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Vol.17 事件ノンフィクションは面白い! 「逃げるが勝ち」高橋ユキが選ぶ10作品

SlowNewsで大きな反響を呼んだオリジナル記事『逃げるが勝ち 逃走犯たちの告白』の筆者、高橋ユキさん。裁判傍聴や事件取材を続けてきた高橋さんがSlowNewsで読める事件記事やノンフィクションで気になった作品は何なのか。「事件」を読む魅力とともに、おすすめの10作品を挙げてもらいました。

高橋ユキ

傍聴人。フリーライター。1974年生、福岡県出身。著作に『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など。

——高橋さんには執筆者としてのみならず、SlowNewsのヘビーユーザーとしても大変お世話になっておりまして。

高橋 トップ画面に「最近追加された作品」ってありますよね。毎日のように新しい作品がどんどん入ってきていて、読んでいなかった新書や、知らなかった海外記事を発見できるのはありがたいです。Amazonのノンフィクションから「殺人」のカテゴリーを上から順番に買って読んだりするんですけど、カテゴリで探すのとは違う出会いがあるのは新鮮です。海外記事だと「GAFAもの」最近多いですよね? フェイスブックの裏事情をニューヨーク・タイムズが取材した記事とか。短時間で読み切れる長さの記事だから、いつも読んでます。

SlowNewsってユーザーに対して余計なことをしない設計思想を持っていると感じているんですけど、デザインがシンプルで使い心地も良いですよね。ノンフィクション書籍が横書きで読めるのも私としては嬉しいんです。デバイスの形にあったインターフェイスやデザインが、読みやすさには大事だと思っているんですが、最適化されていると思ってます。スマホとかタブレットで読むのにはぴったりですね。

高橋ユキさんが選ぶ10作品

『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書、2009

『誘蛾灯 二つの連続不審死事件』(講談社、2016

『暗殺国家ロシア』(新潮社、2013

DV——殴らずにはいられない男たち』(光文社新書、2001

『アンジロッティ刑事 最後の事件』(The New York Times 、2021

『知られざるフェイスブックの「汚れ仕事」』(The New York Times 、2021

『カットオフ・トランプ ツイッター社内部で何が起きたのか?』(The New York Times 、2021

『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書、2017

『水納島再訪』(講談社「群像」、2021

『熱狂の復興』(SlowNewsオリジナル、2021

事件ルポの中の「スナックのやりとり」

——高橋さんには「事件ノンフィクションは面白い」ということで、SlowNewsに収録されている作品からいくつか激推しを教えていただきたいなと思っているのですが、どうでしょう。

高橋 事件ものだと、『精神障害者をどう裁くか』(岩波明、光文社新書)と『誘蛾灯 二つの連続不審死事件』(青木理、講談社)の2冊をおすすめします。

『精神障害者をどう裁くか』は、まさに刑法39条との関係、心神喪失の話です。殺人罪の裁判では被害者が複数人の場合、心神喪失が問題になることが多いですよね。先日も神戸地裁が2017年に起きた神戸5人殺傷事件について「事件当時、被告は心神喪失の状態だった疑いが残る」として無罪を言い渡しました。これは2009年刊行ですが、刑法39条の基本的なところを理解する上で、今読んでも充分学びがあると思います。ニュースを深く理解するための一冊という気がします。

『誘蛾灯』は鳥取のスナックのホステスの周囲で6人が不審な死を遂げたという事件をひもとく作品。この事件、ちょうど木嶋佳苗の事件と同じ時期だったんですが、私や他のジャーナリストは多くが木嶋事件の取材をしていたんです。でも青木さんは「そういうのは嫌だからオレはこっちをやるんだ」と。そんな、あまのじゃくみたいなことを書いていて、それが素敵だなと思って読み進めていったんです。

事件そのものも興味深いんですけど、個人的には途中に挟まれる彼女が働いてた「カラオケスナック・ビッグ」に行って世間話をする箇所がいいなぁと。

「あーらぁ、青ちゃんじゃないっ。もうっ、ゆうべはなんでこんかったのぉ。ずっと待ってたんやでぇ」

「アキちゃん! 青ちゃんにカニ、カニ出したげて。あと、カレイの煮付けとイカさんの刺身もな」

——青木さん「青ちゃん」って呼ばれてて。

高橋 深刻な事件のルポなんですけど、読んでいる方も小休止できるのがこのスナックのやりとりですよね。ところどころに、スナックのシーンが挟まる。もちろん計算の上の構成だと思いますし、実際これがあることですごくバランスが良くなっていると思います。

それから私がいちばん好きで尊敬している女性ジャーナリストの福田ますみさんの作品『暗殺国家ロシア』。ちょうどドミトリー・ムラトフさんが今年ノーベル平和賞を受賞したという話題もあって、これはSlowNewsできちんと読みたいなあと、あらためて読み始めました。

福田さんは『モンスターマザー』や『でっちあげ』など、こんなテーマの切り口があったんだということから驚かされる作品が多いんですが、実際に読んでみると一筋縄ではいかない内情が盛りだくさんで、一気に読んでしまうんですよ。筆のタッチは冷静で、それが読みやすさのひとつだと思うんですが、取材で明らかにされていく事実と展開がすごい。福田さんの作品はもっとSlowNewsで読みたいですね。

——ユーザーの皆さんからも、こんな本を収録してほしいとリクエストが来ることあるんですよ。

高橋 私もリスト作ってリクエストさせてもらいますね(笑)。たとえばU-NEXTで配信している事件ドキュメンタリー「ゴールデン・ステート・キラーを追え」の原作、『黄金州の殺人鬼』(ミシェル・マクナマラ、村井理子訳、亜紀書房)とか。亜紀書房には海外事件ものの読み応えある翻訳作品がいっぱいあるんですよ。

それからこれも事件ものとしておすすめしてもいいと思っているんですが、豊田正義さんのDV——殴らずにはいられない男たち』。これも読み始めたらとまらずに一気に読み切ってしまいました。2001年の作品でちょっと古いんですけど、いまとほとんど事情が変わらない。DVをしている加害者に取材をしているのが凄まじいですが、考えてみると、それを男性である豊田さんが取材しているのも珍しい感じがします。

向こうだとズームで裁判を傍聴できるんだなあ

——先ほど海外記事をよく読むということでしたが、事件もので何か面白かったものはありますか?

高橋 『アンジロッティ刑事 最後の事件』ですね。ニューヨークタイムズのタグで検索して見つけたんですけど、退職間近のベテラン刑事が昔の事件の犯人がこいつじゃないかと目星をつけて関係を築いていって、最後にすべて喋らせるという……。Netflixも事件ドキュメンタリーに力を入れていると思うんですが、まさに映像作品にもなりそうなストーリーです。

刑事の熱意がもうホントに読みどころ。日本と海外の司法制度の違いも興味深い。向こうだとズームで裁判を傍聴できるんだなあとか、けっこう驚きました。

ただ、ひとつ気になったのは、アンジロッティ刑事が「こいつが犯人じゃないか」と目星をつけた理由が、“刑事の勘”みたいな感じでさらっと文章で流されているんですよね。「トルソキラー」と呼ばれる、胴体だけを残す連続殺人で刑務所に入っていた男が犯人なんですけど、なんでこの人が昔の事件もやっていたと思ったのか……。気になる余韻とともにおすすめします。

——海外記事では「GAFAもの」にも注目しているとのことでしたね。

高橋 巨大テック企業が扱う「有害コンテンツ」が今後どうなっていくのか、そこを深く知ることができる記事が揃っている感じですよね。中でもニューヨーク・タイムズの『知られざるフェイスブックの「汚れ仕事」』は衝撃的でした。巨大企業の最末端で働く人に、資本主義のしわ寄せがいって、かわいそうなことになっているという……。有害コンテンツを削除するため、目を皿にして数えきれないほどの投稿を監視し続けるという、聞くだけでもストレスフルな仕事の内情に迫っている。関わる人たちが、心を病んでどんどん辞めていっているという現実には、ちょっと言葉もない感じがしました。

GAFAじゃないですけど、Twitter社のインサイドストーリーを描いた、これもニューヨーク・タイムズの『カットオフ・トランプ ツイッター社内部で何が起きたのか?』も面白かったです。トランプ前大統領のTwitterアカウントが凍結された件で、Twitter社内で何があったのか。トランプ大統領のツイートは散々問題になってきましたが、この問題を企業ドキュメンタリーとして描くと全く別の様相が見えてくる。単純にTwitterのCEOがリゾート地にいたら電話が入ってきて、トランプツイートの危機対応が始まった、みたいな内情はおもしろいですよね。こういう記事がもっと読みたいです。

表現の自由とSNSのバランスというのはいつも考えているところがあって、次はTikTokの内情なんか読んでみたいですね。ユーザーの中心が若い世代のSNSはどうなっているのか。きっと何かあるに違いないって思っちゃうんですけど。

バッタとフリーライターの哀愁

——高橋さんは仕事が「事件」に直結していますけど、SlowNewsで「事件もの」以外を読むこともありますか?

高橋 むしろそっちの方が多いです。先日は、原稿がひと段落してのんびりしようかなという時に、ある人から「サイエンスフィクションが面白い」って聞いて『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎、光文社新書)を読んでみました。

これも読み始めたら残ってた仕事そっちのけで夢中になって(笑)。著者の前野さんは提出した研究計画が大学に認められたら研究費がもらえる、という生活をしているんですよね。ところが計画が認められたものの、渡ったアフリカでバッタに出会えないと研究にならない。それで苦労している姿が正直に描かれている。これ、読んでいるとフリーライターの哀愁と同じだなって感じてしまいました。定期収入がない中で、研究費を得るためにこんなに苦労しているんだな、頑張れ、私も頑張ろう、って。

——事件取材の企画が通っても、新事実に出会わないと記事や作品にならない、ということに似ていますよね。

高橋 そうなんですよね。で、事件ノンフィクションといえば私、佐木隆三さんが大好きなんです。『復讐するは我にあり』『私が出会った殺人者たち』など多くの傑作を残された作家です。

佐木さんには西川美和監督が『すばらしき世界』という映画にした『身分帳』という作品があるんです。獄中生活の長かった男が出所して、人生を再スタートしようともがくけど上手くいかない——という物語なんですが、これが掲載された雑誌が文芸誌の『群像』。

まだ読んでいないんですけど、橋本倫史さんの『水納島再訪』という作品、『群像』に連載されていたルポなんですよね? なんか民俗学っぽい作品なのかなと思っていて気になっているんです。

——沖縄の水納島という島は、毎年7万人くらい観光客が来るんですけど、住んでいる人はみんな時間が止まったような暮らしをしている。久しぶりに島を訪ねた橋本さんは島の人たちとゆるゆると話をしていくうちに、沖縄海洋博の時のリゾート開発とか過疎化とか、東京はもちろん、沖縄本島からも見逃されるような小さな歴史の数々に気づいて、地元の新聞や議事録を読み直して、自分なりに納得できる歴史を書いてみようと試みるんです。

高橋 へえ、おもしろそうですね。すぐに読んでみます。そしていまのお話を聞くと、なんだか逃亡犯がやってきそうな島だなあと思いました(笑)。もうひとつ、これもまだ読んでいないんですけど『熱狂の復興』も気になっています。

——コロナにより一度スクラップされて、またビルドしていくエンタメ業界の復活の過程をしっかり書きたいという音楽ライターの柴那典さんが取り組んでいるSlowNewsオリジナル作品です。

高橋 私は宝塚歌劇を見に行くのが好きなんです。でも、コロナで公演が中止になったりして、見る人を元気にする仕事をしているはずの人たちが元気じゃなくなっていた。それはつらいことだなと思っていたんです。だから、エンターテインメントの世界にいる人たちがどんな思いを持って今の時代を生きているのか、それを知りたい。読んでみますね。

私に限らず、仕事と関係のないジャンルの作品をさっと読めて、それで違う景色を見ることができるのはSlowNewsのバラエティに富んだラインナップの魅力だと思います。さらに充実した本棚になることを、期待していますね。私の好きな佐木作品がずらっと並ぶ日を楽しみにして、サービスを楽しみ続けますね。

写真・構成=鼠入昌史

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