住宅街で道路が大陥没!原因暴いた最新手法を公開します
東京都調布市の住宅街で起きた突然の道路陥没。住民たちは生活を脅かされ、ワイドショーにも連日取り上げられたがはっきりとした原因は不明のまま。日本経済新聞は「最新鋭の衛星データ」を利用して独自に解析、トンネル工事を行っていた会社に突き付けた!新時代のデータジャーナリズムに使われた手法を完全公開します。

あなたの街の道路陥没「衛星の目」で原因を暴く!

「現場から面白い話があがってきた。モノになるかまだ分からんが、ちょっと聞いてやってくれないか」

 20201130日夕方。経済部(現在の政策報道ユニット)の部長から着信があった。

 私は20174月に発足した調査報道チーム(現在の社会・調査報道ユニット)を率いるデスクの立場だった。経済部長の電話を直接受けることはほとんどない。そこから私に寄せられる情報と言えば、役所や企業の不祥事か、それとも政策の問題か。いろいろと想像を巡らせながら内容を問うと、意外な答えが返ってきた。

「ほら、調布市で道路の陥没事故があっただろう。衛星で見ると面白いことがわかった」

 陥没事故? 衛星? 

NEXCO東日本の公表資料より

 東京都調布市の住宅街で起きた陥没事故については、ワイドショーなどを見て知っている程度だった。事件や事故を追う社会部ではなく、なぜ経済部の記者がこんなネタを追っているのか事情は判然としなかったが、それだけに興味はわいた。

「分かりました。話を聞きましょう」

奇妙な組み合わせの2

 すぐに2人が私の自席にやってきた。

 1人は知っている記者だ。平本信敬。中央省庁や日銀をカバーする経済取材が長い。原子力発電所の事故を経て、実質国有化された直後の東京電力を私が担当していたときに、平本は経済産業省の記者クラブに在籍しており、連携する関係にあった。2019年度の新聞協会賞を受賞したシリーズ「データの世紀」の専従メンバーだったときは、調査報道チームの近くに席があった。

 もう1人は初対面だった。山田剛。日本経済新聞はメディアのイノベーションにつながる調査・研究開発を手がける「日経イノベーション・ラボ」を2017年に置き、外部人材を登用してきた。山田はそこの上席研究員として中途採用された。それまで勤め先をいくつか変えながら、ゲームの企画開発、銀行向け与信管理システムやAIの開発などを手がけてきたという。

 奇妙な組み合わせだな。ますます興味がわいてきた。

「まずこの地図を見てください」

 平本がiPadの画面に1枚の画像を映した。調布市の陥没事故現場周辺の拡大図に薄めの赤と青のドット(点)がまだらに描画されている。続けてもう1枚、別の画像を映す。場所は同じだ。陥没事故に近いところの赤と青の色が濃くなり、ドット数は増え、範囲も広がっていた。

取材班メンバー。左から山田、平本、鷺森

 山田によると、赤が地表の沈下、青は隆起、濃淡は変化の度合いを示しているという。「衛星技術でとらえた地表の変動データを可視化しました。地下の掘削機が真下を通過した直後に地表が沈んだことを裏付けています。ひどいところでは3センチメートルも沈んだようです」

 本当なら大変だ。話を聞き終わる前から、調査報道として取り組む意義があるとの直感が働いた。

調布の陥没事故とは

 ここで調布陥没事故の経緯を少しおさらいしたい。

 閑静な住宅街の道路に突然穴が開いたのは、2人の相談から1カ月半ほど先立つ1018日正午ごろだった。長さ約5メートル、幅約3メートル、深さ約5メートル。住民や通行人が落ちると、大ケガにつながりかねず、人の命を脅かす事故だ。幸いケガ人はいなかったが、この日から周辺住民は不安な日々を暮らすことになる。

NEXCO東日本の公表資料より

 事故直後から東日本高速道路(NEXCO東日本)を事業者とする東京外郭環状道路(外環道)の地下トンネル工事が原因ではないかと見られていた。工事対象となる関越道と東名高速を結ぶ16キロ区間は住宅密集地を通るため、「大深度」と呼ぶ地下40メートルより深い地下空間を活用する計画だった。大深度工事は地表に影響が出ないとされ、法的に住民の同意は必要ない。実際、この工事も反対運動がある一方で、NEXCO東日本は住民の同意を得るプロセスは踏んでいなかった。

 焦点は大深度工事と陥没事故の関係だ。5階建てオフィスビルに相当する直径16メートルのシールドマシン(筒型掘削機)が地下47メートルの位置で陥没地点を通過したのが914日。事故発生は1018日。この間は1カ月余り。事故を受けてNEXCO東日本は調査を進めていたものの、11月末になっても因果関係を認めていなかった。

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