日本の政党政治はなぜ機能不全に陥っているのか
自民党、民主党の中央と地方の組織関係を詳細に調査し、日本の政党組織の実態を描く。日本の民主主義の動態を明らかにした研究書。

1 はじめに

 日本の地方政治においては、しばしば政党は存在感を失う。都道府県議会においては、選挙時にどの政党からも公認を受けない無所属議員が全体のほぼ20を占め、市町村議会においては、70を超える。なぜ地方議会選挙において、無所属議員がこれほど多いのか。これに対して日本では、「地方政治には政党はなじまない」というあたかもこの現象が当然であるかのような理解がなされてきた。またこのフレーズは、地方政治において党派性が存在することは望ましくないという規範的含意を持つこともあった。地方政治という国民により近い政体にあっては、住民の意思が直接反映されることがより望ましいのであり、中央レベルの政党を媒介とする間接民主政治は、より低く評価されることになるのである。

 しかしながら、地方政治において、国政レベルの党派性が失われることは、世界に共通の現象ではない。たとえばヨーロッパ政治においては、地方議会選挙やEU議会選挙は「二次的選挙(second order election)」 という概念で表現されてきた(Reif and Schmitt, 1980; Jeffery and Hough, 2003)。それらの選挙は、単に国政レベルにおける政党への評価を示す従属的な選挙として争われ、国政レベルと同じ党派的対立を反映した投票行動が繰り返されてきたというのである。アメリカでも民主、共和という二大政党の党派性は、州レベルやそれ以下のレベルのさまざまな選挙を決定する要因として機能した。州や自治体の首長、議員はそれぞれ民主党、共和党の公認候補であることが多く、さらに州によっては、検事や裁判官なども公選とされ、二大政党の推薦対象となる。有権者は選挙において、各レベルの候補者を別々に選択し、さまざまな分割投票を行うことができる一方で、特定党派の候補をすべて一括で選択することも可能なのである。このように他の先進民主主義国では、地方政治も政党化されてきたのであって、地方政治には政党はなじまないという現象は、少なくともかなりの程度日本に特徴的な現象だと言えよう。

 ではなぜ日本の政党は地方では存在感を失うのだろうか。あるいは地方においてその存在感を弱める日本の政党組織とはいったいどのようなものなのか。本書は日本の主要政党組織の特徴を、その中央組織と地方組織との関係に焦点を当てながら明らかにしようとする試みだが、本章では、各章の分析に先駆けて、政党組織の中央地方関係についてのパターン分析のための枠組みを提示し、またそうした政党組織の中央地方関係が、いかなる要因によって規定されるのかという一連の仮説を紹介する。

2 マルチレベルの政治システムと政党組織モデル

2-1 政党組織とは何か

 政党組織の特徴をその中央組織と地方組織の関係から捉えようとする本書の試みは、EU統合などを受けて近年世界的にも注目が高まりつつある、マルチレベルの政治システムの相互作用の中で、各国の政党政治を捉えようとする研究動向に連なるものだが(Deschouwer, 2006; Lago and Motero, 2009; Evans, 2010; Fabre, 2011)、マルチレベルの政治システムという文脈での議論に進む前に、まず本章で依拠する合理的選択制度論に基づく政党組織モデルを、より一般的な形で紹介しておこう。すなわち本章では、政党組織の形成を、それに所属する政治家の目的追求行動の帰結とみなす。政治家は、一般に、選挙での勝利(再選)、ポストの獲得(昇進)、理想とする政策の実現(政策)を目指すとされるが、政党はその目的追求を効率的に行うために、政治家に利用される装置である。

 政治家は政党という看板を利用して、選挙でのキャンペーンをより効率的に進めることができる。政治家が再選を目指すとき、自らの政治的立場、公約などを有権者に伝える必要に迫られる。政党はグループとして分業することで政策形成を効率化し、個々の政治家の専門分野を離れて、パッケージとしての政策案提起を可能にする。また政治家は、政策案の実現可能性についても一定の信頼を勝ち取る必要があるが、政党の歴史はこれを提供する。要するに、政治家は、政党ラベルのブランドによって、有権者により効率的に政策パッケージを伝えることができるのである。他方で、ポストの獲得、理想とする政策の実現に関しては、議会でのグループ形成、多数派構築が重要となる。ほとんどすべての議会が、ポストや政策の決定に際して、多数決原理を用いている以上、昇進目標や政策目標の実現を目指す政治家は、政党や会派に所属せざるをえないのである(Aldrich 2011; Cox and McCubbins, 2007)。政党名の看板、ブランドは有権者にとっても政治的選択を容易にするという機能を持つ。小選挙区制に典型的なように、候補者個人を選択する選挙制度のもとで、有権者が候補者個人の政策志向、公約や能力を個々に評価し、また仮にその政治家が当選した場合に、その政治家が政権構成にどのような影響を与え、その政策志向、公約がどの程度の実現可能性を持つかといったことを計算するための情報コストは非常に大きなものにならざるをえない。政党名は有権者にとっても代理人の選択を容易にする情報の近道(shortcut)なのである(Popkin, 1994; Lupia and McCubbins, 1998)。

 他方で、政党への所属は、一定のコストを伴う。看板を掲げる以上、政党への肯定的な評価だけでなく、否定的な評価も引き受けることになる。経済社会状況が所属政党に不利な場合には、むしろ政党への所属が得票を減らす効果を持つかもしれない。また政治家の理想とする政策的立場と、政党の掲げる政策案が完全に一致する者は稀だろう。政党を看板として用いるために、政治家は自らの理想を曲げて妥協する必要に迫られる。ポスト配分についても同様で、集団に所属する以上、集団のポスト配分ルールに従う必要が生じる。シニオリティ、幹部の情実主義、能力主義など、それぞれの組織内の昇進ルールに従ってチャンスの到来を待つ他ないのである。このように政党の合理的選択モデルは、政治家の目的追求行動における損得勘定に基づいて、既成政党への政治家の所属、離脱を説明し、あるいはそもそも政党組織の形成そのものを説明するモデルである。

2-2 マルチレベルの政治システムという視点

 ではこれにマルチレベルの政治システムの観点を加えるとどうなるだろうか。マルチレベルの政治システムとは、基礎自治体レベル、県・州レベル、中央政府レベル、超国家政府レベル(たとえばEU)などというように、民主国家において、特定の地域とその住民が属する政治システムが重層的に存在することを意味している★1。またそれぞれのレベルの政治システムは、単体として完結するものではなく、同じ地域で同じ構成員によって成り立っている以上、相互に影響を与え合うと考えられる。国家レベルの政治システムの動態に、地方レベルの政治システムの動態が影響を与える一方で、逆の作用も生じることになる。政党についても従来の議論においては、いずれかの単一システム内の存在として認識され、分析されてきたが、本書では、これを重層的なシステムの中で捉え直し、政治システム間の相互作用に注目しながら理解しようとするのである。

 図11はマルチレベルの政治システムを想定し、レベル縦断的に組織化された全国政党をイメージとして図示したものである。

 マルチレベルの政治システムの中に政党の合理的選択モデルを置きなおす場合には、まず地方政治家の目標設定を微修正する必要が生じる。すなわち多くの地方政治家は、地方政治レベルの議員という側面と、国政レベルの活動家という側面の両面を併せ持っているのであり、地方政治家として、地方レベルにおいて、再選、昇進、政策を目指すことに加えて、国政レベルの政策実現や、国政政治家としてのキャリアアップを目指すと考えられる。もし地方政治家が、国政政党の活動家としての性格をより強く持つ場合には、地方政治レベルでのポストや公共政策、再選を求めることなく、それを多少犠牲にしてでも国政選挙における勝利や国政レベルでの政策実現を求めるかもしれない。

 その上で、図11からは、政党が政治家に対して提供する選挙での看板、役職ポスト、公共政策という3つの財には、その提供のされ方に大きな違いがあることが解る。すなわち役職ポストや政策結果は、各レベルの異なる政府、異なる議会ごとに、それぞれの多数派形成を通じて提供されるが、政党名の看板は、必ずしもそれぞれの政府レベルに限定されず、縦断的に形成される可能性を持つ。もちろん地方や国政といった異なるレベルには、それぞれ別個の政治的争点があり、国政政党とは異なる地域政党が組織され、国政レベルとは異なる独自の政党システムを持つこともあるだろう。

 しかしこうした場合には、政党ラベルは、そのブランド力を弱めることになるだろう。レベルごとに異なる政党、政治的対立軸が存在する場合には、有権者にそれぞれを識別する情報処理の負荷が加わることになるからである。逆に言えば、異なるレベルを縦断して形成された政党ラベルは、有権者の選択をより容易にするのであり、強いブランド力を持つことになるだろう。言い換えれば、異なるレベルに跨って政党組織を維持することは、政治家にとってより効率的な制度デザインであるといえるだろう。

 したがって実際にも、多くの国々で、政党組織、政党ラベルはレベル縦断的に形成されているわけだが、このモデルから示唆されるのは、そのように政党組織がマルチレベルで縦断的に形成されている場合に、政党ラベルがレベル縦断的な一貫性を保っている場合もあれば、そうでない場合もある、すなわち政党ラベルの実質に違いがありうるという点である。具体的には、同じ政党ラベルが用いられてはいるものの、有権者に与えるイメージが、レベルごとにずれているような場合が問題となる。政党ラベルのイメージは、政党の公約、政策実現、議会活動(野党の場合)や、他党との競争・協力関係などによって形成されると思われるが、そうした政党の活動や戦略がレベルごとに異なる場合には、政党のイメージは曖昧になり、政党ラベルが有権者に対して持つ情報伝達力や信頼性は格段に低下することになるだろう。例えば国政政党Aが財政再建を主張しているにもかかわらず、その地方組織Aが選挙対策上、減税を公約するといった場合には、有権者はA党が何を目指す政党なのか、理解に苦しむことになる。あるいは、地方政府レベルと中央政府レベルの選挙結果が異なる場合に、地方政党組織が、国政レベルでは敵対的な政党と連携することで地方与党として政権参加するような場合、すなわち中央政府レベルでは、A党、B党、C党の連立政権が形成され、D党、E党が野党であるが、地方政府レベルではA党、D党の地方支部が連立政権を組み、B党、C党、E党の地方支部が野党となっているような場合には、当該地域において有権者のA党やD党に対するイメージは混乱したものになるだろう★2。政党ラベルの一貫性は損なわれてしまうことになる。

 このように考えると、マルチレベルの政治システムにおいては、各レベルの政治家は、ある種のジレンマに晒されているとみることができる。すなわちレベル縦断的に一貫した政党ブランドを維持して、効率的な選挙戦を可能にするのか、あるいは各レベルの政治システムにおける多数派形成と、そこからもたらされるポストや政策結果をより重視して、政党ラベルを曖昧なものにするかという選択である。政治家は、こうしたジレンマの中での政党組織における中央地方関係を制度化しているものと考えられるのである。

第Ⅰ部 政党地方組織の分析枠組み 第1章 マルチレベルの政治システムにおける政党組織(2)

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