ツイッターの社内では不安が広がった。トランプ支持者が報復に出る可能性もあったからだ
フォロワー8800万人。トランプ前米大統領がメガホンとして愛用してきたツイッターの凍結に、米ツイッター社最高経営責任者(CEO)のジャック・ドーシーは二の足を踏んでいた。永久凍結までのツイッター社で起きた内幕ドキュメント!

カットオフ・トランプ 

ツイッター社内部で何が起きたのか?

 トランプ前米大統領がメガホンとして愛用してきたツイッター。米ツイッター社最高経営責任者(CEO)のジャック・ドーシーは大統領のアカウントを凍結することには二の足を踏んでいた。だが、暴力行為をあおるツイートは一線を越えていた。

(取材・執筆 ケイト・コンガー、マイク・アイザック)

ポリネシアの孤島に入った緊急電話

 サンフランシスコ発――フランス領ポリネシア内の孤島には、パパラッチを逃れて多くのセレブがやって来る。ツイッターCEOのジャック・ドーシー(44)もその中の一人。202116日に電話がかかってきたときはリモートワーク中だった。

 電話の主は、ツイッターの法務・安全部門責任者ビジャヤ・ガッデ(46)。その日にトランプ支持者が暴徒化し、アメリカ連邦議会議事堂に乱入したのを受け、急きょドーシーとの電話会談に臨んだ。

「経営チーム内で協議の結果、トランプのアカウント停止を決めました」

 トランプはツイッターをメガホンとして使い、それまで暴力行為をあおるようなメッセージを投稿していた。議事堂乱入事件後も暴徒を一段と刺激するようなツイートをしかねなかった。それを踏まえ、ガッデはトランプのアカウントを一時的に停止するべきだと判断し、経営チームの了解を取り付けたのである。

 電話会談の内容を知る関係者2人の証言によると、ドーシーはトランプのアカウント停止にためらいを見せた。無理もない。たとえ投稿内容が極悪であっても、プラットフォーム上で世界のリーダーは自由に発言する機会を与えられるべきだ――これをかねて信条にしてきたからだ。事実、過去4年間にわたって、トランプのアカウント停止を唱えるリベラル派の要求をはねつけていた。

 だが、ドーシーはアカウント停止を受け入れた。そもそもコンテンツモデレーション(有害コンテンツの監視・削除)に関してはガッデに権限委譲しており、それまで彼女の決定を覆すことはめったになかったのだ。今回も例外ではなかった。

 ドーシーはトランプのアカウント停止を苦々しく思いながらも、自分の気持ちを公にすることはなかった。ただ、翌日にはアカウントの永久凍結に批判的な投稿をリツイートしたり「いいね」したりしていた。

 ところが、である。ドーシーの気持ちとは裏腹に、それからの36時間でツイッターはアカウントの一時停止――その後に停止解除――からさらに一歩踏み出し、アカウントの永久凍結を決めたのだ。これによって、トランプは8800万人のフォロワーだけでなく全世界に向けて自分のメッセージを直接伝えるプラットフォームを失った。

16日、トランプ大統領の呼び掛けに応じてアメリカ連邦議会議事堂へ行進するトランプ支持者 Kenny Holston for The New York Times

「トランプを野放しにしたら新たな暴動が起きかねない」

 アカウントの永久凍結はトランプの時代に一つのピリオドを打つと同時に、「ビッグテック」と呼ばれる巨大IT(情報技術)業界への批判を引き起こした。「ビッグテックには政治的なバイアスが掛かっている」「ビッグテックの権力は厳しく監視されるべきだ」といった声が相次いでいるのだ。

 本紙は1週間にわたってツイッターの現社員・元社員ら関係者12人にインタビューし、同社がトランプの排除を決めるまでの経緯の再現を試みた。ここで浮かび上がったのは、複数の経営メンバーが結束して腰の重いドーシーを突き動かした構図である。起点となったのは議事堂乱入事件だ。

 議事堂乱入事件の翌日になり、ツイッターはトランプのアカウントを復活させた。とはいっても、暴力を賛美するようなツイートを再び発見したら、アカウントの永久凍結に踏み切る意向だった。

 ここで出番となったのがツイッターのセーフティー(安全)チームだ。アカウント復活後にトランプがどんなツイートをし、どんな影響をもたらすのか分析する役目を担った。

 セーフティーチームはインターネット上をくまなく調査しているうちに、右派が集まるソーシャルメディア「パーラー」上で興味深い動きを発見した。一部のトランプ支持者が武装集団に向けて「バイデン次期大統領がホワイトハウス入りするのを阻止せよ」「武装集団の行動を邪魔する者を見つけたら戦え」などと呼び掛けていたのだ。トランプをツイッター上で野放しにしていたら、現実の世界で新たな暴動が起きかねない――これが結論になった。

 そもそもツイッターはトランプのアカウントを閉鎖するようかねてプレッシャーを受けていた。ビッグテックを敵視する連邦議員やIT投資家に加えて、ツイッターがトランプのメガホンと化している現状に我慢ならない社員からも、である。議事堂乱入事件直後には300人以上の社員が立ち上がり、経営陣に対してアカウント閉鎖を求める書簡に署名している(ただし、社内関係者2人によれば、書簡が経営陣に届く前にアカウントの永久凍結は決まっていた)。

 ドーシー自身もツイッター社内で激論があったことを示唆している。113日にツイッター上で13本のメッセージを連続投稿し、「私は@realDonaldTrump(トランプのアカウント)の永久凍結を祝福できないし、誇りにも思わない」「永久凍結によってわれわれは健全な言論を促すという目標達成に失敗した」などと嘆いた。

 それでもドーシーは次のように付け加えている。「永久凍結は正しい決断だった。われわれは暴力行為を目の当たりにするなど異常事態に直面していた。安全最優先で行動するしかなかった」

 本紙はドーシー、ガッデ、ホワイトハウスにコメントを求めたものの、回答を得られなかった。

「ツイッターはダブルスタンダードを使っている」

 トランプがツイッターから締め出された後、ドーシーが抱いていた懸念の多くが現実になった。ビッグテックの強大な独占力や説明責任の欠如をめぐって批判が噴出し、ツイッターは矢面に立たされたのだ。

 声高にツイッターを批判したのは、①カリフォルニア州選出の下院議員デビン・ニューネスをはじめとした連邦議員、②シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、③アメリカ憲法修正第1条を専門にする学者、④非政府組織(NGO)のアメリカ自由人権協会(ACLU)――などだ。世界各地の活動家の間では「ツイッターはダブルスタンダードを使っている」との指摘が多かった。ツイッターはトランプを排除したにもかかわらず、政治弾圧を続ける他国の独裁者を放置していたからだ。

 オンライン言論の専門家で米ハーバード大学ロースクールの講師を務めるエブリン・デュエックは次のように語る。「アメリカ大統領をツイッターというプラットフォーム上から追放するのはとんでもない権力の乱用だ。もっと議論を深める必要がある」

 ツイッターにとってトランプは強力な援軍になると同時に、破滅の導火線ともなる存在であった。

トランプ大統領のアカウント停止後、プラカードを手にした活動家がツイッターのサンフランシスコ本社前に現れた。プラカードにはツイッターCEOのドーシーに宛てたメッセージが書かれている Jim Wilson/The New York Times

 実業家だけでなくテレビタレントとしても活躍し、高い知名度を誇っていたトランプ。2009年にツイッターのユーザーになると一気にフォロワーを増やし、新規ユーザーの獲得に苦しんでいたツイッターにとって貴重な広告塔になった。しかし一方で、うそをまき散らしてハラスメントを引き起こすなど、災いのもとになることも多かった。

 5400人以上に上るツイッター社員の多くはトランプのツイッター利用を苦々しく思っていた。

 20198月、テキサス州エルパソにあるウォルマート店内で銃乱射事件が起き、20人以上の死者が出たときのことだ。ツイッターは「フロックトーク」と呼ばれる社員ミーティングを開催し、事件とトランプのつながりをめぐって議論を戦わせた。犯人が事件前にオンライン上に投稿していた白人至上主義的なマニフェストはトランプのツイートを反映していた可能性がある――こんな指摘があったのだ。

 参加者2人の証言によれば、ミーティング中に複数の社員が「ツイッターはトランプのメガホンだから事件の共犯者」と断じ、経営陣に対して「さらなる被害が出る前に行動を起こすべきだ」と迫った。トランプはツイッターを使って犬笛を吹き、支持者に向けて人種差別的なメッセージを送っていたのではないか、というロジックを展開したという。

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