検閲マシンはオンライン空間の完全コントロールを目指してフル回転していた
2020年のコロナパンデミック発生以降、中国は国内コロナ報道を子細に監視し、言論統制していた。当局による「検閲マシン」は実際にはどう動いていたのか? 不都合な主張や写真、ニュースをブロックしているだけだと思ったら大間違いだ

中国 新型コロナ報道「徹底検閲」の実態

批判的ニュースは認めない

 本紙は何千件もの指令やメモを含む内部文書を独自入手。これによって、中国検閲マシンの実態が細部に至るまで明らかになった。国家によるオンライン言論統制は新型コロナウイルス発生当初から始まっていた。

(取材・執筆 レイモンド・チョン、ポール・モーザー、ジェフ・ケイオウ、アーロン・クロリック)

記事はNPO調査報道機関プロパブリカでも同時掲載

「プッシュ通知で李の死亡ニュースを表示しないように」

 202027日早朝、中国が誇る強力なインターネット検閲当局はかつてないほどの不安を覚えた。オンライン空間の情報を思うようにコントロールできなくなりつつあったのだ。

 医師の李文亮が新型コロナウイルスに感染して死亡したとのニュースが流れると、ソーシャルメディアは悲しみと怒りの声であふれ返った。中国政府が不都合な情報を覆い隠そうとしていたことが明らかになり、政府批判が渦巻いたのである。

 無理もない。李は新型コロナの発生についていち早く警告していた。にもかかわらず警察に呼び出され、「デマを拡散させた」との理由で処分されていたのだ。そんなことから、中国内外で「中国政府は大きな代償を払わされた」との見方が広がった。

 それでも検閲当局はひるまず、情報統制を一段と強化した。本紙が独自入手した内部文書によれば、各地のプロパガンダ要員や報道関係者に向けて「われわれは前代未聞の難題に直面している。バタフライ効果に要注意」と警鐘を鳴らした。政府に批判的なニュースを封じ込め、対抗ナラティブ(語り)を拡散させるキャンペーンに乗り出したのである。

 具体的には、検閲当局はニュースサイトに対しては「プッシュ通知で李の死亡ニュースを表示しないように」、ソーシャルメディアに対しては「トレンディング(人気)トピックのページから李の名前を消し去るように」などと命じた。

 同時に、「コメンター(投稿にコメントを書き込む人)」をサクラとして動員し、李の死亡に関心が集まらないようにオンラインコミュニティーを誘導した。ただし、慎重な行動を求めた。指令の中では「オンラインコミュニティ―の誘導に際しては注意事項が三つある。第一に、自分のアイデンティティーを隠すこと。第二に、あからさまな愛国主義も皮肉っぽい賞賛も抑えること。第三に、事を荒立てずにしなやかに目的達成に取り組むこと」としている。

李の死亡をめぐる怒りを鎮めるために中国当局が発した特別指令

ニュースサイトとソーシャルメディア向け

<プッシュ通知を使わない、コメントを投稿しない、憶測をかき立てない。オンライン言論の過熱化防止に向け安全策を講じ、ハッシュタグの利用を控える。有害情報についてはトレンディングトピックから段階的に削除し、厳格にコントロールしなければならない。>

地元のプロパガンダ要員向け

<今回の事件によって生まれる「バタフライ効果」「ブロークンウィンドウ(割れ窓)効果」「スノーボール効果」を明確に認識しておく必要がある。オンライン空間を管理し、情報を統制するうえで、前代未聞の難題に直面している。すべてのサイバー空間管理局は言論動向をこれまで以上に注視しなければならない。党と政府の信頼性を著しく傷つけ、政治システムを攻撃するような情報を見つけたら、漏れなくコントロール下に置くと肝に銘じておくこと。>

 これらは何千件にも上る政府指令のほんの一部にすぎない。本紙はプロパブリカと共同で大量の内部文書を入手し、内容を精査した。その結果、中国情報検閲システムの細部に至るまで実態を明らかにできた。コロナ禍のさなか、同国の検閲マシンはオンライン空間の完全コントロールを目指してフル回転していたのである。

情報統制に乗り出したのは20201月初旬

 ソーシャルメディアの普及を背景に西側民主主義国家が社会的分断に翻弄されるなか、中国はオンライン空間の言論を操作して、共産党の威信を傷つけるような情報の徹底排除に取り組んでいる。

 2020年に入って検閲当局は中国国内のインターネットへの監視を強め、オンラインニュースなどのコンテンツに大々的に介入するようになった。トロール(荒らし)を雇ってソーシャルメディア上に党のプロパガンダを大量に流したり、インターネット警察を動員して非合法コンテンツの排除に走ったりするなど、なりふり構わない姿勢を見せている。

 中国政府は公然とインターネット検閲を行っているとはいえ、詳細はこれまで秘密のベールに包まれていた。巨大な官僚機構、人海戦術、民間開発の専門ソフトウエア、ニュースサイトとソーシャルメディアの24時間監視――。内部文書からは、中国政府が情報統制を完璧にするため、水面下で途方もないリソースを投入している実態が浮き彫りになる。おそらく莫大な資金も。

 中国の検閲マシンは実際にはどう動いているのか? 不都合な主張や写真、ニュースをブロックしているだけだと思ったら大間違いだ。

 内部文書によれば、中国政府がコロナに関する情報統制に乗り出したのは20201月初めである。つまり、コロナが感染力の高い危険なウイルスであると明確に認識される前の段階から、ということになる。数週間後にコロナ感染が急速に拡大すると、検閲当局は全開モードになった。中国政府の対応に批判的な言論を徹底的に摘発し始めたのだ。

 アメリカをはじめ主要国の多くは何カ月にもわたって「初期段階でコロナの発生を隠蔽しようとした」として中国批判を続けていた。中国が早くから情報公開に積極的であったならば、武漢で発見されたウイルスがパンデミック(世界的大流行)を引き起こすことはなかった、とみている。もちろんここに明確な裏付けがあるわけではなく、これからもずっと因果関係は証明されないままかもしれない。

 とはいえ、内部文書から確実なことが一つ読み取れる。中国政府は国内のパニックを回避し、有害コンテンツを排除しようとしただけではなかった。世界中が中国の一挙手一投足を注視しているなか、「コロナはそれほど恐ろしいウイルスではない」「中国当局は非常によく対応している」というイメージ作りに必死だったのだ。

検閲当局の内部文書に3200件以上の指令が残っていた

 内部文書の中心は、国家インターネット情報弁公室(CAC)の各支部から流出した膨大なファイルだ。CACは東部の沿岸都市・杭州市に本部を置くインターネット検閲当局であり、ファイルの中には3200件以上の指令や1800件以上のメモが入っている。

 内部文書にはCAC以外の重要ファイルも含まれる。中国の民間ソフトウエア開発業者「ウルン・ビッグデータ・サービシズ」のインターネットファイルやプログラミングコードだ。ウルン製ソフトウエアは中国各地の地方自治体へ支給され、インターネット上の議論を監視したり、コメンターを動員したりする目的で使われている。

 本紙とプロパブリカは、「CCPアンマスクト」と呼ばれるハッカー集団経由で内部文書を入手した(CCPは中国共産党の略であり、アンマスクトは「仮面を剥がす」という意味)。内部文書を独自に点検し、指令やメモなどの多くが本物であるとの裏付けを取った。内部文書の中には、中国のインターネット検閲をテーマにする米ウェブサイト「チャイナ・デジタル・タイムズ」が独自に入手したファイルも含まれる。

 本誌はCACとウルンに対して連絡を入れ、コメントを求めたものの、回答を得られなかった。

 チャイナ・デジタル・タイムズ創業者のシャオ・チャンは「中国の検閲システムは政治目的で兵器化されている。国家の全面支援を受け、各部門との調整のうえで組織的に運営されており、非常に洗練されている」と指摘する。「邪魔なコンテンツを削除するだけの存在をはるかに超えている。効果的なナラティブを構築して、ターゲットを定めて集中攻撃できるのだから」

 カリフォルニア大学バークレー校(USバークレー)情報大学院の研究者でもあるチャンはこう付け加える。「これは本当に強大な検閲マシンだ。こんなことをやっている国は中国だけだ」

Gilles Sabrie/The NewYork Times

「太字で書かれるべき見出し」まで指示していた

 2014年に創設されたCACは国家主席である習近平の落とし子だ。デジタル戦略の一環としてインターネット検閲とプロパガンダを集中的に担っている。中国共産党・中央委員会の直轄下に置かれており、中国指導部にとって明らかに重要な位置を占めている。

 CACは20201月第1週になってコロナ対策を開始している。ニュースサイトに対して政府資料のみに基づいて報じるよう命令するとともに、200203年に大流行した危険なSARS(重症急性呼吸器症候群)と比べないようくぎを刺した。世界保健機関(WHO)がSARSとの類似性を指摘していたにもかかわらず、である。

 同年2月に入り、習が率いる幹部会議がオンラインメディアの監視強化を決めると、全国各地に配置されているCAC支部はフル回転し始めた。杭州市を省都とする浙江省の支部は「中国国内のオンライン言論を統制するだけでは駄目。海外のオンライン言論にも積極的に影響を与えるべきだ」という指令を出した。

 コロナの感染拡大がはっきりしてくると、CACはプロパガンダのてこ入れに乗り出した。中国政府に好意的なコロナ関連記事をプロパガンダ要員に送り付け、アグリゲーションサイトやソーシャルメディア上でできるだけ目立たせるよう求めた。大きな方針を示すだけでなく、①ニュースサイトのホームページ上にリンク先が張られるべき記事、②オンライン上で記事が掲載されるべき期間、③太字で書かれるべき見出し――などについても細かく指示していた。

 CACは指令の中でたたえられるべき対象も明示した。コロナが猛威を振るうなかで果敢に戦っているヒーローとして、コロナの感染源である武漢へ派遣されている医療関係者と共に、感染食い止めに向けてリーダーシップを発揮している共産党員を挙げた。

海外からの医療資材寄付は控えめに報道

 事実の隠蔽を狙ったような指令もある。例えば、①社会的パニックを回避するために「不治」や「致死的」といった表現は避ける、②旅行や移動の制限に触れるときにはロックダウンなどの表現は使わない、③感染拡大を否定的に伝えるニュースはできるだけ目立たせない――などだ。

 浙江省内の刑務所で看守のうそが災いして集団感染が起きると、CACは地元の支部に対して「海外から注目を集めかねないので慎重に対応するように」と念を押している。

コロナの危険性を強調しないように中国当局が報道機関に対して出した指令

すべてのニュースサイト向け

<社会的パニックを回避するために「不治」や「致死的」といった表現は使わない。>

すべての報道機関向け

<旅行や移動の制限など感染防止策に触れるときロックダウンや道路封鎖、立ち入り禁止テープなどの文言は使わない。>

すべてのニュースサイトとアプリ向け

<新型コロナウイルスの感染拡大への取り組みを否定的に伝えるニュースについてはポップアップ通知機能を停止する。>

 CACは寄付も含めて海外からの医療資材調達をめぐる報道にも懸念を示し、ニュースサイトや報道機関に対して「控えめに報じるように」と注文をつけた。なぜなのか。世界中で感染拡大が続くなか、個人防護具などの大規模調達に悪影響が及ぶと危惧したからだ。指令の中では「中国が海外からの寄付に頼って感染対策に取り組んでいるとのイメージを作ってはいけない」と書いている。

 コロナの生々しい現状を伝える動画も検閲対象になった。具体的には、検閲当局は①公衆の目に触れる場所に並べられた遺体、②病院内で怒りをぶちまける人々、③集合住宅から遺体を運び出す作業員、④母親から隔離されて泣いている子ども――などを捉えた動画にはことごとく警告を与えた。そもそもこれらの動画が本物であったのかどうか? 本紙が調べた限りでは確認できなかった。

「やらせ」を推奨する指令もある。CACはロックダウン中の住民不安を和らげる狙いで、国内各支部に対して「自宅で楽しめるコンテンツ」を考えるよう促している。杭州市内では「ウィットに富んでいてユーモラスな動画」が制作され、インターネット上で流された。動画では住民の一人がギターを弾きながら「こんなことになるとは夢にも思わなかった。けれども自国を支えるために一日中家の中で寝ましょう!」と歌っている。

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