文庫版あとがき
トヨタ自動車で働いたころと十年後のいまとでは何が変りましたか、との質問を受けることが多い。日本では、どうしたことか、自動車工場の実態については記事になりにくいらしく、たずねてくるのは、たいがい外国の記者たちである。国際貿易摩擦の余波のひとつだが、彼らの関心は、日本的経営の秘密にある。
「たいして変ったことはありません」
とわたしは答える。ベルトコンベアに象徴される分業の極細化とそれによる長時間の単調労働が存在し、企業への帰属意識を支える小集団活動に労働者が参加させられている限り、「絶望工場」の状況は変りようもない…