLNR保全・沿岸室の責任者サム・レモが挙げたポイントは二つある。第一に、DLNRは1990年代に臨時許可制度を始め、違法な堤防建設を防いできた。大きな石やコンクリートを土台にした堤防は違法であり、いったん出来上がるとなかなか撤去できない。第二に、DLNRは定期的に土嚢の状態を検査し、ビーチへの影響を調べている。何か問題を見つければ直ちに臨時許可を取り消せる体制にある。

違法物件に「夢を実現しよう!」というキャッチコピー

 本当に臨時許可の取り消しはあったのか。われわれが調べた限りでは、取り消しのケースはほとんどなかった。過去20年間の臨時許可件数は66件に達しているのに、取り消しはたったの1件にとどまる。

 レモは「われわれが懸念していたのは、家が高波にのみ込まれてビーチの上でばらばらになる展開。これでは誰もハッピーになれない」と指摘する。

 だが、彼の説明を額面通りに受け取るわけにはいかない。ビーチの保全よりも家主の利益が優先され、臨時措置が実質的に恒久化されている、と専門家の多くはみているのだ。

 実際、臨時措置の延長によってビーチフロント物件は寿命を延ばし、中古不動産市場では高値で取引されている。土嚢のおかげで何十万ドルにも上る利益が一部の家主に転がり込んでいる。

 オアフ島北東部のプナルウビーチを見てみよう。ここでは多くの家主が2006年に臨時許可を得てビーチハウス前に土嚢を積み上げている。それから10年以上経過してもビーチハウスの値段は下がっていない。2019年には130万ドルで売れた物件も出ている。

 プナルウで現在注目されているのは995千ドルで売り出し中の物件だ。広告文はばら色一色だ。不動産サイト「リアルター・ドット・コム」上では「夢を実現しよう! 朝は波の音で目覚め、海の空気を目いっぱい吸い込もう!」というキャッチコピーが躍っている。

 実は、995千ドルの物件の前に築かれた土嚢は違法状態にある。DLNRによれば臨時許可は20207月に失効しているからだ。同年11月末のオープンハウスを準備していた地元不動産業者は気にしていないようだ。「私の理解では土嚢は置いたままにしておいても大丈夫」と語る。

その場しのぎの対応に終始している州当局

 海面上昇という現実に直面して当局はおろおろするだけであり、政策的には完全な失敗に終わるのではないか――こんな見方が活動家の間で出ている。本来ならば海岸線からの居住地移動を主導しなければならないのに、その場しのぎの対応に終始しているというわけだ。

 当局を厳しく批判する活動家の一人は、マウイ島西部の護岸工事に反対する市民グループを率いてきた弁護士ランス・コリンズだ。彼の表現を借りれば、当局が海岸沿いの家主に対して発しているメッセージは次のようになる。「あなたは不動産投資にしくじった。でも心配不要。われわれは環境破壊に目をつぶってあなたの財産を守るから」

 地元の州議会議員の間からも不安の声が広がっている。DLNRの無策が災いして土嚢の壁が放置され、環境に深刻な悪影響が及びかねない、と一部の議員はみている。マウイ島南部選出の下院議員(2020年の州下院エネルギー・環境保護委員会の副委員長)ティナ・ワイルドバーガーは「現在のインフラのままでは多くの家屋が海にのみ込まれてしまう。こんな状況は放置できない。バンドエイドを引っ剥がすとき(応急措置を終えるとき)がきた」と断じる。

海岸沿いの生活はリスクと隣り合わせ

 海岸沿いの生活は常にリスクと隣り合わせだ。州法の精神と州最高裁の判定に従い、長らく公共財産(ビーチ)は私有財産(ビーチハウス)よりも優先されてきた。今後も同じだとすれば、浸食に伴って海岸線が内陸側へ移動するのに合わせて居住地も内陸側へ移動しなければならない。州政府の予測によれば、2060年までに海面の水位が3.2フィート(98センチメートル)上昇し、何の対策も導入されなければ州内で合計数千棟の建物が浸水する(あるいは倒壊する)。海岸沿いの家主にとって地球温暖化は大きな脅威だ。

 地元の科学者や政策担当者が温暖化の影響について無頓着だったわけではない。家主に対して海岸線近くから内陸部へ引っ越すよう促す施策の必要性を認識していたのだ。これまで何年にもわたって。ところが、具体的な施策はいまだに出ていない。そのため家主はどう対応していいのか分からず、お手上げの状況に置かれたままだ。

 浸食によって家屋が倒壊したら、家主は厄介な状況に放り込まれかねない。一つは壊れた家屋の撤去。何らかの方法で撤去費用を負担しなければならない。もう一つは訴訟リスク。家屋のがれきがビーチ訪問者を傷つけたり、環境破壊の原因になったりすれば、訴えられてもおかしくない。

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