ビットコインは「もう終わった」。ブロックチェーンは「これからが本番」。
日銀出身の決済システムの第一人者が、未来の通貨として注目されるビットコインの崩壊を、その設計と運用の両面からいち早く予測。さらに仮想通貨の中核技術「ブロックチェーン」が、ゴールドマン・サックスや三菱東京UFJ銀行、そして各国の中央銀行を巻き込みながら、金融界に大革命を起こしつつある状況を鮮やかに描く。

1章 謎だらけの仮想通貨

 ビットコインの仕組みについては、すでにさまざまな本が出ていますので「もう十分に理解している」と思っている方もいるかもしれません。しかし、IT技術者が書いたものは、技術的な説明に終始していてビジネスパーソンには理解しにくい一方で、やさしく解説したものについては、重要なポイントが端折られていたりします。筆者がみる限り、いずれも「帯に短し、たすきに長し」の感が否めませんので、ここで改めて簡単に確認しておきたいと思います。ビットコインの基本的な仕組みを正しく理解しておくことは、この先の議論をより深く理解する助けともなりますので、ぜひ読んでみてください。

1.すべての始まりはビットコイン

「ビットコイン」(Bitcoin)とは、「サトシ・ナカモト」と名乗る人物が、2008年に発表した論文(ナカモト[2008])をもとに作成された「仮想通貨」(バーチャル・カレンシー)です。200913日に、最初のブロック(「ジェネシス・ブロック」と呼ばれます)が作られ、ビットコインの運用が始まりました。

 銀行券や硬貨といった通常の「通貨」は、物理的にそれを受渡しすることによって価値の受渡しや商品との交換が行われます。これに対して仮想通貨では、インターネットを通じて価値がやり取りされます。仮想通貨には、紙幣やコインといった目にみえる形での物理的な存在はなく、あくまでも単なるデータがコンピュータ上でやり取りされることになります。このため、「仮想の(バーチャルな)通貨」と呼ばれるのです。

 ドルや円には、「100ドル」とか「1万円」といったかたちで、通貨の量を示す単位が存在します。ビットコインにも、「BビーTティーCシー」という単位があり、1BTC10BTCというかたちで数えます。また、ビットコインは1BTCより小さな単位に分けることができ、005BTCとか、0001BTCといった取引も可能です。ちなみにビットコインの最小単位は小数第8位までとなっており、これを「1サトシ」と呼びます。これは、発明者であるサトシ・ナカモト氏の名前に由来するもので、1サトシ=000000001BTCとなります。

 ドルや円といった通常の「法定通貨」は、中央銀行などの公的な発行主体があり、この主体が責任をもって、全体の通貨の流通を管理し、供給量などを調整しています。法定通貨は、法的な裏付けを伴っているため、一般に「リーガル・カレンシー」あるいは「リーガル・テンダー」(法貨)と呼ばれます。そして、その法的な裏付けにより、国内において強制的に支払いに用いることができる(受取側は法定通貨での支払いを拒否できない)という「強制通用力」を持っており、このため誰にでも受け取ってもらえる「一般的受容性」という性質があります。

 これに対して、ビットコインの場合には、中央に通貨をコントロールする管理主体が存在しないのが大きな特徴となっています。ビットコインの全体的な仕組みは、基本的にプログラムによって管理されており、また世界中のビットコイン・ネットワークの参加者が協力して、ビットコインによる取引を確認し、取引処理を行う仕組みとなっています。ビットコインには、高度な暗号技術が用いられており、それにより、コインの不正な複製や二重使用ができない仕組みになっています。このため、暗号技術が活用されているという意味で、「暗号通貨」(クリプト・カレンシー)と呼ばれることもあります。円やドルなどの法定通貨が、特殊な印刷技術(特殊インク、すかし、ホログラム等)などによって偽造を防止しているのに対して、ビットコインは暗号技術によってその安全性を確保しているのです。ここまでみた現実の通貨とビットコインを比べたのが図表11になります。

2.ビットコインはどうやって使うのか

1)ウォレットとアドレスが必要

 円やドルなどの「現金」で支払いをするためには、通常、財布の中に紙幣やコインを入れて持ち歩き、必要になると、そこから現金を取り出して支払いを行います。ビットコインの場合にも、取引を行うためには「ウォレット」というものが必要となり、パソコンやスマートフォンの中に設定されます。電子的な財布であるため「デジタル・ウォレット」とも呼ばれ、ここから、世界中のビットコイン・ユーザーに支払いを行ったり、あるいは逆に相手からビットコインを受け取ったりすることができます。

 ビットコインでは、ネットワークを通じて相手とやり取りを行うため、どのウォレットとの間でやり取りをするかを一義的に決める必要があります。このために、各ウォレットには「ビットコイン・アドレス」が付されています。これは、ビットコインを利用するための「口座番号」のようなもので、約30桁の英数字から成る文字列です。アドレスは、1つのウォレットについて、複数を作成することができるようになっています(図表12。これは、取引の都度に、異なるアドレスを使ってビットコインの授受を行うことを可能にして、アドレスからウォレットの持ち主が特定されないようにするためです。

 ビットコインのウォレットを作成する際には、特に自分の名前や身分を明かす必要はありません1。この点が、本人確認が必要とされている銀行口座との大きな違いであり、ビットコインの「高い匿名性」につながっています。ビットコインを送る際には、受取側のビットコイン・アドレスを指定して送付の手続きを行います。

2)分散型のネットワークによる情報のやり取り

 さて、世界中にあるウォレットの間で取引を成立させるためには、ウォレット同士が通信できるようにする必要があります。ビットコインでは、この際に「P2P型ネットワーク」という仕組みを採用しています。P2Pとは「peer-to-peer」の略で、「クライアント・サーバー型」に対比して使われる概念です。

 クライアント・サーバー型のネットワークでは、多数のクライアントに対して、サーバーが中央に1つだけ設けられ、各クライアントは、サーバーとだけ通信することができます。つまり、中央にあるサーバーが、全体の管理を行いつつデータを保持・提供し、個々のクライアントは、サーバーに対してアクセスやデータを要求するという「中央集権型」のモデルになっています(図表13の①)

 これに対して、「P2P型」のネットワークでは、ネットワークに接続されたコンピュータ同士が、対等な立場および機能で直接通信を行うかたちになります(図表13の②)P2P型ネットワーク上の端末は、「ピア」(peer)または「ノード」(node:結節点)と呼ばれます。つまりP2Pでは、各ピアがデータを保持するのと同時に、他のピアに対して対等な立場でデータの提供およびアクセス・要求を行うという「分散型ネットワーク」になっており、リーダー役がいないのです。

 P2P型ネットワークでは、取引が行われると、その情報を共有するために、取引内容が「ブロードキャスト」という方法でメンバー全員に向けて同時に通知されます。つまり、ネットワーク内では、どのアドレスからどのアドレスにいくらの取引が行われたのかという情報を全員で共有することになります。

 ビットコインでは、こうした分散型のネットワークを採用しているため、取引を行うたびに中央にあるサーバー(仲介業者など)を介する必要がありません。これによって、参加者同士が直接的にビットコインを送り合うことができ、きわめて安い手数料で送金(ビットコインの支払い)を行うことが可能となっているのです。

3)ビットコインを入手する3つの方法:買う、受け取る、採掘する

 ビットコインを入手するには、大きく分けて以下の3つの方法があります。

 第1は、「ビットコイン取引所」で法定通貨(円、ドルなど)と交換することです。世界には100以上ものビットコインの取引所があり、ビットコインと法定通貨との交換を行っています。これらの取引所では、他の仮想通貨も取り扱っているため、「仮想通貨取引所」とも呼ばれます。

 第2は、商品やサービスの対価としてビットコインを受け取ることです。インターネット上のオンライン・ショップや現実の店舗のいくつかでは、支払手段としてビットコインを受け入れるようになっており、店と顧客の双方にビットコインによる決済の用意があれば、商品やサービスに対する代金の支払いをビットコインで行うことができます。店舗側では、これによってビットコインを入手することになります。

 第3は、ビットコインの取引を承認するために必要となる複雑な計算処理を行い、その対価としてビットコインの新規発行を受ける方法です。これは「採掘」(マイニング)と呼ばれています(この仕組みについては後述します)

第1章 謎だらけの仮想通貨(2)

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