ギグワーカーは「個人請負」のままなのか?
UberやLyftで働く「ギグワーカー」たち。フードデリバリーやライドシェアサービスに従事する配達員や運転手の最低賃金基準、雇用環境の悪さは世界的な問題になっている。一方で企業側はコスト上昇につながる従業員採用を嫌って議会側に働きかけをしているという。日本にとっても対岸の火事ではない、NYTによるレポート。

ギグワーカーは「個人請負」のままなのか?

UberとLyftの議会工作

 ニューヨーク州などいくつかの州では、ギグワーカー(UberやLyftアプリを使って運転手などの単発の仕事を請け負う労働者)を、雇用された従業員ではなく、「労組加入の権利を持つ個人請負」と見なす法案が議論されている。ギグワーカーの活用で利益を得ているギグ企業は、そうした法案の成立を後押ししている。 

ニューヨーク・マンハッタン地区を運転するウーバーの運転手。ウーバーやリフトなどのギグ企業は、運転手を企業の従業員として認めることを拒んでいる。Photo/Amr Alfiky for The New York Times

取材・執筆 ノーム・シャイバー

 2019年、カリフォルニア州議会が、アプリを使って単発の仕事を請け負うギグワーカーを、企業の従業員として正式に雇用するよう企業に義務付ける法案を可決した。すると、ギグワーカーの活用で急成長を遂げたウーバーやリフトなどのギグ企業は、約2億ドル(約220億円)を投じ、彼らが利用している登録運転手を同法の例外扱いとすることを定めた住民提案の成立を後押しした。

 ギグ企業はまた、他の州で同様の事態に陥るのを未然に防ぐため、様々な州の議会に働きかけて、運転手を個人請負と法的に定める州法の制定を目指し始めた。運転手が個人請負と見なされれば、企業は、法律で決められた最低賃金の支払いや失業補償などをする義務を負わなくて済むようになるからだ。

 ギグ企業が一番力を入れて働き掛けをしているニューヨーク州議会は、今週、会期が終了するが、ギグ企業が提案した法案は、労働団体の反対で審議が止まったままだ。

 しかし、企業側は諦めたわけではなく、議会内外での駆け引きを続けている。企業側は、運転手に正式な従業員と同等の権利を与えることを依然、拒んでいるものの、団体交渉権やある程度の便益は認める方針だ。一連の動きを取材すると、ニューヨーク州や他の州における、この問題の着地点が見えてきた。

「雇用すればビジネスモデルの変更を強いられる」

 ウーバーやリフトなどの企業は、彼らが利用する労働者を正式な従業員として雇用することをずっと拒んできた。規制当局に提出した書類の中で彼らは、正式に雇用すれば、ビジネスモデルの変更を強いられ、経済的な打撃を受けると主張している。業界幹部は、運転手を正式に雇用した場合、2030%の雇用コストの上昇につながると話している。

 2019年、カリフォルニア州議会が、ギグ運転手を企業と雇用関係を持つ労働者と位置付ける法案を審議していたとき、ギグ企業はサービス従業員国際労働組合(SEIU)や全米トラック運転手組合(Teamsters)などの大手労組と交渉を重ね、ニューヨーク州議会に提案した内容に沿った協定を結ぼうとした。だが、交渉は決裂した。カリフォルニア州議会の法案が可決される見通しだったため、労組側が大幅な譲歩を拒否したからだ。法案はその年の9月に可決された。

 しかし2020年秋に、ギグ運転手を例外とする住民提案が有権者の賛成多数で成立すると、労組内に協定締結の機運が高まった。すると、交渉がすでに進み始めていたニューヨーク州内の労組が、自然と交渉の先陣を切ることになった。

Photo/Getty Images

ニューヨーク州法の草案はギグワーカーに厳しい内容

 ギグ企業の何社かは、すでにニューヨーク州内の労働団体と関係を構築していた。例えば、ウーバーは、国際機械工労働組合(IAM)と共同で2016年、Independent Drivers Guild(独立運転手組合)を設立。資金も拠出した。同労組と経営側が交わした労使協定は、いくつかの点で、現在、ギグ企業が締結を求めている協定の内容を先取りしている。例えば、運転手は経営側に労働環境などの改善を訴えることはできるが、個人請負としての地位に対する異議申し立てはできないと定めている。

 労働者側に有利な状況もある。ニューヨーク州は、一般的に認められている失業補償をギグ運転手にも認める裁定を何度も下しており、今後、企業が何億ドルという負担を強いられる可能性がある。ニューヨーク市も、1時間あたり17ドル(経費控除後)の最低賃金基準など、運転手の権利保護のための様々な労働規制を設けている。ギグ業界はそうした規制の緩和を求めている。

 ギグ業界幹部がニューヨークの労働団体と協議の上まとめた法案の草案は、ギグワーカーを「ネットワーク・ワーカー」と呼んでいるが、基本的には、労働者としての権利が一部しか保障されない個人請負という位置づけた。団体交渉権は認めているが、加入できる労組は地域別労組だ。このため、労使交渉は、主要企業すべてを一度に相手にしなければならない。労使協定が発効すれば、ニューヨーク州では15万人以上の組合員が新たに誕生する。 

 また、労使交渉は、運転手と荷物の配達員とで、別々に行うことになる。交渉の中身は、最低賃金や、転職しても年金の積み立てなどがそのまま継続できるポータビリティ制度、契約を切られた場合の不服申し立ての手続きなどが、対象となる見込みだ。

ギグ企業と裏で手を握る大手労組

 草案には驚くような内容も含まれている。企業がある労組と労使協定を結んだ場合、その労組は企業が所有する社内のメールシステムを通じ、個別の労働者に接触することができる。その労組に、業界の全労働者の10%以上が加入した場合、州の労働行政の責任者は、その労組を業界内の労働者を代表する唯一の団体として承認することができる。すると、他の労組は企業との交渉権を失うこととなる。

 草案の内容に関し、労働団体の幹部らは、ギグ企業側は協定によって利益を受ける一部の大手労組としか話し合いをしていないと批判している。一部の大手労組とは、ギグ運転手と最初にメールで接触することになるであろうIAMや、ギグ配達人と最初にメールで接触する可能性の高い全米運輸労働者組合(TWU)を指している。

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