「保護者のモラルの問題」か「経済的な問題」か
「ベンツに乗っても払わない」とも言われる給食費未納問題。「払わないなら食べさせない」で片付けていいのか。

第一章 払わないなら食べさせない?

「はじめに」でも紹介したように、埼玉県北本市の中学校で、給食費未納が三カ月続いた場合は給食を提供しないことを決定して、未納家庭に通知したことが大きなニュースになりました。

 ネット上では、給食費を滞納する保護者のモラルを非難する多くの意見が見られました。給食費未納について、文部科学省がアンケート調査を行った学校の認識でも、保護者としての責任感や規範意識の欠如が原因だとする見方が多いのです。

 みなさんは、給食費未納の原因を「保護者のモラルの問題」とお考えでしょうか。

 それとも「経済的な問題」とお考えになりますか。

 以下に紹介するように、文部科学省が学校に行っているアンケート調査では、未納の原因として、「保護者のモラルの問題」か「経済的な問題」のどちらか一方を選ぶ質問となっていますが、実際に学校現場の教職員に聞いてみると、「どちらとも言えない」「両方」という回答が多い状況です。

 私は、この給食費未納を親のモラルの問題として片付けることに大きな疑問を持っています。さらに、保護者に責任がある場合でも、その結果として、給食の提供中止など子どもにペナルティを負わせることも不当であると考えています。

 かつて私は大阪の女性教員たちと、この給食費未納問題について話す機会がありました。

 保護者への未納給食費督促の書類を渡されても、払えないことがわかっている小学生は、その書類を家に持ち帰らず、ロッカーに溜めてしまうそうです。保護者を困らせたくない小学生の気持ちがよくわかるとのことでした。「お金を払うのが当然」と切り捨てるだけでは見えてこない、「お金を払う」という当然のことがままならない家庭の事情に目を向ける必要があります。

 給食費未納の家庭には、子どもが育つ環境としては何らかのリスクが考えられ、給食費未納を福祉による支援が必要なシグナルだととらえることが必要と考えています。

 本章と次章では、この理由について給食費未納に関する文部科学省の調査を詳しく分析しながら説明します。

保護者のモラルの問題なのか

 文部科学省は、「学校給食費の徴収状況に関する調査」を二〇〇五、二〇〇九、二〇一〇、二〇一二(平成一七、二一、二二、二四)年度の四回行い、その結果を公表しています*5。二〇〇五年度の調査は学校給食(完全・補食・ミルク給食)を実施している全国の国公私立小・中学校全数調査で行われ、二〇〇九〜二〇一二年度の調査は完全給食を実施している全国公立小・中学校から約六〇〇校を抽出して行われています。

 文部科学省は、「学校給食費の徴収は学校給食の実施主体である地方公共団体と保護者の間で処理されるべき事柄であり、保護者のプライバシーに係る問題もあって、(従来は)国として実態を把握していなかったが、各学校や市町村教育委員会等が対応に苦慮している事例が多く伝えられていることから*6」、学校給食実施者における学校給食費の未納問題への適切な対応に資するため、学校給食費の徴収状況に関する調査を実施したと説明しています。

 全数調査で行われた二〇〇五年度の給食費未納調査では、小中学生全体の一・〇パーセントに当たる全国約九万九〇〇〇人が給食費未納であり、未納総額年間約二二億円(未納額割合約〇・五パーセント)と報告されました。あわせて、給食費未納についての学校の認識として、「保護者の経済的な問題」が原因であるとの回答は約三三パーセントに過ぎず、「保護者としての責任感や規範意識」が原因であるとの回答が約六〇パーセントを占めたことが大きく報じられました。

 新聞全国紙も社説で、

学校給食費「払えるのに払わない」無責任さ*7

給食費未納が示すモラル崩壊*8

学校給食費「払わない」は親失格だ*9

給食費滞納「払えても払わない」は通らぬ10

 などと、「保護者のモラルの問題」との学校の認識を強調して論じていました。

 直近の二〇一二年度調査(抽出調査)では、未納者割合約〇・九パーセント、未納額割合約〇・五パーセントと報告されています。二〇一二年度調査でも、学校側が認識する未納の主な原因のうち、「保護者としての責任感や規範意識の欠如」が約六一パーセント、「保護者の経済的な問題」が約三四パーセントです。すなわち、学校では、「お金があるのに払わない」場合が三分の二、「お金がなくて払えない」場合が三分の一と見ています。次に、この文部科学省の「学校給食費の徴収状況に関する調査」(以下、「文科省調査」)で調査されている他の内容も詳しく見ていきたいと思います。

給食費未納の実態

 文科省調査の対象は、二〇〇五年度は学校給食(完全・補食・ミルク給食)を実施している全国の国公私立小・中学校全校であり、二〇〇九〜二〇一二年度は完全給食を実施している全国公立小・中学校からの抽出です。したがって、数値の推移は、二〇〇九〜二〇一二年度を中心に見ていきます。

 学校給食費が未納の児童生徒の割合は、直近の調査である二〇一二年度において小中平均して〇・九パーセントです。その内訳では、中学生一・二パーセント、小学生〇・八パーセントと中学生の未納率が高くなっています(図表1)。その推移を見ると、常に中学生が高く、小中とも人数割合は低下傾向にあります。前回の調査の状況と比較した未納の児童生徒数も「増えた(「やや増えた」を含む)」という意見が減り、「減った(「やや減った」を含む)」、「変わらない」という意見が増えています(図表2)。

 未納額の割合は、直近の調査である二〇一二年度において小中平均して〇・五パーセントです。未納額は、年間の給食費全額ではなく一部の場合が多いことから、金額割合は人数割合の半分程度となります。金額割合も小中別では、中学校〇・六パーセント、小学校〇・四パーセントと中学校の未納額割合が高く、人数割合と同様にその推移を見ても、常に中学生が高く、小中とも金額割合も低下傾向にあります。

 あわせて、学校給食費が未納の児童生徒がいた学校割合も発表されています。こちらも三調査年度の推移では、中学校は六一・七パーセントから五八・五パーセントに低下し、小学校は五二・八パーセントから四一・五パーセントに低下しています。学校割合も人数・金額割合と同様に、常に中学校が高く、小中とも低下傾向にあります。

 仮に、給食費未納のほとんどが「保護者のモラルの問題」ならば、中学生の未納率の高さをどのように説明するのでしょうか。子どもが中学生になると親のモラルが低下するが、近年、親のモラルは改善しているということになるのでしょうか。小学生と比較して中学生の未納率が高いのは、子どもにかかる費用が中学生のほうが高いという経済的要因が影響していると考えるのが妥当だと思います。

 文部科学省の「平成26年度子供の学習費調査」によれば、学校関係で必要な費用は小学生年間約一〇万円に対して、中学生は年間約一七万円です(図表3)。小学生に比べて、制服・通学代などの通学関係費、クラブ活動費などの教科外活動費、修学旅行・遠足・見学費などが高額になっています。実際に教育現場では、クラブ活動の用具が必要なので、給食費は少し待ってほしいという声があがることもあるそうです。これに加えて、公立中学生の学習塾費の平均は、年間二〇万円以上にもなっています。特に高校受験を控える公立中学三年生の学習塾費は、平均で三二万六三三三円にものぼっています。

 憲法第26条には、国民に教育を受ける権利を与え、保護者に子どもに教育を受けさせる義務を課して、さらに「義務教育は、これを無償とする」と書かれています。しかし、義務教育のうち無償のものは授業料や教科書に限られ、給食費以外にもこのように多くの自己負担が必要になってくるのです。

給食費徴収と未納対応の実態

 給食費の徴収方法は、「保護者の金融機関の口座引落」が七二パーセントで最も多く、続いて、「児童生徒が直接、学級担任に手渡し」八パーセント、「複数徴収方法の併用」七パーセント、「PTA等と連携し徴収」六パーセント、「指定した金融機関へ振り込み」五パーセント、「児童生徒が直接、学校事務職員に手渡し」一パーセント、「その他」一パーセントとなっています(図表4)。小学校と中学校で大きな違いはありません。

「複数徴収方法の併用」とは、口座引落・振り込み・担任等に手渡しの徴収方法から、保護者が選択するケースです。「その他」の例としては、「集金箱を設置し徴収」「児童生徒が指定金融機関に手渡し」が挙げられています。二〇〇五年度調査の「その他」の例には、「専ら徴収業務に従事する臨時職員の採用」「教育委員会や委託を受けた金融機関が学校に出向き徴収」も挙げられています。二〇〇九年度と二〇一〇年度の調査には、「自治会による徴収」が、それぞれ一パーセント、七校と八校から回答がありました。

 このように学校によりさまざまな集金方法が採られていますが、PTAや自治会による徴収は、かつて給食の費用がPTAや自治会にも負担されてきたという歴史的経緯によるものと考えられます。しかし、「保護者のモラルの問題なのか」の項で紹介した「学校給食費の徴収は保護者のプライバシーに係る問題」との文部科学省の国会答弁通り、徴収時に把握される未納者の個人名の扱いには十分な配慮が必要です。

 現在、保護者等の同意を得て、児童手当から学校給食費等を納付することができる仕組みが導入されています。この児童手当からの給食費徴収を実施しているのは小中ともに約三割であり、残り七割は実施していません。二〇一〇年度調査では、児童手当の前身である「子ども手当」支給後の徴収状況への影響についても質問しています。それに対して、給食費が未納の児童生徒がいた学校の四分の一で「徴収状況の改善が見られた」という結果となりました。残り四分の三は、「特に影響はなかった」と回答しています。

 また、給食費の会計上の扱いとしては、自治体の教育委員会などで管理する「公会計」と、学校長名義の口座で管理する「私会計」の二つに分けられます。給食費を自治体の会計で公会計として取り扱っている割合は、小中合わせて約三割です。中学校で公会計化が進んでおり、小中ともに公会計の割合は増えつつあります。公会計であれば、未納者には自治体が督促を行うことができ、未納分も自治体の負担、すなわち税金による負担となります(図表5)。学校長名義の口座で管理する私会計の場合には、未納者には学校が督促を行い、未納分は他の生徒の負担になったり、食材購入に影響が出ることもあります。公会計化に伴い、現金集金から口座振替に変わった場合には、未納が増えることもあります。

「さいたま市教育研究会学校事務部研究協議会」のアンケート結果(以下、「さいたま市学校事務職員アンケート11」)においても、現金集金の学校は、口座振替の学校に比べて給食費の未納が少なくなっています。しかし、現金集金には、金銭管理の安全面で大きな問題があります。

 二〇一二年の文科省調査では、給食費欠損分への対応の五五パーセントが「徴収した学校給食費から学校給食を実施」すると回答しています。この場合は、給食費未納によって、他の生徒の負担や食材購入に影響を生じることになります。次が「市町村教育委員会等の予算から一時補填」、すなわち、税金による負担が二八パーセントとなっています。最も回答が多かった「徴収した学校給食費から学校給食を実施」と「学校が他の予算等から一時補填」(六パーセント)の回答割合は低下傾向にあります。一方、「市町村教育委員会等の予算から一時補填」の回答は増加傾向にあり、公会計化に伴う対応の変化と考えられます(この公会計化については、次章でも再度考えます)。

学校側の認識

 文科省調査では、「給食費未納の主な原因についての認識」に関して「保護者としての責任感や規範意識」「保護者の経済的な問題」「その他」から一つ選ぶ形で学校の見方を聞いています。

 二〇〇五年度の調査同様、直近の二〇一二年度の調査でも「保護者としての責任感や規範意識」が六一パーセントを占め、「保護者の経済的な問題」が三四パーセント、「その他」五パーセントとなっています(図表6)。そして、「その他」については、「原因が『保護者としての責任感や規範意識』または『保護者の経済的な問題』のいずれか明確に判別ができないため、『その他』を選択した例が多数」と説明されています。

「未納が増えたと思う原因」について自由記述で回答する質問項目もあります。こちらも「保護者としての責任感や規範意識」と分類される回答が六三パーセントとなっていますが、「保護者の経済的な問題」も四九パーセントと多くなっています。両方の事例があったり、単数回答の「その他」のように、原因が「保護者としての責任感や規範意識」又は「保護者の経済的な問題」のいずれか明確に判別ができなかったりする場合も多く、このような回答になっていると見られます。

「未納額が減った」と回答した学校には、「未納が減ったと思う原因」について同様に聞いています。ここでは、「督促の継続・強化(家庭訪問含む)」(二〇一二年度四六パーセント)、「就学援助制度等の活用の推奨」(同年度一八パーセント)を挙げる学校が比較的多く、「保護者の模(規)範意識の向上」を挙げた学校は、二〇一二年度には三パーセント一校のみという結果でした。

「さいたま市学校事務職員アンケート」には、どのような状況で学校が「保護者としての責任感や規範意識」の問題と「保護者の経済的な問題」のどちらを理由に挙げるかについての手がかりがあります。集金日から一月以内に納入されない件数は、学校によって「なし」から三一件以上まで幅があります。滞納件数が多い学校では「保護者の経済的な問題」と考える学校事務職員が多い傾向がみられます(図表7)。

 逆に、滞納事例が少ない場合は、一部の保護者の「責任感や規範意識の問題」と見られがちです。

「さいたま市学校事務職員アンケート」では、保護者に経済的な問題がなく、生活水準が高いと判断する根拠も聞いています。多い回答は、「高価な車に乗っている」「ブランド品のバッグを持っている」でした。未納家庭についての新聞報道にも

「教職員が未納の家庭を訪問したところ、ブランド品で着飾った保護者が『義務教育だから無料にすべきだ』と拒否したという」

 とありました12

 しかし、神奈川県海老名市では個別の未納家庭の状況について、個別訪問で聞き取り調査した結果、理由が判明した支払いの遅れの七割が「給料日前で手持ちがない」など経済的理由、三割が「銀行へ支払いに行く時間がない」との理由となっています13

「高価な車」「ブランド品のバッグ」が中古品である可能性もあるでしょうし、車やバッグなど特定の物について見栄を張り、生活水準以上の消費をする人もいるでしょう。このような消費生活面での計画性に問題を抱える親が、子どもの学校や教育への関心という面でも問題がある可能性にむしろ注意を払うべきではないでしょうか。単純に高級車やブランド品といったものから経済状態を判断する学校の認識のみを前提に、給食費未納問題を議論することは不適当です。

第一章 払わないなら食べさせない?(2)

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