その社長は、首を吊ろうと思ったこの「工場」で、新年を迎えられる喜びに感激して泣いていた
銀行にその名を恐れられる一方、人情派で知られる再建弁護士・村松謙一。NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でも反響を呼んだ、生々しい実話で綴る「会社救済ドラマ12話」。

競売の申立てと全従業員の解雇

 そして、3か月後、宣告どおりRCCにより『競売』が申し立てられた。「債権回収」という強い要望がある以上、それはそれで仕方ないであろう。しかし、この唯一の製造工場に対する競売申立て行為は、債務者に対して再生の意欲を削り、「あきらめて倒産やむなしと覚悟せよ」という事実上の宣告に等しかった。

 当然であるが、A社の経営者は気力も萎え、茫然自失の日々を送っていた。いよいよ、最低競売価格が発表されるというときが来た。全社員を集め、息子のA社長は覚悟を決めて話を始めた。

「皆さん、長い間この会社で一生懸命働いてくれたことに感謝します。会社は多額の借金を負い、返済が困難となりました。せめて、皆さんの職場である…

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