心臓に障害を持つ14歳が書いた「理想の医者 8カ条」
心臓に重い障害を持つ14歳の少年が「医者になってお兄ちゃんを治したい」と言う弟への返答として書きつづった「理想の医者」になるための8カ条。医療関係者の間で話題となり、広がった文章の書籍化。

まえがき

 長野県箕輪町の13歳、山田倫太郎君と出会ったのは2014年の10月でした。

 「とてもいい文や絵を描く中学生がいるんだ」

 長野県立こども病院の医師から連絡を受け、中日新聞の安藤明夫記者と病院を訪ねました。酸素吸引器を付けた、赤い頰の少年がいました。

 倫太郎君は、左心室と右心室が分かれていない「フォンタン術後症候群(房室交差)」という先天性の障害があります。14千人に一人の難病で、赤ちゃんの時に3回、手術をし、3歳の時に本格的な肺動脈を閉める手術を受けました。

 合併症で腸からたんぱくが漏れるため、今も一カ月に一度は通院して、結果しだいで点滴で蛋白を補充します。治療は半日がかりです。水分や塩分の制限もあります。むくみが出ると眼が赤くなります。激しい運動は難しい。普通学校の普通学級に通っていますが、体力が続くのは午前中まで。昼食後には帰宅します。心臓移植手術の対象ではないため、根治は難しく、対症療法を続けるしかありません。

 病院とは長い付き合いの倫太郎君は、20147月、「医者になりたい」と言い始めた4歳の弟・恵次郎君にあてて「患者が望む理想の医者」という文章を綴りました。自分の入院・治療体験で「うれしかったこと」「して欲しかったこと」を交え、医師に望む8カ条を記したのです。

 倫太郎君の8カ条は、201411月に朝日新聞に掲載されました。その後、デジタル版にも収録され、多くの読者にツイッターやフェイスブックでシェアされて広まりました。現役の医師から「同じ理想を追っています」という手紙も届きました。病院にかかったことがある人なら誰しも「そうだよね」と納得する、ほんのちょっとの医師からの心遣いが、余すところなく記されていました。

 倫太郎君の書くものはとてもシンプルでストレートです。思春期にありがちな、悪ぶったり斜めに見たりするところがありません。それは一日一日を精いっぱい生き切る、倫太郎君の「個性」でもあります。2歳の時に心肺停止に陥って助けられた時の体験。9歳の時に弟が生まれて感じた「命の尊さ」。そうしたものに裏打ちされているから、彼の言葉は表層をすべることなく、しっかりと私たちの心に根を下ろすのかもしれません。倫太郎君はユーモアがあり、美人に弱く、おじいちゃん仕込みの昭和オヤジギャグを連発する魅力あふれる少年です。彼のたっての夢は「自分の本を出す」こと。その夢に、協力したい、と思った医師、看護師、記者、編集者が編んだのがこの本です。

 さらに多くの人に、彼の言葉が届きますように。

20152

朝日新聞記者 阿久沢悦子

命の尊さ ~僕の経験から~

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