第一部 外交交渉から見た領土問題 東郷和彦
第一章 二十五年間の交渉に敗北した北方領土問題
北方領土問題の本質的な意義
北方領土問題は、「領土問題」ではない、「歴史問題」である。
講演などで時折聞かれることがある。
「東郷さんは、どうしてそこまで北方領土問題にこだわるんですか」と。質問者の言葉には、「日本にとって、あの四島が返ってきてどういう利得があるのですか。それは、四島周辺の漁業の利得のためなのですか。それとも、四島を獲得することは、安全保障上の利益があるからなのですか」といった含みがある。
私たちが、北方領土問題を対ロ外交の最重要問題として追求してきたのは、経済的利得のためでもなけれ…