三 光琳──非情の伝統
真空に咲きほこる芸術
若い日、パリのラテン区のサン・ミッシェル通りを歩いていたときのことです。そのころ(一九三二、三年)、私はアプストラクシオン・クレアシオンという、アヴァンギャルドの抽象芸術運動に参加して、過去の絵画の自然主義的な約束ごとや形式をいっさい御破算にした、新しい、もっとも近代的な造型の可能性を探究しながら仕事を進めていました。
いつものように、町角の本屋のショーウィンドーをなんの気なしにのぞいて、オヤッと思いました。そこに、光琳の「紅白梅流水図」がある。
グイと、それは私の全身をひっとらえて、こっちに飛んできました。
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