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Vol.33 ウクライナ問題でもスクープ連発「べリングキャット」と独占配信の契約をしました イベントも開催

 ウクライナ問題に関するスクープを次々と放っている「べリングキャット」をご存じでしょうか。いま、世界が注目する調査報道グループです(本拠はオランダ)。SlowNewsは、彼らと日本での独占翻訳配信の契約を結びました。べリングキャットが海外メディアに配信をするのはアジアでは初めてです。34日から最新のスクープを、次々とお届けします。

 また当日夜には、ジャーナリストの池上彰さんと、べリングキャット代表のエリオット・ヒギンズさんが対談するオンラインイベント「ウクライナ情勢とデジタル調査報道」を開きます。(※追記 イベントは終了しました)

世界から注目されている理由

 べリングキャットがなぜ今、注目されているのか。

 それは現在のウクライナに関する報道だけではありません。彼らが従来のメディアとは違った手法を使って取材をしているからです。報道するターゲットもテーマも、これまでのメディアではなかなか届かなかったところにリーチし、世界の人々が本当に知りたい隠された事実を暴き続けています。

 彼らが最初に注目されたのは20147月、今話題になっている親ロシア派が力を持つウクライナ東部地域の上空でマレーシア航空機が何者かのミサイルで撃墜され、298人近くが死亡した事件についての報道でした。

 SNS上の画像や動画を収集・解析し、事件当日に現場付近にいたミサイルを積んだ車両が移動していたルートを解明。この車両が前の月にはロシア国内にいたこと、事件の翌日に再びロシアの国境方面に向かっていたことを割り出し、その車両から積んでいたミサイルが1発なくなっている動画も確認しました。

 さらに公表されていた電話傍受の記録や、さまざまなサイトから集めたデータをもとに、指示を出していた人物たちを特定して報道しました。これをきっかけに、事件を捜査するオランダ・マレーシア当局などが立ち上げた国際合同捜査チームもロシア政府の情報機関の元幹部ら4人を殺人の疑いで起訴したのです。

 ロシアのプーチン大統領は疑惑を否定しましたが、捜査当局が起訴という形で追認したことによって、「ベリングキャット」の名は一躍、世界に知れ渡ることになりました。

ミサイルでの撃墜についてのまとめ記事 べリングキャットのサイトより

  その後も2018年のロシア人元スパイ毒殺未遂事件では、イギリス当局が公開した写真から、実は彼らのうちの1人がロシア軍の情報機関(GRU)の大佐であり、もう1人は軍医であると特定し、報道しました。

 2020年にも、ロシアの反体制政治家アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件で、ロシア連邦保安庁(FSB)の工作員が関わっていたとする報道を放つなど、ロシアや中国、シリアなどを向こうに回して、世界が驚くようなスクープを連発しています。

 そして今、ロシア側がウクライナの攻撃の証拠として報道した画像や映像には疑わしいものが多々あるということや、ウクライナの住宅街でクラスター爆弾が使われた疑いがあることなどを指摘する独自の発信を、次々と放っているのです。

べリングキャットの公式ツイートより

デジタルデータを駆使した新たな「手法」

 べリングキャットが使った調査手法は、「オープンソース・インテリジェンス(OSINT=オシント)」とか、「オープンソース・インベスティゲーション(公開情報調査)」と呼ばれるものです。

 ネット上に公開されている画像や動画、SNSの内容、各種データ、地図情報などを入手し、最新のツールを使って丹念に分析することで、離れた場所で起きていた事実や、権力が隠そうとしていることを暴き出す手法です。

 創始者でイギリス人のエリオット・ヒギンズ氏は、20147月にベリングキャットのサイトを立ち上げ、OSINTに取り組むメンバーに発表の場を与えました。元々は「ゲーマー」で、プロのジャーナリストとしての経験のない彼は、世界中の仲間とともにゲーム感覚で国際的事件の解明に乗り出していったのです。今や、各国の政府が彼らの動向に注目しています。

べリングキャットの創始者、エリオット・ヒギンズ氏

 べリングキャットのもたらした新時代のジャーナリズムに刺激を受けた世界のメディアも、いまOSINTに取り組み始めています。ニューヨーク・タイムズやイギリスの公共放送BBCにべリングキャットの元メンバーが移籍し、オープンソースを駆使した報道を展開。当初は事故だと発表されたウクライナ航空機の墜落をミサイルによる撃墜だったと報じたほか、カメルーンの兵士による虐殺を暴く調査報道を放っています。

 日本でも彼らからOSINTの手法を学んだNHKの取材班が、軍事クーデーターが起きたミャンマーで何が起きているかを解明するプロジェクトを進め、2020年の新聞協会賞にも輝いています。

34日から記事を配信 池上彰さんも登場するオンラインイベントも

 べリングキャットの由来はイソップ童話の「猫の首に鈴」。自分たちこそが権力者の首に鈴をつけて監視するという意味合いが込められています。

 そんなべリングキャットの最新の調査報道を、SlowNewsで日本語でも読めるようになりました。今月4日から配信します。

 また、当日夜には、世界の最新情勢に詳しく、べリングキャットの活動に当初から注目されていたジャーナリストの池上彰さんをお招きし、イギリス在住のヒギンズ代表とオンラインでつないだイベントを開催いたします。べリングキャットが手掛けてきた報道や、緊迫するウクライナ情勢、そしてジャーナリズムのこれからについても語っていただきます。

開催日時:34日(金)午後7時から1時間程度オンライン開催

募集方法:こちらからお申し込みください。後ほど参加用のURLをご案内します。

参加費:無料

追記 このイベントは終了しました。

 SlowNewsは、これまでプロパブリカ、ニューヨーク・タイムズ、ガーディアンなどの海外のメディアと提携して、優れた調査報道、リポートを邦訳配信してきました。今回、べリングキャットと独占邦訳配信の契約を結んだことで、海外メディアの配信は4媒体となります。

 今後の配信に、ぜひご注目ください。

 

【参考文献】

黒井文太郎『スクリパリ毒殺未遂犯をロシア軍大佐だと調べ上げた検証サイト「べリングキャット」とは』(Yahoo!個人 2018918日)

小林恭子『スパイ事件の容疑者特定、調査報道サイト「べリングキャット」とは - 公的な情報を中心に「探偵」作業』(NewsDigest 2019年1018日)

古川英治『公開情報から事実追求 エリオット・ヒギンズ氏』(日本経済新聞 2019125日)

八田浩輔『SNS情報で国際的事件の謎を暴く「すご腕チーム」<ベリングキャットの衝撃>』(毎日新聞・政治プレミア 2020123日)

高木徹『41歳のゲーマー、部屋から一歩も出ずに権力者の不都合な真実を暴く』(現代ビジネス 2020516日)

水島宏明『「世界一面白いゲームだ」ネット情報から事件の真相に迫る“デジタルハンター”の素顔とは』(文春オンライン 202165日)

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