私と同じ44歳の彼は、もうすぐ帰らぬ人となる。処刑まで、あと1カ月を切っていた
〈犯した罪の償いとして、死刑が存在する。それは、人間社会が決める善と悪の基準に則って、できる限り悪を排除するための慣習なのだと思う。しかし、その基準は、全世界共通でないばかりか、国や地域や町によっても異なる。理想や希望こそあれ、死刑に絶対的な答えはない。〉生殖医療、安楽死と「生と死」をテーマにし続けてきたジャーナリストが、世界各国を取材し、死刑の「なぜ」に迫る。

6回 失われた記憶と死刑判決

 二〇二一年一〇月二一日。日本取材のためにスペインから一時帰国し、東京都内で二週間のホテル隔離を行っていた私は、ようやくその束縛から解放され、すぐに取材活動に取り掛かった。新型コロナウイルス(デルタ株)の感染グラフも日に日に右下がりの東京ではあったが、感染防止対策は、欧米とは比較できないほど厳しく思えた。

 ヨーロッパから出張という形で日本に来ている私にとって、この隔離生活は時間と費用の莫大なロスだった。ともあれ、感染率と致死率の高い国や地域を一年半以上、転々としてきた中で、一度も病に倒れず活動を継続できたのは奇跡に近かった。それは単純に、運が良かっただけなのかもし…

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