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Vol.32【特集】プーチンとロシアを考える1週間

 SlowNewsでは、平日月曜日から金曜日までに5日間、「丁寧に掘り下げていく」という読書体験のお手伝いとして、テーマを変えて【特集】を組み、SlowNewsで読める書籍や記事をご紹介していきます。

 昨日とうとう、ロシアがウクライナに軍事侵攻。ウクライナ情勢をめぐる国連安保理公開会合では、グテレス事務総長が「心の底から言いたいことは一つだけだ。プーチン大統領、ウクライナへの攻撃を思いとどまってほしい」と語っています。

 先週(2022.2.14〜2.18)の特集は、「プーチンとロシア」を考える作品を紹介しました。Twitter・Facebookに投稿したものを、こちらにまとめます。

月曜日/プーチンの考えるグランド・ストラテジー(Grand Strategy)

 まず第一に紹介したいのは『新しい地政学』(北岡 伸一・細谷 雄一/東洋経済新報社)。

 この本が解説するプーチンの「グランド・ストラテジー(Grand Strategy)」を知れば、今回の背景にある彼の戦略がよくわかります。

戦術家のプーチンは、外交に「グランド・ストラテジー」を駆使してきました。グランド・ストラテジーとは外交の基本をなす大戦略です。その達成のために、プーチンはその時々の状況に即応して様々な「戦術・手段(Tactics, Instruments)」を効果的に組み合わせてきました。

 プーチンにとってのグランド・ストラテジーは、「勢力圏(Sphere of Interests)」の維持です。ロシアが考える勢力圏とは、第一義的には旧ソ連領域です。少なくともバルト三国を除いた領域は、欧米の影響力を何としても排除することが最低限の目標なのです。まさに、ウクライナがそこにあたります。

 そのグランド・ストラテジーを達成・維持するために、プーチンは8点に集約される戦術・手段を外交において巧みに用いてきました。『新しい地政学』によれば、そのひとつがウクライナで使われた「ハイブリッド戦」です。

Photo /アフロ

火曜日/周辺国国民からみたロシア

 特集「プーチンとロシア」、2日目に紹介するのは、周辺国からみたロシアを描いた『 強権と不安の超大国・ロシア 旧ソ連諸国から見た「光と影」』(廣瀬陽子/光文社新書)です。

 旧ソ連領域の国を自国の影響圏におさめたいロシアの思惑を周辺国国民はどう見ているのでしょうか。

旧ソ連のアゼルバイジャンには、反ロシア意識を強めている者が多く、それが外交・内政に大きな影響を落としています。一方で、旧ソ連時代に対しては懐かしさを覚える人も多くいるといいます。

Photo /GettyImages

水曜日/プーチン政権下でのメディア支配

 特集『プーチンとロシア』3日目は、昨年ノーベル平和賞を受賞したムラトフ編集長が率いるロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼーダ」を取材した『暗殺国家ロシア 消されたジャーナリストを追う』(福田ますみ/新潮社)です。プーチン政権下では記者の不審死が相次いでいます。

 「ノーバヤ・ガゼーダ」は、もともとは「反権力」を標榜したメディアではなく、あくまで「不偏不党」を掲げていたのです。

 しかし政府のメディア支配が強まる中で残った、数少ないメディアになったのです。

 記者の射殺、毒殺、撲殺が横行する中、「ノーバヤ・ガゼーダ」は、6人の記者が殺されました。

 メディア支配の手法は暗殺や司法の介入だけではありません。

 プーチンは2000年の大統領就任以来、反政権色の濃いメディアの経営者や大株主に圧力をかけて経営権の放棄や株の売却を強制しました。

 その代わりに政府や政府系企業が株を独占するというやり方で、言論統制の布石を打っていったのです。

Photo /アフロ

木曜日/ロシアの愛国教育の実態

 特集「プーチンとロシア」、4日目は『ロシア政府が進める「愛国教育」の実態』(The New York Times)を描いた調査報道です。

 国営テレビなどのキャンペーンで、国民の間に「ロシアは外敵に包囲されている」という意識が定着しています。ウクライナ侵攻の背景にも、その国民の意識があります

ノーベル平和賞の共同受賞者であるロシアの新聞編集者ムラトフも昨年12月に行われたオスロでの受諾演説で、「ロシア政府が戦争に追い込まれる可能性を国民に積極的に説いて回っていたせいで、国民も徐々に戦争になってもしかたがないと思うようになってきた」と訴えています。

 世論調査では、ロシア軍は2018年、大統領を上回り国内で最も信頼できる機関となっています。今年の調査では、世界大戦の勃発を心配していると答えたロシア人の割合は62%に達し、1994年の調査開始以来、過去最高を記録しています。

ロシアで「大祖国戦争」として語り継がれる第2次世界大戦での対ナチスドイツ戦の勝利を、クレムリンは利用してきました。

 「ロシアの破壊を再び目論む敵によって脅かされている」という見方を国民に共有させるために第2次世界大戦の物語を使ってきたのです。

Photo /The New York Times

金曜日/大調査報道でわかったプーチンとロシアの野望

 特集「プーチンとロシア」最終日は、ロシアのもうひとつの世界戦略を取り上げます。

温暖化する世界の支配を狙うプーチンとロシアの野望を、ニューヨーク・タイムズとプロパブリカが共同取材した大調査報道プロジェクト『The Big Thaw 大融解』(ProPublica)は、衝撃的です。

 ロシアは20201月に気候に関する国家行動計画を発表しました。国に温暖化の「アドバンテージ」を利用するよう求め、北極海航路や農作物の生育期間の拡大を挙げたのです。

 プーチン大統領は、温暖化を世界再編のチャンスと捉え、気候変動を背景に、ロシアの農業生産は急拡大しています。ロシアの農産物輸出額は2000年以降、16倍と急増、18年までに300億ドルに達しました。19年、ソチで開かれたロシア・アフリカ経済フォーラムに出席したプーチンは、「ロシアの農産品の輸出額は、今や武器の輸出額を上回った」と宣言しました。

 農業は温暖化がもたらす変化の一つにすぎません。

 北極海の氷解がこのまま進めば、北極海に新たな海上交通路が生まれ、東南アジアと欧州間の輸送時間は最大40%短縮し、米国への旅行時間も短くなります。ロシアは中国と西側を結ぶこの「北極海航路」を支配することで利益を得ることができます。

ロシアに中国マネーが流入を続け、2017年までに140億ドル近くがロシアの資源部門に投資されました。それとは別にインフラ設備建設のため、中国が100億ドルの支援を約束しています。

 クリミア侵攻時の西側の経済制裁では、中国との経済関係を強化しました。そのプーチンの自信が今回の背景にあります。

Photo /GettyImages

SlowNews 瀬尾傑

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