次世代磁気センサーを発明したベンチャー経営者は、なぜ刑事告訴されたのか
【調査報道+】ベンチャーを立ち上げ、電気自動車の制御や生体磁気などの測定精度を引き上げる次世代センサーを発明し特許を取った経営者。古巣のトヨタ系メーカーから「営業秘密を開示された」と告訴されてしまう。しかし特許をめぐる審決では「超伝導現象の発見」に匹敵と高評価され、特許を維持。学術界も盛り上がるが、刑事裁判で有罪となれば発明はどうなる?そもそも知的財産高等裁判所があるのに刑事告訴という戦術は公正な競争なのか。注目されなかった5年に及ぶ裁判をウオッチした記者が日本に技術革新が起きない象徴的事件の裏側に迫る。

世界が驚く次世代磁気センサーを発明 特許400件のベンチャー経営者はなぜ法廷に立たされたのか

技術革新が起きない日本を象徴する事件の裏側

 最先端の発明を成し遂げたベンチャー企業経営者が、技術論争抜きに身柄を拘束されてしまう。それが、技術貧国なのに米国の真似をしてプロパテント政策を導入、新しい技術の芽より陳腐化した技術を手厚く保護する道を選んだ、「知的財産立国」日本のリアルな姿だ。

 磁性物理の応用技術分野のトップランナーの一人でベンチャー企業マグネデザイン経営者の本蔵ほんくら義信よしのぶ被告に対する不正競争防止法違反事件の判決公判が18日、名古屋地裁である。

 本蔵氏はベンチャーを立ち上げ、電気自動車の制御や生体磁気や地磁気の測定の精度を大幅に引き上げられる次世代磁気センサー「GSRセンサー」を発明し特許を取ったところ、古巣のトヨタグループの鋼材メーカー愛知製鋼から「営業秘密を開示された」と告訴され逮捕された。

不正競争防止法違反の犯行現場とされた愛知製鋼岐阜工場

 今回の事件は本蔵氏と愛知製鋼の特許紛争から派生して起きたと考えられるが、その後愛知製鋼が起こしたGSRセンサーの原理特許に対する2件の無効審判請求はいずれも棄却され、本蔵氏の特許権は維持された。審決文は1911年の超伝導現象の発見を引き合いに出すほどに本蔵氏の発明を高く評価し、「新現象を発見した基本発明」としたのだ。

 本蔵氏のGSRセンサー論文は、磁性物理とセンサーの二つの分野において、それぞれ最も権威のある学術誌に査読付きで掲載され、学術界は新発明に盛り上がっているのだが、裁判で有罪となればこの発明はどうなってしまうのだろうか。

 そもそも知財問題を専門に扱う知的財産高等裁判所が存在する中で、今回の愛知製鋼のように刑事告訴という戦術をとることは、公権力が相手の身柄を拘束することにつながり、特許紛争を有利に進める手段として公正な競争行為といえるのだろうか。

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