
「トヨタマンは人間ではない」
一一月一日 朝は寒かった。震えながら小走りに工場へ駆け込む。
コンベアに就いている自分は、もはや自分ではない。ミッションケースに取りついたまま流されて、ふと眼を上げて前を見た時、「あれっ、こんなところに来ているのか」と驚かされることがある。そこでは突然、コンベアを越えて視界が拡がり、建屋の向う側のドアが開いて光が射し込み、フォークリフトが入って来るのが見えたりして、新鮮な感動を覚える。それまでの自分の視界は、見慣れ、触り慣れた部品によって構築された微細な世界だけに限られ、流されてたまたまそこを出て視線を上げた時、眼の前の風景は、いま…