政治リテラシーを上げて、自分が最良と思う候補者を選出しよう
これを読んで選挙に行こう!

1章 若者は政治によって損をしている!?

世代会計からみた受益格差

現在35歳くらいまでの有権者が、いかに損をしているのかという話から始めましょう。

ひとつの例は世代会計というもので、秋田大学の島澤諭氏は、「現在の財政や社会保障等を中心とする政府の支出・収入構造と、今後実施されることが明らかにされている政策(年金支給開始年齢の引き上げ、医療保険の自己負担率引き上げなど)を前提とした場合、どの世代が得をし、どの世代が損をするか、定量的に評価する枠組み」と定義しています。

要するに、政府の政策によって、どの世代がいくら得をし、どの世代が損をしているのかということです。

その結果を表したグラフが図11です。2005年時点での5歳区切りのデータですので、現在のあなたの年齢を差し引きして、どこに位置するのかご確認ください。いちばん薄いグレーが生涯にわたる負担金、グレーが生涯の受益額、黒線が両者の差額です。

本来は世代間の違いなどあってはならないはずですが、ご覧のとおり、2005年の時点で50歳代の人たちを境に、それより若い人は負担のほうが大きく、60歳代以上の人たちは受益のほうが大きくなっています。なかでも、どの世代が最悪なのかというと、グラフから推量するに、1975年生まれから1985年生まれまでの人たち。現在、24歳~34歳くらいの働き盛りの若者たちです。あくせく働くけれど、税金でたくさんのお金をもっていかれ、そのあげく、自分たちは政治・政策からは利益をあまり享受できない、そんな人生が見えてきます。

現在70歳代の人たちが、生涯において差し引き1500万円くらい得をしている一方で、1980年前後に生まれた人たちは差し引き2500万円くらい損をする。その差、4000万円! 現在のお年寄りを優遇し、みなさんのような若者に冷たい政策になっているということです。

世代間受益格差は、世代間投票率の違い!?

なぜこんなことが起こるのでしょうか? 理由は至って単純。若い人は選挙に行かないから、政治に声が反映されないのです。そしてたぶん「政治リテラシー」(政治に関する知識)も低いから(これは後述します)。図122007年の参議院選挙のデータを用いて、世代間の投票率の違いをグラフにしたものです。

グラフのとおり、もっとも投票所に行く人たちは65歳~69歳の有権者です。次に60歳~64歳と70歳~74歳の有権者、つまり、定年間際か定年を迎えて年金生活に入っている人々が投票しているのです。他方、20歳代、さらには30歳代前半の有権者は、選挙では棄権をする人が圧倒的過半数を占めます。

明らかに投票に際して世代間の違いがあり、図11の世代不均衡と見事に相関しています(やや専門的になりますが、前述の投票率と世代間不均衡の両者の変数のピアソン相関係数は0782(有意水準1%)であり、かなり高い相関関係を示しています)。

さらに、これに各世代の人口を加味したのが左の図13のグラフです。20歳代~30歳代前半の有権者は、それより上の年代よりもともと人数が少ないうえに、投票率がたいへん低いのですから、ご覧のとおり、もっとも投票者数が少ない世代になっています。

たとえば、20歳代の有権者は合計で1500万人いるのに、有効投票数は500万票あまりで、人数的にずっと少ない(1200万人程度の)75歳以上のお年寄りの投票数700万票をはるかに下回っているのです。国会議員側の立場からみると、20歳代の棄権者1000万人は日本に存在していないのと同じです。

だから、若い人は損している

このような投票率の違いは、選挙において政党が訴えかける政策に影響を与えています。候補者は、選挙に行って投票してくれるかどうかわからない人々にアピールするような政策を提言するより、確実に投票してくれる人々(60歳代後半前後の有権者)に訴えかける政策のほうが断然有利と考えます。当たり前ですね。

ですから、選挙や選挙後の政策にあたっては、年金問題とか介護問題が重要な政策課題としてとり上げられますし、多少の(?)借金をしてでも、景気を回復させようとすることになります。そして、その借金が積もり積もって800兆円以上になってしまって、財政的ににっちもさっちもいかなくなっている、それが日本の財政状況というわけです。

さらにわたしが恐ろしいと思っているのは、1年間国民が無給で働いても返せないくらいの借金をかかえているのに、「景気刺激策」という名目でさらに多額の赤字国債を発行して、みなさんのような若い世代に負担を強いていることです。ほんとうに、それしか選択肢はないのでしょうか? ここでも問題は、それらの政治判断が若い有権者への配慮を欠いたなかで行われているということです。

とはいえ、この状況も、当然といえば当然なのです。若い人たちは、選挙には行かず棄権している人が多数派なのですから、政治家がその人たちのためになる政策を打ち出してもあまり得にはなりません。選挙のとき、候補者は、「若者を活かす街づくり」と訴えるよりも、「お年寄りが安心して暮らせる街づくり」と訴えたほうが当選する確率が高いのです。だからといって、政治家を責めないでください。政治家が悪いのではありません、選挙に行かない有権者が悪いのです。誰だって、候補者になれば、同じことをするはずです。

こんな露骨な受益格差、世代格差があるとしても、あなたはまだ、選挙に行かない選択肢をとるのでしょうか? このようなデータがあるにもかかわらず、まだ80歳以上のお年寄りよりも低い投票率でよいと思っていらっしゃるのでしょうか?

原則4年に1回と3年に1回、日曜日に投票所に行って投票するほんの数十分の自己犠牲で、日本の政治がみなさんの都合のよいように劇的に変わるとしても!?

投票所でどんな候補者に投票するかは二の次、とりあえず行くことによって、政治は変わります。もちろん、政治をしっかり勉強して、日本のためになる候補者を選出できればさらによいことは言うまでもありません。衆議院選挙の選挙演説で「無党派層は寝ていてくれればいい」と言った総理大臣がいましたが、まさしく、60歳代前後の人たちの支持をとりつけたい政党・政治家にとっては、若者や無党派層の人々に選挙に行かれては困るのでしょう。

予算は限られていますから、一方が得をすれば、他方が損をする。このような状況では、現在までのところ、老人が得をして若者が損をするのです。これが現在の日本の政治です。

さて、若い人たちのおかれている状況の一端はおわかりいただけたかと思います。みなさんが損をしているのは、自業自得なのですが、次章でお話しするように、このような事態になっているのには、それなりの理由があります。

これから第2章から第5章までの4つの章において、4つの異なるグループについて解説してゆきますが、その過程で、若い人たちが投票しないがゆえに、誰が損をし、誰が得をしているのかが明確になっていきます。

得をしているのは老人ばかりではありません。もっとほかにも得をしている人たちがたくさんいます。

かくして、若い有権者が、さまざまな形で損をしている仕組みが見えてくることでしょう。民主主義の構造的欠陥といえなくもないのですが、元凶はみなさん自身であるという事実は認識してください。そして、若いみなさんにおかれては、まさに政治を動かしている、という自覚を持って投票所に行っていただきたいと願います。

世代別政治リテラシーの格差は?

もうひとつ、この本の根幹をなすデータを披露しておきます。20歳~35歳の世代は、ほかの世代の人々に比べて、政治リテラシーが優れているのか劣っているのか? という問題です。当然、政治リテラシーは低いと思いますよね?

はい、正解です。

たしかに、わが早稲田大学21世紀COE(Center of Excellence)プログラム・チームが数年前に実施した全国調査では、政治リテラシーの低さが如実に表れています。わたし自身、当時、このプロジェクトに関わり、次のページの図14に示した5つの簡単な問いをアンケート調査に盛り込んでもらいました。よろしければ、いっしょに考えてみてください。

問題をつくったわたしとしては、あまりに簡単で全問正解が出すぎて差が出ないのではないかと危惧していました。国内政治、国際関係、憲法に、経済問題と、多岐にわたってはいますが、どれも基本的な知識を問う設問で、全問正解でも不思議ではありませんでした。

しかし、実際の正答率は、(1963%、(2576%、(3443%、(4527%、(5638%。しかもこれは答えた人のみの正答率で、質問に答えたくないという人がだいたい515%いたので、その人たちを含めると、たいへん低い正答率になります。

たとえば、第1問の正解は、小泉純一郎(当時)なのですが、それですら、正答率は805%。全問正解者は全体の265%。ほぼ4人に1人程度です。

これ、かなりゆゆしき問題だと思いませんか? 選挙において正しい選択をするためには基本的な政治知識が必要なのですが、大多数の人々はそれすら知らないで投票していることになるのですから! 

わたしたちが間違った政党や政治家を選択している確率はかなり高い。こういうことが言えそうです。

(ちなみに、2番以降の正解は、第9条、5%(当時)、フランス、地球環境の順です。)

それでは、なんらかの属性により政治リテラシーの格差は存在しているのでしょうか?

答えはイエスです。

2つの因子が考えられます。

まず、教育程度。学歴と政治知識には正の相関関係があります。高い学歴を持つ人ほど、政治知識が多い。ただし、これは政治知識だけが多いのではなく、あらゆる知識が豊富なためで、その中のひとつが政治経済に関連したもの、ととらえるべきでしょう。

具体的には、中等教育以下の教育を受けた者の中で政治知識が高かった者は218%しかいなかったのに対して、高等教育を受けた者は441%、高等教育より上は650%で、教育程度が高いほど、政治に関する知識が増す傾向があります。したがって、教育機関でさまざまな知識を得ている過程で、政治知識も副次的に習得しているのであろうことが推測されるのです。

もうひとつは年齢です。図15をご覧ください。この図表は、前述の5問中4問以上を正解した人の比率を表しています。

たしかに20歳代の政治知識は低い。20歳代では4問以上正解した人は全体の442%しかおりません。年齢が上昇するにしたがって政治リテラシーも上がっていき、50歳代でピーク(530%)に達します。その後は下降に転じ、20歳代の知識レベルは70歳代以上のお年寄りよりも上です。30歳代では、40歳代や50歳代には負けますが、60歳以上より上であるのが、救いではあります。

理由は、たぶん「ライフサイクル効果」が大きいのでしょう。ライフサイクル効果とは、年齢の変化が個人のライフステージの変化として表れて社会との関わり方が変化し、それによって受ける影響のことです。

たとえば、税金をたくさん納めるようになったときに、政治に対する関心が高まり、政治知識を得るようになるかもしれません。あるいはまた、政治リテラシーを上げて投票所に行くことが、実は自分にとって重要な影響を与えることがだんだんと理解されてくるためなのかもしれません。なにしろ、図11も図12も図15も驚くほど一致しているわけですから。

いずれにせよ、若い人の政治リテラシー、もっともっと引き上げる必要があるようです。

第2章 主役は、「有権者」のはずだけど……(1)

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