「あるべき家族像」が変わり、支援の輪が広がってきている
いっぱいいっぱい、綱渡りの日々。なぜこうも生きづらい?

1章 ひとり親家庭の現在

 あなたはシングルマザー、シングルファーザーというとどんなイメージをもっているだろうか。

 いつも忙しくしている、お金がなさそう、髪を振り乱して働いている母親というイメージがあるかもしれない。あるいは、手当をもらってゆとりのある暮らしをしている人、男にだらしない人とか、生活保護をもらってブラブラしている、というイメージもあるかもしれない。

 シングルファーザーだと、家事育児は同居する母親にお願いして働き続けるお父さん、というイメージが強いのだろうか。

 こうしたイメージはメディアでつくられることもあるし、近所にいるシングルマザーの人がたまたまそうだったというだけで全部のひとり親がそうだと思っている人もいる。どれも非常にステレオタイプなイメージである。

 ではひとり親の実像はどうなのだろうか。本当に福祉に依存し働いていないのか、本当に子どもを放置している人が多いのか。日本のシングルマザーの現在をデータなどから伝えたい。

四〇年前から二倍になったシングルマザー

 まずこの日本にどのくらいのシングルマザー、シングルファーザーがいるのだろうか。

 現在、日本の母子家庭数は約一二四万世帯(同居者がいる世帯を含む)、父子世帯数は約二二万世帯(同)(いずれも二〇一一年全国母子世帯等調査による推計)である。厚生労働省が五年ごとに行うこの全国母子世帯等調査は、母子・父子以外の同居親族がいる世帯も含めた二〇歳以下の子どものいる母子家庭、父子家庭を調査している。この推移をみると、一九九八~二〇〇三年にかけて、母子家庭数は二〇%以上増加している(図表11参照)。

 父子家庭は約二二万家庭で二〇年前から比べると約三三%増加している。

 母子家庭のほうは、推計値ではあるが、この四〇年間で約六〇万世帯から約一二四万世帯へと二倍に増加した。特に一九九八~二〇〇三年にかけての増加率が著しい。

 母子家庭になった理由をみると、離婚が八〇・八%、死別は七・五%、非婚の母は七・八%となっている。死別が大幅に減り、離婚が増える傾向で、さらに二〇一一年調査で初めて非婚が死別の数を超えた。一方で父子家庭になった理由は、離婚が七四・三%、死別が一六・八%、非婚は一・二%となっており、父子家庭のほうが死別の割合が高い結果となっている。

 日本の離婚件数は、先進国の中ではかなり少ないほうだが、近年増加してきた。離婚件数は二〇〇三年の二八万九八三六件をピークに減少、二〇一三年は二三万一〇〇〇件とやや落ち着いてきている。

 母子世帯が大きく増えた理由について、女性の経済的自立や女性の意識の変化を理由に挙げる考え方がある。たとえば、厚生労働省の「母子家庭等施策に関する基本方針研究会」(二〇〇三年)は、女性の経済的自立の進展と離婚の障害が少なくなったことが要因であると述べている。

「近年の離婚増加の原因については、事情は様々であるため、一概には言えないが、そのひとつには、離婚に対する考え方の変化や、女性の経済的自立の進展等近年の社会情勢の変化により、以前に比べ、離婚の障害が少ない環境になってきていることが考えられる」

 そうなのだろうか。一九九八~二〇〇三年は実は離婚が激増した年代である(図表11参照)。本当にこの時期に女性の経済的自立が進んだと言えるのだろうか。たしかに女性の雇用者が増えてはいるが、男女の賃金格差は先進国の中でも非常に大きいままであり、正社員比較で女性の賃金は男性の約七〇%、さらに女性の非正規労働は増え続け、二〇一二年には五七・五%となった(賃金構造基本調査、就業構造基本調査)。また、女性の管理職も増えてはいるが国際的にみてその割合は非常に低い。出産・育児で退職する女性は多いので女性の継続就労率も上がっていない(出生動向基本調査)。離婚件数の上昇を単純に女性の経済的自立の進展の結果ととらえるにはためらいがある。

 むしろ、一九九〇年代から二〇〇〇年代にかけての貧困問題の広がりが影響していたと考えるほうが適切なのではないだろうか。景気変動と離婚件数が相関するという見解もある。社会学者の加藤彰彦は、「近年の離婚増加は、全体としてみれば、日本経済が高度成長から低成長・ゼロ成長へと転換していくなかで、社会階層要因が強く働くようになったことによりもたらされたこと、いいかえれば、経済成長には、結婚を不安定化させる社会階層の効果を緩和する効果がある」(加藤彰彦「離婚の要因──家族構造・社会階層・経済成長」二〇〇五年)としている。この研究結果は、相談やセミナーで出会うシングルマザーの経験と大いに重なっている。

 ひとり親が増えてきたというが、子どものいる世帯のうちで、ひとり親世帯の率はどのくらいなのだろうか。同居親族がいない単独母子世帯の場合には約七%、同居親族のいる母子世帯も含めると約一〇%となるようだ。地域によってはクラスの半分がひとり親の子どもであるというところもある。地域によってばらつきはあるが、平均でクラス四〇人の中に四人程度ひとり親の子どもがいる時代になってきている。

ドメスティック・バイオレンスや経済問題が動機に

 離婚理由とは具体的にどのようなものがあるのだろうか。司法統計婚姻関係事件における申立ての動機を見てみよう。

 図表12は、申立ての動機を三つまで挙げる方法で重複集計したものであるが、「性格が合わない」は夫側に多いが、妻の動機の二番目以降には「暴力を振るう」「精神的に虐待する」「生活費を渡さない」などドメスティック・バイオレンス(DV)が挙がっている。そのほかの理由としては異性関係、浪費などがある。

 日本の離婚制度は独特で、夫婦の話し合いで離婚の合意ができれば市町村役場の戸籍係に届け出るだけで離婚できる協議離婚制度がある。夫婦の話し合いがつかなければ家庭裁判所へ夫婦関係調整の調停を申し立て、裁判所から呼び出されて調停委員を交えて双方で話し合い(調停)、それでも不成立の場合は裁判が行われる。先に挙げた申立事由は裁判所を経由した婚姻関係に関する申立ての動機であり、八割を占める協議離婚についての統計はないのが実情である。

 よく「安易な離婚が増えている」と言われるが、しんぐるまざあず・ふぉーらむで行っている相談事業やグループ相談会での相談から見ると、いわゆる「安易な離婚」という事例にはあまり出会わない。「離婚によって子どもから父親を奪っていいのだろうか」「子どもに悪影響はないだろうか」と悩んだ末の決断が多い。

 ──DVがあり別居したが、子どもたちにとっては父親なので、離婚していいものか悩んでいます。

(四〇歳、二歳と四歳の男の子、別居中)

 ──夫は私が第一子出産で両親の家に戻っている間にギャンブルで借金を重ねていました。戻ってきたら借金返済の督促が来るので、電気、ガスが止まって寒冷地だったのでふとんをかぶって震えていたこともある。その後元夫は債務整理してまじめに返済を続けていた。第二子が生まれるときにまた実家に戻るのは不安だったが、二度とあんな馬鹿なことはしないと約束したし上の子もいたので、両親の家で産前産後を過ごした。戻ったらサラ金から借りられないので、今度は闇金からお金を借りていた。取り立てが厳しくて。小さな子を抱えてもう離婚するしかないと思って調停を申し立てました。

(四五歳、一七歳と一四歳の子、一四年前に離婚)

 子どもがいる場合の離婚にはかなりのハードルがあり、それでも決意せざるをえない事情がある。それは、経済的な問題や、夫からの暴力や虐待であることも多い。しんぐるまざあず・ふぉーらむが行った調査では、離婚時に「経済的な問題があった」のは五五・七%、「暴力や虐待があった」は五七%となっている(『母子家庭の仕事とくらし③』二〇一一年。この調査対象者は、学歴や収入が平均よりもやや高い層ではある)。

生活が苦しい

 次に、ひとり親たちの経済的な状況と仕事の状況について見ていこう。

 シングルマザーの平均年収は二二三万円、平均年間就労収入が一八一万円となっている。またシングルファーザーの平均年収は三八〇万円、平均年間就労収入が三六〇万円である。これを子どもがいる世帯全体の平均年収六五八万円と比べると、シングルマザーは約三四%、シングルファーザーも約五八%となる(二〇一一年全国母子世帯等調査)。

「相対的貧困率」を見ると、日本ではひとり親の貧困が際立つ。相対的貧困率とは、収入から税や保険料などを引いた可処分所得を等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出)が全人口の中央値の半分未満である世帯員を相対的貧困の状況にあると考え、その占める比率を指す。二〇〇九年の子ども全体の貧困率が一五・七%であるのに対して、ひとり親の相対的貧困率は五〇・八%である(厚生労働省「国民生活基礎調査」二〇一二年)。二〇〇〇年代半ばには六〇%近かった。日本では、七人に一人の子どもが貧困状況にあり、特にひとり親家庭の子どもたちは、最新の統計でも二人に一人は貧困状況にある、ということになる。

 年収分布をみると、平均年間就労収入が一〇〇万円以下のシングルマザーは二八・六%、一〇〇~二〇〇万円未満は三五・四%であり、収入が二〇〇万円以下の人が約六割を占めることがわかる。世帯収入をみても年収二〇〇万円未満が三七・二%もいる。現在年収二〇〇万円以下の場合、単身であっても暮らしていくのは非常に苦しい。しかし、シングルマザーの場合には、子どもがいてこの収入である。

 では資産はどうだろうか。収入が少なくても、預貯金などの資産があれば、生活の状況はずいぶん違う。まず預貯金を見てみよう。持家については後でふれる。前述の全国母子世帯等調査の結果、四七・七%のシングルマザーは五〇万円以下の預貯金しか持っていないことがわかった(二〇一一年)。死別では預貯金が五〇万円以下という人が一九・五%であるのに比べ、離婚など生別の場合には、五〇%の人が預貯金五〇万円以下である。一〇〇〇万円以上の預貯金をもっている人は死別シングルマザーでは二七・六%に上る。

 離婚など生別のシングルマザーの多くは自転車操業の生活である。子どもが高校生となり、大学への進学希望を持っていたとしても、預貯金が少なくて、行きなさいと言えない、あるいは全額奨学金頼みとなる世帯が増えている。

 その結果、生活が「大変苦しい」と感じる母子世帯は五〇・五%、「やや苦しい」と感じる母子世帯が三五・一%と合計で八五・六%の母子世帯が生活が苦しいと答えている。世帯全体での「大変苦しい」と「やや苦しい」と答える世帯の割合(五九・四%)や高齢者世帯(五一・五%)、児童のいる世帯(六五・七%)と比較しても突出して高い(厚生労働省「国民生活基礎調査」二〇一二年)。

 生活が苦しいというのはどういう状態なのだろうか。食べるものがない、という人もいるが危機的な人は少ない。しんぐるまざあず・ふぉーらむの子ども向けの会でも、交通費がないので会合に来られない子や、長い祝日の間にご飯を食べていなかったと言って出したお菓子をたくさん食べる子がいるのは事実である。学校の養護教諭に聞くと「お弁当を持たないで遠足に来る子にこっそりコンビニのおにぎりを持たせるなどの体験は教員ならだれでもしている」という。その多くはひとり親の子だという。

 ひとり親世帯で、電気、ガス、電話料金の未払い経験のある世帯は同居親族のいないひとり親で一六~一九%に及ぶという(阿部彩「家族が直面する生活不安の実態」二〇一二年)。

 身なりを見ただけでわかるような貧困ではないかもしれない(そういう子どもたちももちろんいる)。だが、私が接する多くのひとり親の状況は、働いていて、家賃を払い、食事をすることは、切り詰めながらなんとかできている。だがそれも綱渡りの生活である。親きょうだいなどの援助があればわりに安定している。だがそれでもお金を貯めるということができず、結果的には子どもをひとり立ちさせるように支援していくような教育やチャンスを与えることがしにくい、まして母親本人のために何かお金を使う余裕はない。旅行に行くのはぜいたくと思う暮らしなのである。

1章 ひとり親家庭の現在(2)

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