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Vol.36【特集】震災と向き合う1週間 #防災いまできること

 SlowNewsは、「丁寧に掘り下げていく」という読書体験のお手伝いとして、毎週テーマを変えて【特集】を組み、SlowNewsで読める書籍や記事をご紹介していきます。

 東日本大震災の発生から11年となる37日~11日は、「震災と向き合う1週間」として、あの未曽有の災害や原発事故を振り返るコンテンツを紹介しました。

 この期間、Twitterで「#防災いまできること」という共通のハッシュタグでメディアが連携して呼びかける取り組みに参加しました。災害の多い日本という国で、未来に向けて何ができるのかを一緒に考えていきたいと、発信した内容をこちらにまとめました。

 

37日(月曜)あの時、あの場所を思い出すために

 11年という月日は長く、人々の記憶は否応なく薄らいでしまいます。「記憶の共有」のために、何か定番になるようなものを残せないか。「二〇二一年に中学・高校生になる世代の人々が、東日本大震災を調べようとして、初めに手にとってくださる一冊になるように、との思いで書き始めました」というのが、外岡秀俊『3.11 複合被災』(岩波新書)です。去年12月に亡くなった著者は、「あなた方がこの国の未来であり、可能性であると信じている」というメッセージを残しています。

 今回の「複合災害」で、崩れたものが二つあります。ひとつは、この国が一大プロジェクトとして進めてきた「地震予知」の態勢が崩れたことです。さまざまな兆候から地震を事前に予知できるという考えは、大地震が多発する日本にとっては、見果てぬ夢でした。(中略)

 もうひとつ、今度の震災でもっとも注目されたことが、原発をめぐる「安全神話」の崩壊でした。それまで、原発について政府や電力会社は、事故を起こさないため何重もの防護装置を施してあるので、絶対に安全だといってきました。事故が起きて重点的に避難する地域も、原発から一〇キロ圏内にとどめ、事故が起きた場合に司令塔となる防災施設も、原発のすぐ近くに置いていました。そのため、実際に「想定外」の事故が起きたときに、政府の対応は遅れ、被害は拡大してしまいました。どんな場合でも、「絶対に安全」ということはできません。それをなぜ、どのように「神話」にしてしまったのか。「311後」を生きるあなたに、考えていってほしいと思うのです。

 個人としての視点で、震災10年の現場をひたすら歩いて見た作家がいました。彼の実家は福島のシイタケ農家です。古川日出男『国家・ゼロエフ・浄土』(講談社『群像』より)には、360キロを歩き、報道からこぼれ落ちる現実を著者ならではの作風で活写しています。10年と言う時間が過ぎたからこそ、つむがれた言葉でした。

 震災の発生とその後、企業がどのように対応したのかを描写した作品もあります。まずはこちらを。粟田房穂『ディズニーリゾートの経済学』(東洋経済新報社)には、「水の上に浮かんだ壊れやすいお盆のような街」とも言われた浦安の埋め立て地にある東京ディズニーリゾートで、なぜ被害が軽微だったのか、そしてなぜ素早い立ち直りができたのかを明らかにしています。一方で、今後の災害に向けての課題も浮かび上がりました。

 ソニーの工場や事業所では、地震による直接の被害もさることながら、原発事故の後の「計画停電」に悩まされることになりました。斎藤端『ソニー半導体の奇跡』(東洋経済新報社)には、混乱した社内の様子が描かれています。

「計画停電を行うことになったので電気が切れます。自宅に帰って下さい」

「停電の間は待機すればいいじゃないか」

会社の総務に交渉しても、お役所のような対応です。

「空調が止まるし電気がありません。社内に社員を留め置くことはできません」

 このままではイメージセンサーの設計が一向に進みません。裏面照射型CMOSイメージセンサーの商品展開で忙しい事業部にとっては、顧客の納期に間に合わせられない事態となりかねない。当然、復興対策の指示もできません。副本部長の鈴木智行は自家発電機の調達に駆けずり回り、私は厚木の総務に詰め寄りました。

 この事態、どうやって乗り越えたのでしょうか。詳しくは本の方で。

 

38日(火曜)被災者支援や復興事業は適切だったか

 命を守るための取り組みは、震災の発生後にも重要になってきます。東日本大震災に限らず、最近の大きな災害では「災害関連死」が相次ぐケースも少なくありません。そして復興事業や被災者の支援が適切に行われたかどうか、検証して今後に活かさなければなりません。岡田広行『被災弱者』(岩波新書)は復興から取り残される人々と復興事業の不条理を問います。一方、日野行介『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書)は、原発事故による住民の健康への影響を調べる福島県の調査の裏で何が行われていたのか。その秘密を暴いています。

 長期間の低線量被曝による健康への影響が、福島第一原発事故をめぐる問題の本質とも言える。一人ひとりの健康の悪化と被曝の因果関係を断定するのは難しくとも、安易に無関係と決めつけて切り捨てるのではなく、丁寧に調べ続けること、そして有効な医療や生活の支援につなげていくことが大切となるはずだ。正面から原発事故に向き合うとは、そういうことではないだろうか。(『県民健康管理調査の闇』より)

 たびたび問題になってきたのが、「復興予算」です。巨額の予算は使い道が問題になり、本当に必要なところに届いていないことが指摘されてきました。これについて、SlowNewsの中からこちらの4作品を選びました。オリジナル記事の本間誠也『検証 32兆円の復興予算』では、防潮堤工事の入札をめぐる疑問を追跡しています。

 デービッド・アトキンソン『新・観光立国論』(東京経済新報社)では、原発事故などで外国人観光客が減少したことを受けて、観光庁が11億円をかけて「外国人1万人無料招待計画」を立案したことへの、マーケティング論としての疑問が投げかけられています。

 SlowNewsの新シリーズ「調査報道+」からはこちら。藤岡雅『DV避難者ら456人の給付が加害者側に』では、原発事故による帰宅困難者への東電の賠償金が世帯単位で区分されいたため、DVで避難している被害者が置き去りとされた実態と、支援団体が「個人給付」を訴えても制度設計の変更がほとんど考慮されてこなかった問題を指摘しています。

 そして軽部謙介『ドキュメント 強権の経済政策』(岩波新書)では、復興予算の原資となる復興特別所得税とともに導入された復興法人税について、1年前倒しで廃止する議論がどのように起きたのか、官僚や政治家の思惑を描いています。

 

39日(水曜)デマに惑わされないために

 悲しい事実ですが、大きな災害の際には必ずといっていいほどデマが流布されてしまいます。東日本大震災だけでなく、関東大震災の頃から問題になってきました。荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)は、震災で広まった実例をもとにデマのメカニズムを解説し、ダマされない、広めないための一冊です。

①「責任の否定」…自分はある環境に巻き込まれたのであって、自分には責任がない

②「加害の否定」…これは遊びやふざけであるので、大したことではない

③「被害の否定」…これは、相手が受けて当然の攻撃であって、相手にこそ責任がある

④「非難者の非難」…こうした行為を非難する者も問題含みであり、非難する資格はない

⑤「高度の忠誠への訴え」…忠誠を誓うべき秩序や大義が荒らされているのだから、見逃せない

(中略)こうした言い訳に流されないのが一番ですが、そうした人がいても、無理に「説得」する必要はないでしょう。あくまでその流言の社会的影響を最小化することが課題となるのです。

 関谷直也『風評被害 〜そのメカニズムを考える〜』(光文社新書)は、震災をきっかけにいわれるようになった「風評被害」を助長しないために必要なことを指摘します。

 ところが枝野幸男官房長官の記者会見をはじめ、原子力についての解説者はテレビなどで「摂取し続けたからといって、直ちに健康に影響を及ぼすものではない」と出荷制限された作物の安全性をしきりに強調した。生産者に気を配ったのと同時に、放射性物質の飛散に対する過度な恐怖を抑えようとしたのである。しかし、その結果、「健康に影響がないなら、なぜ制限するのか。ほかの野菜も危ないのでは」といった疑心暗鬼を生んでしまった。そして、放射性物質が検出されていなかったり、基準値以下の食品まで売れなくなるという風評被害を助長してしまった側面は否めない。

「放射線とは何かを知らずして正しい放射線対策を立てられようはずもありません」というのが、佐藤健太郎『「ゼロリスク社会」の罠』(光文社新書)です。改めて放射能の基本中の基本について学んでほしいと、こちらの章にまとめられています。何を恐れるべきなのか、この機会にぜひ。

  

310日(木曜)原発事故と向き合う

 原発事故の前、大津波は予想されていました。なぜ防ぐための措置が行われなかったのか、その疑問に答えるのが、添田孝史『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)です。

 電力会社は、業界に都合のいい専門家を主に集めて、津波想定や対策を検討する。その報告書を受け取った保安院は、内容をチェックしないまま、電力会社の「安全性は確保されている」という言い分を鵜吞みにする。その繰り返し。地震学者たちの最新の知見が反映される公正な仕組み、機会はなかった。そして外部から検証できないように、報告書や議事録は情報公開していなかった。東電、電事連、保安院などによる「密室の合議」の連鎖の中で、原発の津波脆弱性への警告は葬られ、それぞれの責任も曖昧にされていった。

 一方、原発事故を検証しようと、民間の「福島原発事故独立検証委員会」(民間事故調)が立ち上がりました。国民の視点から独自に調査・検証した内容は、『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン )にまとめられました。これは当初、非売品として限定部数のみ作成されましたが、各メディアで報道がなされると問い合わせが殺到。発売されたという経緯があります。

 さらに、2019 年には、「福島原発事故10年検証委員会」、いわば第二次民間事故調が立ち上がりました。事故発生後10年のフクシマの真実に今一度正面から向かい合い、民間事故調で提起した課題と教訓をおさらいし、日本はそこからの教訓をどこまで学んだのかを検証しました。それをまとめたのが、『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン )です。

 そして民間事故調の委員長である著者が改めて原発事故を語り、リスクを問い、脱原発を行うための経済的検証を行ったのが、北澤宏一『日本は再生可能エネルギー大国になりうるか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン )です。再生可能エネルギー革命は起こせるのでしょうか。

 

311日(金曜)明日のために 避難は本当にできるのか

 もしいま、あの時と同じような大災害が起きたら本当に避難はできるのでしょうか。「防災いまできること」には何が必要なのでしょうか。

 被害者の救助や避難誘導、さらには原発構内での給水活動や火災対応にもあたった福島県双葉消防本部の消防士たちの不眠不休の活動と葛藤を描いた『孤塁』で講談社ノンフィクション賞に輝いた吉田千亜。彼女によるスローニュースオリジナル連載『検証 原発事故避難計画』の最新回をこの日に合わせて発信しました。

 もしいま、ロシアによるウクライナ侵攻で起きているように、原発が攻撃される事態が起きたら何が起きるのか、衝撃的なシミュレーションが掲載されています。

 最後の一冊はこちら、相川祐里奈『避難弱者』(東洋経済新報社)です。福島第一原発から30km圏内の老人ホームが、住民の避難から取り残されてしまいました。ライフラインもなく、通信手段が遮断された中、職員と入居者は、続けざまに原発が爆発する音を聞くものの、情報を得ることができませんでした。最も弱い立場に立たされる人々に、大災害時に何が起こるのかを描きました。

 繰り返すようですが、東日本大震災のような巨大災害は、いつ起きてもおかしくないのです。今回は3.11のタイミングに合わせてご紹介しましたが、時折、これらのコンテンツに触れて、「防災いまできること」を考えてみませんか。

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