私と同じ44歳の彼は、もうすぐ帰らぬ人となる。処刑まで、あと1カ月を切っていた
〈犯した罪の償いとして、死刑が存在する。それは、人間社会が決める善と悪の基準に則って、できる限り悪を排除するための慣習なのだと思う。しかし、その基準は、全世界共通でないばかりか、国や地域や町によっても異なる。理想や希望こそあれ、死刑に絶対的な答えはない。〉生殖医療、安楽死と「生と死」をテーマにし続けてきたジャーナリストが、世界各国を取材し、死刑の「なぜ」に迫る。

3回 憎む被害者と守られる加害者

 フランスでは、刑務所職員、政治家、弁護士らへの取材を通し、専門家の視座から死刑廃止の重要性やその本質を見いだすことができた。そのためには、国民の反対を押し切ってでも、国家の刑罰を停止させようとする政治家の「情熱」と「勇気」が必要であると知った。

 彼らからしてみれば、極刑はさまざまな法理論や実務経験を踏まえた上で、「不必要」と判断できるのかもしれない。だが、犠牲者やその遺族だけでなく、社会の大部分を構成する一般市民の感情は蔑ろにされていいのかと、私は常々、疑念を抱いていた。

 確かに、個人の感情と国の制度は切り離して考え、政治家は、勇敢な姿勢で人権問題に立ち向か…

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