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Vol.21 監督・松居大悟が語る 「ここまでやる!」人物ルポ「現代の肖像」と「バイプレイヤーズ」の共通点

話題作『バイプレイヤーズ』シリーズや、今年の東京国際映画祭観客賞を受賞した『ちょっと思い出しただけ』(来年2月公開)を手掛ける映画監督の松居大悟さん。実はSlowNewsでも読める週刊誌『AERA』の人物ルポ「現代の肖像」の大ファン。2019年にはご自身も「肖像」として登場しています。SlowNewsでも読める「現代の肖像」、その魅力を語っていただきました。

松居大悟

1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。2012年『アフロ田中』で映画監督デビュー。その後、『私たちのハァハァ』『アズミ・ハルコは行方不明』『君が君で君だ』『アイスと雨音』『くれなずめ』ほか、テレビ東京『バイプレイヤーズ』シリーズのメイン監督及び、劇場版も監督。また日活ロマンポルノ50周年企画に監督として参加する。映画以外にも、小説「またね家族」、舞台PARCO PRODUCE『Birdland』演出、J-WAVE「JUMP OVER」ナビゲーターなど活動は多岐にわたる。

34回東京国際映画祭で観客賞とスペシャルメンションを受賞した最新監督作『ちょっと思い出しただけ』は2022211日公開。

Twitter:@daradaradayo

Instagram:@daradaradayo

松居大悟さんがおすすめするSlowNewsで読める作品

AERA「現代の肖像」岩松了

AERA「現代の肖像」熊谷晋一郎

マンガ 学校に行きたくない君へ

ロマンポルノの時代

松居 今日、持ってきちゃいました、僕の「肖像」が載った『AERA』。嬉しくて30冊くらい書店で買ったんですよ。今も家に在庫があります(笑)。

――SlowNewsでも毎週配信する「現代の肖像」はもともとAERA創刊以来33年続く看板連載です。各分野で活躍する人物をルポし、描かれた人は1800人以上。松居さんは2年ほど前にご登場していますが、元々「現代の肖像」のファンだったそうですね。

松居 ミュージックビデオなど一緒に作っているクリープハイプの尾崎世界観さんが取り上げられたときに、一度「近しい人のひとり」として取材を受けたんです。もともと読んではいたんですが、連載を注目し始めたのはこの時からですかね。いろんな分野のプロフェッショナルがどんなことを考えているのか読めるのが好きです。

「言った」感のあるコメントは全く使われない

——人物ノンフィクションは、その人物がどんな人なのか周辺取材をしたり、何度も「本人」に接触して言葉を引き出したりと、時間も費用もかけます。だから最近は雑誌でも敬遠されてあまり見なくなったなかで、「肖像」は手間暇をかけています。SlowNewsが配信をしているのも、丁寧な取材から生まれた作品を多くの人に知ってほしいからです。松居さんが対象になったときは、どれくらいの期間取材されたんですか?

松居 驚いたんですが、文字通り本当に「密着取材」されるんです(笑)。僕の場合は8ヶ月から10ヶ月くらい、ずーっと。書いてくださったのはライターの藤井誠二さんですが、制作現場にもいらっしゃったし、福岡の実家に帰省するときに同行されたのには驚きました。

――松居さんの部屋での取材から記事は始まりますよね。『バイプレイヤーズ』に出演されていた大杉漣さんとの思い出を、部屋に飾ってある大杉さんと監督が打ち合わせしている時の写真を見ながら語るという。

松居 あの写真は、とても思い入れのある写真なんです。あそこで大事な話ができたのは、僕を取材するライターの藤井さんと信頼関係が築かれていたからです。この人になら話してもいい、と。

記事ではこの場面が冒頭に置かれていますけど、藤井さんが僕の部屋に来たのは取材が始まって3ヶ月が経った頃でした。まずは喫茶店での顔合わせと打ち合わせ、次に居酒屋で酒を飲みながらざっくばらんにお話――そうやって話をひたすら聞き出して、引き出して、関係性を築いていってくれました。これだけ時間をかけて一つの記事を作り上げる、というのはなかなか他にはないと思います。

——「現代の肖像」は、取材対象者に事前に原稿を見せないポリシーがあるんですよね。

松居 なので、自分の記事を読むのは、読者の皆さんと同じタイミングです。面白かったのは、「自分として言うべきことを言った」感のあるコメントは全く使われていなかったこと(笑)。たしかにインタビューってされると、まずは自分の中で決まっている「言うべきこと」を語ってしまいがちなんですよね。

でも、そういうコメントは「現代の肖像」ではまったく使われない。もっと深いところ、その人の本質の部分に迫ろうとしているから、固定された言葉はなぞらないようにしているんだと思います。

それから、人物ルポに欠かせない「関係者のコメント」のラインナップもさすがだと思いました。単に知名度のある関係者に取材してコメントを並べるようなことはしない。僕も「なるほど、この人に取材したんだ」と思ってしまうような、関係性の濃い人にちゃんとたどり着いているんですよね。

だから記事を全部読んでみて「自分のことなのにかっこいいなあ」って(笑)。本当にうれしかったですね。「肖像に出ました」というツイートを4ヶ月くらい固定ツイートしていたくらいですから。

――連載は本文だけでなく、写真にも力が入っていますよね

松居 僕のときは植田真紗美さんが撮影してくださいました。驚いたのはライターの取材とは別行動をとるんですよ。だから、部屋での写真が扉写真に使われているんです。藤井さんに漣さんとの思い出を話した時のものではなくて、別日に植田さんが部屋にやってきて、そこで撮ってくれたもの。福岡の実家にもライターとカメラマンは別日に入られていました。写真取材は写真取材として、別として考えているのかな。とにかく、時間と労力をかけた人物ルポですよね。関わった方々による作品だと思ってます。

僕の知らない岩松了さんが描かれていた

——SlowNewsでは「肖像」の過去作品が読めます。気になった記事はありますか。

松居 岩松了さんの回が面白かったですね。『バイプレイヤーズ』では第1シリーズに出演いただいて、最近だと『くれなずめ』でもご一緒しましたが、僕の知らない岩松さんが記事で描かれていました。今でこそ『時効警察』の熊本課長的なちょっと変わったおじさん役の脇役、まさにバイプレイヤー俳優として活躍もされていますが、僕は演劇人としての岩松さんの「追っかけ」でもあるんです。それで雑誌のインタビューなんかも目を通しているほうだと思うんですが、読んだことのない岩松さんの言葉がたくさん引き出されていると感じました。やっぱり「言うべきこと」コメントは省かれているのかな。ちょうど『いのち知らず』という岩松さんの新作舞台を観た後に読んだのですが、劇作における周りと自分の捉え方の違いや、現実と過去に対する時間の解釈など、とても興味深かったです。

それから、脳性まひを抱え車椅子での生活を余儀なくされている小児科医の熊谷晋一郎さんの回も印象に残りました。

例えば映像や音だった場合、やはりその体から発する言葉って、ある種のフィルターがかかるような気がしているのですが、文字と写真だったからより一層言葉が素直に入ってきて。それこそ、健常者でも障害者でもない、等身大の“熊谷さん”の言葉として読めましたね。めちゃくちゃ忙しそうなんですよ、そして、人間臭くて、誰よりも自分のやるべきことを理解しようとしている。そのうえで『相手の痛みのわかる手だから』という言葉にとても感銘を受けました。

あと、まだSlowNewsには収録されていないようですが、『うんこ漢字ドリル』の著者でもある古屋雄作さんの回。映像作家として不思議で面白い作品を発表し続けてきた人が、なんで「うんこドリル」に至ったのか、なぜこれがベストセラーになったのか、というストーリーが面白かったですね。

陽の当たらない場所にいる人たちのストーリー

——人物を追いかけるというのは、例えば脇役という人たちにスポットを当てた『バイプレイヤーズ』もそうですが、松居さん自身も好きな世界なのではと思っています。

松居 世の中ってもちろん光の当たっている人が目立つわけで、その人物のストーリーが映画や本などの物語になることも多いわけですが、一方で光が当たらない人にも紆余曲折があって、それを物語にする価値がないはずなんかない。むしろ、そういう陽の当たらない場所にいる人たちのストーリーのほうにグッとくるんです。

SlowNewsの「マンガ 学校に行きたくない君へ」(不登校体験がある方々のエピソードを取材して、それをマンガとして読めるようにしているもの)って作品も読みました。僕も昔、不登校になった時期があるので、社会にはこういったことで悩んでいる人がいる、そしてさまざまなきっかけや人とのつながりが、一人の人間を救うこともあることを理解するきっかけにもなる作品だと感じました。悩みにスポットを当てている、優しいマンガですよね。

映画でも文章でも何でも、描かれるものって決して大恋愛、大成功物語だけではないはずです。会社でうまくいかなくて落ち込んでいたり、食べたごはんがおいしくてちょっとだけテンションが上がったり、そういう日々の切れ端のようなことも立派なストーリーになっている。だから、これからも何気ない時間や場面を照らすような作品を作っていきたいと思っています。

——来年公開される『ちょっと思い出しただけ』は、ある男女の6年の恋愛を、二人の726日だけにスポットを当てて描いた作品です。まさに日々の片隅の大切な場面を丁寧に描いています。

松居 ある一日の定点観測というストーリーから、劇的なことは起こらなくても、この二人にそれまでの年月があり、これからの時間があるだろうということを、観ている人に感じてもらえたらなと思っています。

ーー伊藤沙莉さん演じるヒロインはタクシー運転手ですが、車内でのお客さんとの会話がリアルなんですよね。どんな演出をされたのか気になっていて……。

松居 あれはタクシー取材の成果です(笑)。映画の撮影前、取材にかこつけて毎日タクシーに乗りまくって運転手さんから話を聞いたんです。仕事をはじめたきっかけは何ですか? とか、コロナになって変わったことは何ですか? とか。映画の中には盛り込めなかったのですが、「何をしている時間がいちばん楽しいですか?」と聞いたら「コンビニで飯を買って食べる瞬間がいちばん楽しい」って返事してくれた方がいたんです。なんか心の底から言っている感じがして、胸に残ってますね。

©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

2022211日(金・祝)全国公開

出演:池松壮亮、伊藤沙莉 ほか

監督・脚本:松居大悟

主題歌:クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」(ユニバーサル シグマ)

■制作・配給:東京テアトル

公式サイト:choiomo.com

公式Twitter・Instagram:@choiomo_movie

——池松壮亮さん演じる照生が、新宿で町の人たちをボーッと眺めているシーンは、照生の目に映るいろんな人が点描されています。松居さんの「人好き」なところが出てる気がしました。

松居 ありがとうございます。裏テーマじゃないですけど、この映画には老若男女全世代全性別の、さまざまな立場の人をーーサラリーマンとか女子高生とかおじいちゃんおばあちゃん、シングルマザー、ストーリーの中では描けなくても、物語全体にはどうしても存在していてほしかった。照明に照らされた人々を見つめる照生が、そうした人々に焦点を当てているーーそれであのシーンができたんです。

作品に対価を払ってくれている人たちに、作り続けたい

——スローニュースは新しいノンフィクション作家を育てていこうという取り組みもしているんです。「現代の肖像」のような時間と手間とお金をかけて取材をする作品って、いまはなかなか作りにくい時代ですし、それが発表できる場所も少なくなっていますから。

松居 映像の世界は、出版の世界とは逆かもしれませんね。いまや誰もがスマホで撮影して映像作品を投稿できるし、YouTubeでも発表できる。これまでは映画コンペで評価を得たり、助監督からコツコツやっていくしか監督デビューの道はなかったんですが、SNSで届けられる時代ですから。映像分野は間口が広がったというよりは、もう間口がなくなっちゃったという感じです。

だから、良質なノンフィクションが読める場所、という間口を設けて、そこで書き手を育てようというスローニュースの理念はとてもいいことだと思いました。

それから、対価をきちんと支払って自由に読むサービス、なんですよね。いま、無料で観れるもの、読めるものが多いですけど、でも、作っている側としては、無料で消費される仕事をしてしまうと、作品本来の価値がわからなくなってしまいます。それはとても危ういような気がしていて……。対価を払ってくれている人がいる、その人たちのためにまたいい作品を作ろう、そんな目的が持てることが、すべての分野の作り手に必要なことのように思います。

ーー『ちょっと思い出しただけ』に続く作品の準備にはもう入られているんですか?

松居 今、ロマンポルノを撮る準備をしています。今年、日活ロマンポルノが50周年で、その記念作品ということでお声がかかりまして。

スローニュースで『ロマンポルノの時代』って本が読めるでしょう。興味深かったですね。自分が生まれる前から、こうして積み重なっていたんだと感じました。

ロマンを知らない人たちにも、そういう映画の歴史や時代があり、そして今また蘇ろうとしている、ということが伝わったらいいなと思います。外から見るとロマンって人を選びそうだけれど、中から見ると、こうして鮮やかな表現や手法が取り入れられている、他にない芸術なので。

僕の作品も楽しみにしていてください。

構成・写真=鼠入昌史

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