Vol.28 【特集】ジェンダーを考える1週間
SlowNewsでは、平日月曜日から金曜日までに5日間、「丁寧に掘り下げていく」という読書体験のお手伝いとして、テーマを変えて【特集】を組み、SlowNewsで読める書籍や記事をご紹介していきます。
先週(2022.1.31〜2.4)は、「ジェンダーを考える1週間」として、ジェンダーに基づく偏見や不平等について考える書籍やオリジナル記事をご紹介しました。SlowNewsで読める「ジェンダー」に関する書籍・記事の中から「ぜひこの章を」「ぜひこの言葉を」というものを取り上げ、Twitter・Facebookに投稿したものを、こちらにまとめます。
月曜日/「女性と貧困の問題を考える」
女性ホームレスやネットカフェで暮らす女性の数は増え、長引くコロナ禍で、女性や家族連れも路上に出始めている――不可視化されてきた女性の貧困が、コロナ禍で浮き彫りに。今、女性に何が起きているのでしょうか。
「シャドーパンデミック」(飯島裕子)
「野宿生活になって一番ショックだったのが、人々から向けられる眼差しです。アルミ缶を集めてまわっていると男性からじとっとした眼で見られ、『お金をあげるからついてこい』と声をかけられることが頻繁にありました。そこには性的な意味が含まれるわけですが。それまで生きてきてこんなにわかりやすいセクハラを受けたことはなかったので。貧乏な女は金さえ渡せば体を差し出すだろうという論理がまかり通っていることに驚きと絶望を感じました」

「ハザードランプを探して」(藤田和恵)でも、貧困に陥る女性を取り上げています。
「八方ふさがりの状況で思ったことは、「これで死ぬ理由ができた」である。ただ、最後の最後にダメ元だと思って、ネットで偶然見つけた緊急アクションのサイトからSOSを発信した。」

女性の貧困を掘り下げて考えたい方は、ぜひこちらも。
「ルポ貧困女子」(飯島裕子)
「高学歴女子の貧困」(大理奈穂子・栗田隆子・大野左紀子・水月昭道)
火曜日/「女性の貧困の、構造・背景を考える」
なぜ女性は貧困に陥るのか。その構造や背景を考えるための、SlowNewsで読める書籍・記事をご紹介します。
構造について直球で書かれているのはこの本。
「なぜ女性は活躍できないのか」(大沢真知子/2015年)
正社員は一家の稼ぎ手である男性(夫)であり、非正社員は育児や家事のかたわらに家計を補助する目的で働く女性(妻)であるという前提で、正社員を中心に雇用保障がなされ、雇用保険制度や社会保障制度が作られてきたのである。
という指摘があります。
また、日本の場合には、「税や社会保障制度において、(既婚女性の)パートタイマーの賃金の上昇を抑えるメカニズムが内包されているので、事業主にとって、安上がりで、使い勝手のよい雇用形態の労働者になっている」のです。そのため、韓国との違いも顕著です。

著者は「同一労働同一賃金」「社会保険や雇用保険制度の適用を、総人件費に対して企業に支払う」「臨時から正規への移動を進めていく」といった提案もしています。でも、日本の「『男性稼ぎ主』型の生活保障システム」の中では、女性は貧困に陥りやすいのです。
また、「男は稼ぐ」「女は補助」という性別役割分業のもとで作られた社会のシステムの中では、シングルマザーも単身女性も、どのような立場の女性であっても、非正規雇用が多く、まともに稼ぐことは難しい。コロナなどの大きな災害・社会不安が起こると、真っ先に切り捨てられてしまいます。
SlowNewsでは、そういった男女格差について、データで示した記事・書籍も読むことができます。
「就活ランキングでも人気 50社を調査して分かった! 『女性活躍』表現に隠された会社の“本音”」
水曜日/「構造が与える“支配意識”ーーDV」
「なぜ女性は活躍できないのか」では「男は仕事、女は補助」という性別役割分業に基づく形で作られた「社会システム」という構造を指摘していました。そのシステムは「意識」にどう影響しているのでしょうか。
例えば「DV——殴らずにはいられない男たち」(豊田正義)の中には、こんな一節があります。
「男がやると言ったらやるんだから、女は黙ってついてこい!」と怒鳴った。それに対して友美さんは「男、女で決めつけないで。そんなの対等じゃない!」と猛反発した。
「女は黙ってついてこい」という人も昨今では少数では、と思いますが、社会システムの構造や力関係をそのまんま意識に持ち込むと、この言葉が出てくるのかもしれない、というわかりやすい例です。
また、「夫が怖くてたまらない」(梶山寿子)の一節では、「支配」という言葉も出てきます。
DV加害者の行動が、文化的、社会的に規定された「男らしさ」に根差していることは前にも指摘した。社会的に「支配する性」であるために、彼らの暴力は、自己のなかで正当化されている。
たとえばーー
「十分な金も渡して、遊ばしてやってるのに」
「オレは毎日、こんなに働いているのに」
そう言いながら、夫は妻に殴りかかった。
拳骨、平手、そして殴る自分の手が疲れると、足を使う。殴られた衝撃で倒れた妻の身体を、ここぞとばかり思いっきり蹴り上げるのだ。頭も顔も容赦はしない。
「殺してやる!」「死ね!」
そうわめき続けながら、ひたすら夫は蹴り続ける。
少しでも攻撃を避けようと、側にあった扇風機を引き寄せてバリケードにしたが、逆効果になった。夫は扇風機をとり上げて、今度はそれを妻の身体に叩きつけはじめたのだ。
「あかん。このままやと、殺される」

また、別の一節ではーー
また、夫は常に晶子さんを監視し、自由に出歩くことを許さない。手紙は当然のように開封。日常の買い物に必要な現金さえ渡さなかった。
「クレジットカードは使えても、現金は一切もらえない。ただしセックスをすると3万円くれるんです。離婚を決意したときは、そのお金をためて脱出資金にしました」
身体的DV、精神的DV、経済的DV、性的DV。「男は稼ぐ」に対する「女は補助」どころか奴隷の扱いです。DVが自己のなかで正当化されているのだとしたら、救いがありません。
DV被害は、コロナ禍でも深刻になっています。
「シャドーパンデミック」(飯島裕子)
支配・コントロールという意識によって、女性が抑え付けられたり、暴力をふるわれたりすることはあってはならないこと。
その一方、加害する男性の中には、“「男らしくふるまわなければならない」という強迫観念にも縛られている”という指摘もあります。その支配・コントロールの意識がどうして醸成されてしまうのか、「生きづらさ」について考える書籍・記事をご紹介します。
木曜日/「男らしさ」の支配意識と、強迫観念
文化的、社会的に規定された「男らしさ」による“支配”の意識によって女性が暴力をふるわれるDVの書籍をご紹介しましたが、一方、加害側には“「男らしさ」の強迫観念”があるという言葉も考えてみたいと思います。
たとえば、この本、「炎上CM」。かつての栄養ドリンク系のCMでは、「男らしさ」や「男の役割」がかなり強調されていました。
実は自殺は隠れた男性問題。2010年代以降減りましたが、「経済・生活問題」を理由に中高年の男性が死ぬというのが、日本の自殺のひとつの構図で、そう考えたときに「でもがんばってね」や「はたらけ」は実は笑ってすませることのできないメッセージなのです。「男なんだから働かなきゃいけない。妻や子のためにがんばらなきゃいけない」。こうしたメッセージに苦しさを感じた男性はいたはずです。
「炎上CM」を扱いながら、性別役割分業規範のさまざまな「差別」を指摘しています。
また、「生きづらさ」が根深い社会の根幹には、「頑張れば貧困にならない」という精神論があるーーと指摘しているのは、「体育会系 日本を蝕む病」。
この精神論は、そのまま生活保護叩きにもつながっていると、この本も日本社会の歪みを分析しています。

ちなみに、「炎上CM」の著者は男性ですが、
特に「仕事と家庭の両立」という言葉は、男性にも適用される言葉として想定されているのでしょうか。私は「仕事と家庭の両立」にそれなりに苦しんだと思っているので、この言葉の使われ方に、ざらっとした違和感を覚えます。これは本来、男性の生き方の問題だと捉えるべきで、求められているのは、男性側の変化なのです。
とも。共働きの時代への変化を背景に、「言葉」にも違和感があるという指摘です。
お父さんが保育所で子どもをひろって夕食を準備する、これは少数派かもしれませんが、いまの若い世代なら少なくとも「極めて珍しい」わけではありません。
という指摘もあり、多少は変わりつつあるのかもしれません。
それでも、データに基づけば、圧倒的に世界からは遅れている日本。社会システムも、意識も変わり、男性も女性も誰もが、生きやすくなるのは、まだ遠い話なのでしょうか。
金曜日/最も困窮に陥りやすいシングルマザー
日本の「『男性稼ぎ主』型の生活保障システム」の中で最も深刻な状況に陥るのが、シングルマザー。コロナ禍では「仕事が減り、子どもたちは1日2食、私は2日に1食が当たり前で体重が激減した」という声も寄せられています。
「シャドーパンデミック」(飯島裕子)

「シングルマザーは、仕事をしても、しても、収入が低い。それがシングルマザーの家庭に育つ子どもたちの不利も招いている」という指摘をしているのは、こちらの書籍。
「ひとり親家庭」(赤石千衣子)
社会は、「男性稼ぎ主型社会システム」のため、女性がひとりで生きていけるようには設計されていません。「世帯主」に給付金は振り込まれ、受け取れなかったDV母子・別居母子の問題も、根っこは同じです。
今週は、「ジェンダーを考える1週間」を特集としてツイートしてきました。
2021年3月に発表された「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本は調査対象の156カ国中120位。日本のあらゆる問題にも地続きです。ジェンダーバイアスにとらわれることなく、そして社会構造・システムも変わり、誰もが生きやすくなってほしいと思います。
来週は、別のテーマで特集をお送りします。
SlowNews/吉田千亜