東京ディズニーランドには「土地という強い味方がついている」
定評あるロングセラーの全面改訂版。2013年4月に開業30周年を迎える東京ディズニーランド。常勝を続けている秘訣を探る。

チャプター1

ディズニーランドの「夢と魔法のレシピ」

 かつてない巨大パーク、「東京ディズニーランド」(TDL)はたちまち日本人の心をとらえて、国民的なレジャー施設になった。ここでの〝成功経験〟は、その後のTDLの発展と拡大の原動力となった。その源となった「夢と魔法のレシピ」は、創業者ウォルト・ディズニーがつくりあげた。ウォルトの死後、それは次の世代に「遺産」として引き継がれた。

 「夢と魔法の王国」の土台となる「レシピ」は、どのようにつくられたのか。本場ディズニーランドの完全コピー版であるTDLを、あらゆる角度から丹念に分析してみよう。

セクション1

アメリカ産「大型遊園地」が上陸した

1]遊園地のイメージを変えた

楽しい、美しい、広い

 TDLは、従来の遊園地のイメージをがらりと変えた。パーク面積の51ヘクタール(約155万坪)は、アメリカにある2つのディズニーランドよりもやや広い。

 ゲストの平均滞留時間は約8時間という。パークの面積がせまければ、1日かけてゆっくり楽しもうと思っても、半日くらいで見尽くしてしまう。しかし、TDLはどんなに要領よく回ったとしても、見損なう施設がかなり残る。期間限定の大規模な博覧会ではこんな経験はしたが、日本の遊園地ではありえないことだった。

 オリエンタルランド社が開園5周年に発行したパンフレットによると、ここが好きな理由として多くのゲストが「楽しい」のほかに「美しい」「広い」をあげていた。いいかえれば、日本の既存の遊園地がいかに「美しさ」と「広さ」に欠けていたかの証明でもある。

清潔なパークづくり

 ディズニーパークで感心するのは、落ちているゴミが見当たらないことだ。これはウォルトの「いつもきれいにしておけば客は汚さない。でも、汚くなるまでほっとけば、客はますますゴミを捨てるものだ」という考えによる。このため、TDLは大勢の掃除係を配置し、大量のゴミ箱を設置して徹底したゴミ作戦を展開している。

 白いシャツ(夏季)に白ズボンのしゃれた制服の掃除係は、カストーディアルと呼ばれている。「トイブルーム」という名称のほうきと、「ダストパン」という名称のちりとりを手に、ゴミを手早く片づける。彼らの数はピーク時には500人以上になる。5人ごとにチームをつくり、約2ヘクタールの地域を担当し、約15分で一周して絶え間なくゴミを拾う。

 園内のゴミ箱は860カ所にある。従来のような金網でなく、中身の見えない郵便ポスト型にした。これだと、ゴミは外から見えないし離れた場所からゴミを放り投げる客もいない。

 夜のうちに、ホースで園内をていねいに水洗いする。これを毎晩、繰り返す。おかげで開園時には砂がまったくない。砂が少しでも残っていると、幼児が転んだときに擦り傷ができるからだ。

 このように、TDLは清潔さを保つためにメンテナンスを徹底させた。開園から30年近く経ったのに、それほど汚れていない。

 多くの日本人は、心の底で美しくて広くて快適な遊び空間を待ち望んでいた。清潔好きな日本人、とりわけ若い人たちが歓迎したのは当然である。

〝大人だまし〟の仕掛け

 遊園地の娯楽施設といえば、ほとんどが子どもを対象にしている。ディズニーランドはこの〝常識〟を破った。大掛かりな仕掛けがふんだんに施され、大人も十分に楽しめる施設となっている。そのために、多額の資金を投じられた。1つで100億円を超えるアトラクションも少なくない。

 既存の遊園地に比べると、さまざまな最新技術の成果が反映されているのも、TDLの特徴である。ほとんどが電気仕掛けで、いわばエレクトロニクス技術の塊である。その1つに「オーディオ・アニマトロニクス」がある。

 音(オーディオ)と動き(アニメーション)、電子頭脳(エレクトロニクス)の三要素を結合したもので、人形や動物ロボットの声や動作をコンピュータで制御するシステムだ。映画の世界でさまざまなものを自在に動かすことを探求しつづけたウォルトは、この手法で三次元の世界でも新しい命を吹き込むことを可能にした。

 TDLでは、「魅惑のチキルーム」で初めて使われてから、「イッツ・ア・スモールワールド」「カリブの海賊」「カントリーベア・シアター」などに応用されている。「カントリーベア・シアター」では、季節ごとにプログラミングを変えることによって、まったく新しいショーに変えている。

 おカネをふんだんにかけてつくられたTDLは、日本の既存遊園地の娯楽施設の貧弱さをいちだんと鮮明にした。高い料金を払っても来る大人の客が増え、「あらゆる年齢の子どもたちの遊園地」というもくろみは、日本でも成功した。

2]巧みな夢の国の演出術

ファミリーエンターテインメント

 ディズニーランドの誕生には、有名なエピソードがしばしば語られる。

 ウォルトは2人の娘にせがまれていろいろな遊園地に連れていった。ところが、子どもたちは乗り物や観覧車にキャーキャー喜んでいるのに、親である自分はそれを眺めているだけだ。周りにはそんな親がいっぱいいる。色あせた回転木馬、硬いベンチ、やる気がなさそうな従業員。おまけに、ピーナツの殻が落ちこぼれていて遊園地はなんとも汚い。ウォルトは遊園地に娘を連れて行くたびにがっかりさせられた。

 そうだ、親子いっしょに楽しめるパークをつくろう!──

 ディズニーランドの基本理念であるファミリーエンターテインメントは、ここから生まれた。その意味はこうだ。

 ディズニーランドは、人々に幸福と知識を与える場所である。親子がいっしょに楽しめるところ。年配の人たちは過ぎ去った日々の郷愁にふけり、若者は未来への挑戦に思いをはせるところ(ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー』)。

 ディズニーランドをつくるときの予告書には、こうも書かれている。

 ウォルト・ディズニーが世界中のみなさま、そしてあらゆる年齢の子どもたちにまったく新しいタイプのエンターテインメントをお贈りします。

 ディズニーランドは「あらゆる年齢」を対象にした健全なパークづくりをめざした。ウォルトはすべての人間に潜む「子ども性」を頭に描いていた。人はいくつになっても、子どもの無垢な心と好奇心を失わないという素朴な人間観である。彼がディズニーランドに託した夢は、あらゆる年齢の子どもたちのために「地上でいちばん幸せな場所」(ザ・ハッピエスト・プレース・オン・アース)を実現することだった。

 このねらいは、見事に結実した。アメリカのディズニーランドでは、子どもの入園者1人に対して大人が4人である。TDLでも7割に達している(図11)。日本でもようやく大人、つまりかつての子どもたちが遊園地に遊びに行く時代になったのである。

 開園間もなくのTDLでめだったのは、40歳代、50歳代の年配の女性が多かったことだ。平日には、おばさんグループも少なくなかった。童心に帰って楽しんでいる。その秘密は、子ども時代に隠されている。日本で初めてディズニー映画が公開されたのは戦後間もない1950年、『白雪姫』だった。それ以来100本以上のアニメ映画が上映された。1958年には日本テレビがアニメ番組『ディズニーランド』の放映を開始、隔週放送で9年間続いた。開業後の人気を支えたのは、好奇心の強い若者たちだけではなく、ディズニーに子どものころから親しんできた人たちである。

企業コンセプトとしてのディズニー哲学

 ファミリーエンターテインメントこそ、ディズニーランドの基本的なコンセプトである。コンセプトとは事業がめざすべき概念だが、要するに、企業が事業を通じて何をし、何を訴えようとしているかということだ。それが確固たるものでないと、顧客や従業員だけでなく社会の共感を得られない。

 事業が成功するには、まずコンセプトを明確にしたうえで、それを実現するためのシステム(組織)をつくり、行動規準(アクションプログラム)を策定しなければならない。それがディズニーランドはしっかりとしており、安定した運営の土台となっている。

 このコンセプトについて、作家の堺屋太一氏は、「志」という言葉で説明する(『週刊朝日』20001124日号)。堺屋氏によると、「ただの宣伝文句や人目引きではなく、見る者、接する者が『なるほど』とうなずくほどに徹底させる執念」のことだという。

 この説明は説得力がある。世界最初の大型テーマパークを成功させたのは、「あらゆる年齢の子どもたち」に「世界でいちばん幸せな場所」を実現させようとしたウォルトの確固たる意思である。そして、ミッキーマウスから白雪姫まで、彼が生涯をかけて育ててきたアニメキャラクターたちを現実の生き物として再現させた。

 ディズニーの志は、「ディズニー・フィロソフィー」と呼ばれる。フィロソフィーは哲学だが、信条、考え方、経営方針といった意味合いもある。それが、キャストに浸透することで初めて意図が達せられる。これにかぶせる形で、ポリシーとしてより具体的な方針が示される。ディズニーランドでキャストが教え込まれるポリシーとは、次の3つである。

  「毎日が初演でなければならない(Everyday is an Opening Day)」──いつおいでになるゲストにも、何度おいでになったゲストにも、平等に、新鮮な感動とともに楽しんでいただかなければなりません。

  「常に非日常世界でなければならない(An Escape from the Real World)」──ゲストには現実を忘れて、夢の世界に遊んでいただかなければなりません。パーク内からは、日常的なものは排除されなければならないのです。

  「永遠に成長し続けなければならない(Into Infinity)」──常に、イマジネーションの発揮による、新たな魅力の追加が行われ、成長し続けていくものでなければなりません。

二次元の画面から三次元の夢空間へ

 映画人ウォルトが対象としたのは、人の心のなかにある「子ども性」であると同時に、胸のうちに潜む「スター性」や「変身願望」だった。映画の観客を座席から立ち上がらせてスクリーンの世界に引き込むこと、つまり二次元の画面を見るだけの「見物人」を三次元空間の「参加者」に仕立てあげることが、ウォルトが考えたディズニーランドの基本的発想である。

 スクリーンで見た二次元の映像と三次元の世界で経験したものとは、心に刻まれる深さが違う。三次元の〝ディズニーの世界〟とは、より具体的には、「観客の想像力とコミュニケートすること」を実際の形として生み出すことだった。観客に文字どおり三次元の世界で没頭できる映画のような経験をさせる。

 ゲストが映画の場面を体験する国、そこにはあらゆる楽しみがあり、すべてがショーと呼ばれるのにふさわしい。ウォルトは、人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を存分に使ってディズニーアートを集大成した。人間の五感を存分に使った空間づくりという考え方は、パーク内の随所で感じさせられる。

 入園したゲストはまず、「夢の道標」であるワールドバザールで19世紀末の古きよき時代の家並みを見る。そこを抜けると、はるか彼方にシンデレラ城が見える。パーク内の色、形、動きのすべてが視覚的なエンターテインメントである。

 パーク内に入ると、すぐに耳に入るのがディズニー映画でおなじみの音楽である。その間隙をぬって、ハッとする音が飛び込んでくる。これが実にいい。ウエスタンリバー鉄道、蒸気船マークトウェイン号の汽笛、ジャングルに住む動物の声、ストリートショーの音楽と歌声……。これらが集まってパーク独特の音の世界を築きあげる。

 園内に漂う甘酸っぱいポップコーンのにおいは、いかにもアメリカの遊園地という感じがする。においとともに歩きながら、さまざまな風景を楽しむのも悪くない。味覚は飲食だろうか。触覚はどうだろう。ミッキーと握手する子どもたちの目がきらきらしている。憧れにじかに触れることで、幸せな気分になるのだろう。

おなじみのディズニーキャラクター

 大掛かりの仕掛けといい、清潔なパークといい、日本でもまねできないわけではない。ディズニーランドの最大の強みは、ウォルトが生み出したキャラクターにある。キャラクターの存在こそ、ディズニーランドを世界最大のテーマパークならしめている所以である。

 主役のミッキーマウスをはじめ、ドナルドダック、ピーターパン、ピノキオ、シンデレラ、くまのプーさんなど、TDLには80体もいる。人々は訪れる前からディズニーランドの住人に一定のイメージを抱いている。だから、彼らを目にしただけで、ゲストは夢の世界にすうーっと入り込む。

 ウォルトは、アニメの登場人物の性格づくりを徹底的に行った。観客に印象づけるために、ただ笑わせるというだけでなく、ペーソスを忘れなかった。こう言っている。

 ディズニーという言葉は大衆の心のなかにあるイメージをもっている。ディズニーという言葉を聞けば、ある種のエンターテインメントが皆の頭のなかに浮かんでくる。そう、家族ぐるみで楽しめる娯楽、それがすべてディズニーという名前に包まれているんだ(ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー』)。

導入部の巧みさ

 ディズニーランドの特徴の1つは、パーク全体を見渡せないようにしていることである。そうすることで、入場客にパーク全体を完全に理解させない、つまり意外性を常にもたせることができる。この意外感がゲストに高揚感をもたらす。

 ディズニーランドの入口は1つしかない。人の流れを効率よくさばくには複数個所あるほうがいい。ウォルトがそうするように指示したのは、「映画を途中から見たのではストーリーがわからない」という理由からだ。ゲストを夢心地にひき込むには、複数の入口だと印象が散漫になる。この手法は、「東京ディズニーシー」(TDS)でもとり入れられている。

 入園して最初に通過するのがアメリカの古い建物が軒を連ねる「ワールドバザール」である。建物はお土産の店やレストランなどで、店の看板はすべて英語である。「ここは日本でなく、アメリカ」といわんばかりだ。

 このアーケードを抜けると、中央公園の「プラザ」に出る。真ん中の丸い花壇になっている広場は「ハブ」と呼ばれる。自転車の車輪の軸受けを意味する言葉だ。ハブを中心に、「冒険とロマンのアドベンチャーランド」「西部開拓時代のウエスタンランド」「夢と童話のファンタジーランド」「未来・科学・宇宙のトゥモローランド」の4つのテーマランドに向けて、車軸(スポーク)のようにまっすぐに通路が伸びている(図12)。

 どちらの方向に向いても、何かしら興味や好奇心をそそられるものが見え、楽しそうな音が聞こえる。彼らはそれを「ウイニー」と呼ぶ。動物の調教師が芸当させるために、遠くからちらつかせるご褒美のえさのことだ。

 現実に、人々は最初のウイニーであるシンデレラ城にひきつけられて中央広場に向かう。その広場から、別のウイニーが人々の好奇心を刺激する。人々がほとんど広場に滞留することなく、自然に四方に散っていく仕掛けである。

 入口を入ってプラザに来るまでがディズニーランドを楽しむ導入部ということになる。大掛かりな舞台装置がショーの始まる前に早くもショーの成功を裏づけている。映画の世界に育ったウォルトは、娯楽を「点」ではなく楽しさが流れる「線」でとらえる。導入部、クライマックス、最後の終わり方があるという具合だ。だから、まずショーが始まる前のプレショーを重視する。プレショーはとりあえず施設内に入ることであり、長時間待っているゲストにとってはフラストレーションの解消になる。導入部の巧みさは、クライマックスの盛り上がりをもたらし、最終の終わり方の巧みさにつながる。

 それぞれのアトラクションは「ストーリー」をもっている。導入部があり、一定のシナリオに従って次第に盛り上がり、クライマックスに達し、そして終わる。アトラクションの入口と出口は少し離れた所にある。降りる場所と乗る場所を変えることで、この先にもまだ何かあるのではないかと思わせる空間が続き、楽しい気持ちを持続させる。

チャプター1 ディズニーランドの「夢と魔法のレシピ」(2)

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