その社長は、首を吊ろうと思ったこの「工場」で、新年を迎えられる喜びに感激して泣いていた
銀行にその名を恐れられる一方、人情派で知られる再建弁護士・村松謙一。NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でも反響を呼んだ、生々しい実話で綴る「会社救済ドラマ12話」。

第Ⅰ部
天国からのプレゼント
-敗者復活ー

敗者復活

 巷では、〝事業再生〟という言葉が華やかに鳴り響いている。

 しかし、私の仕事の流儀は、〝事業再生〟でなく、〝会社の再建〟である。事業再生では、旅館事業、運輸事業、食品販売事業等、「事業そのもの」の再生にこそ重きを置き、人たる経営者たちの存在はその限りで軽んじられることになる。

 当該会社の事業を興した創業者たちの血と汗と涙の苦労があって、その会社の基礎が、根っこが、築かれたのではないか。

 たしかに、現在はその経営判断の誤り等で、その会社は存亡の危機に晒されてはいるが、中小零細企業はその創業者一族の起業精神に導かれて、いまの会社ができ上がっている。

 私は、泥臭いかもしれないが、その色がついて、赤い血の流れる経営者という一人の人間が経営してきたその会社の歴史そのものを、窮地から救いたいと思っている。

 たった1回の誤りだけで、いまの経営者その人に「無能」との烙印を押すのは早計だし危険だ。人間の判定なんて、そんな簡単にできるものでもない。

 失敗の後になす〝行動〟こそ、評価対象とされなければならない。『敗者復活』を認めないゆがんだ競争社会には、断固異論を唱えたい。

 私は、金融機関の「退任コール」の意に反し、経営者を続投させ、その経営者の真摯な反省と学習で、経営の危機の崖っぷちから不死鳥のように立ち上がってきた会社をいくつも知っている。

 だからこそ、彼らのもう一度の頑張りと底力を信じたいし、チャンスを与えたい。

 経営者は孤独である。貸し手の金融機関から激しく責められたら、反論などできはしない。そんな孤独な経営者のそばに寄り添い、少しの勇気と少しの知恵をつけ、再び生きることへの希望の灯を共にともしてみたい。

 それが、弱者救済を掲げる、われわれ弁護士の「使命」であり「正義」ではないか。

 私自身も、再建の仕事ができなかった時期があった。

 そんなとき、そんな経営者に寄り添われて、再び前に一歩踏み出せたのだから。

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