「第2の地動説革命」1995年に何が起きたのか?
21世紀を牽引する科学分野のひとつ、太陽系外惑星研究の第一人者が伝える天文学・惑星科学の最先端。

[第1章] 私たちの太陽系

別の世界(アナザー・ワールド)

 人類は古くから、自分の住む世界とは別の世界に思いを馳せてきました。それを「天界」、すなわち神の領域とした文明もあれば、「霊界」と位置付けた文明もあります。記録に残るものとしては、すでに紀元前5世紀、ギリシャ時代の哲学者たちが、はっきりと「別の世界の存在」を考えていました。キオスのメトロドロス、アナクサゴラスがその代表です。

 一方、プラトン、アリストテレス、プトレマイオスは真逆の考え、つまり、地球は「唯一無二の存在」であると唱え、それ以降、この考えが中世までヨーロッパの世界観を支配しました。これが「天動説」、すなわち、地球を中心とする宇宙観・世界観です。

 その状況を転換させたのが、1543年のコペルニクスの「地動説」です。彼の主張は太陽中心説で、天動説では説明できない1年の長さの測定と、それによるズレを説明しました。当時、この考えがすぐに理解され、受け入れられるということは難しかったのですが、地動説はケプラーやガリレオに引き継がれていきます。

 天文学の父とされるガリレオ・ガリレイが、当時発明されたばかりの望遠鏡(図2を使って、月、星雲、星団、衛星など、さまざまな天体を観測したのは1609年のことです。翌1610年には、その観測レポートというべき『星界の報告』を出版しました(図3。地動説を揺るぎないものにしたのは、この望遠鏡の発明とそれによる観測でした。これが、今日の観測天文学の基本的スタイルです。

 ガリレオが『星界の報告』の中で、「望遠鏡を用いると、金星が月のように満ち欠けするのが見られる」ことを示したのは印象的です。なぜなら天動説では、星は「満ち欠け」をしないからです。

 これを思い起こすと、その400年後に、太陽系の外にある「系外惑星が満ち欠け」しているデータが初めて得られたことは感慨深いものがあります(図4

 つまり、人類はようやく、太陽系の外の惑星をガリレオのように「見る」ことができるようになったのです。

 生命の誕生に地球のような環境が必要だとすると、太陽のような恒星のまわりには(あるいは、太陽に似ていない恒星のまわりにも)どれぐらいの惑星が存在し、その中に地球に似た惑星がどれぐらいあるのか。地球に似た惑星が、私たちの銀河系、あるいは、宇宙全体ではどれぐらい存在しているのか──。

 天文学の発展によって、1995年以降、こうした問いに、想像ではなく科学的に答えられるようになってきたのです。

太陽系は唯一無二の存在か?

 ここで、宇宙の広がりを実感するために、地球からスタートして、宇宙の果てまで旅してみましょう(図5

 人の大きさを基準とすると、日本の大きさは約100106乗)倍です。地球と月を含めた広がりは約10109乗)倍。太陽系全体では約101013乗)倍になります。近くの星々を含めたサイズは約10けい1017乗)倍。これらの星々の集合体である私たちの銀河系全体では約10がい1021乗)倍です。また、これらの銀河が集合した宇宙の大規模構造は1025乗倍で、京や垓どころか、普段使う単位では表せなくなります。そして、私たちが見ることができる宇宙の果て「137億年前の宇宙マイクロ波背景放射の広がり」(*1は、1027乗倍といわれています。

 それでは、文字通り「星の数ほどある」星は、実際には宇宙全体でどれぐらいあるのでしょうか。

 現在の研究では、宇宙全体で銀河は10001011乗)個ぐらいあると推定されています。銀河の大きさとして標準的な私たちの銀河系には、だいたい1000億から2000億個の恒星があるといわれています1000億と2000億では倍も違うと怒られそうですが、天文学での議論では数倍程度の数字の違いを気にするよりも、桁で議論を進めることが多々あります)。これに基づくと、宇宙全体では1001022乗)個の恒星があることになります。

 このような恒星すべてが、太陽のように8(約10個)の惑星を持っていれば、宇宙には恒星の数より1桁多い1023乗程度の惑星があるということになります。しかし、なんらかの理由で「太陽系だけが宇宙で特別な唯一無二の存在」であるならば、その数は一気に8個に減ってしまいます。

 太陽系は特別なのでしょうか。それとも、ありふれた恒星と惑星の集まりなのでしょうか。

私たちの太陽系

 結論を急ぐ前に、ここで、私たちの太陽系について少し詳しく見ていきましょう。

 太陽系の王様は、いうまでもなく太陽です(図6

 太陽は、銀河系の中で典型的な質量を持った恒星。恒星は、その主成分である水素ガスを燃焼させて安定的に長期間にわたって明るく輝く天体です。自然の核融合が絶妙なバランスで起こっており、その質量を有効にエネルギーに変えています。表面温度は6000度程度で、明らかに生命が存在する場所としては高温すぎて不適当ですが、生命活動の源となるエネルギー供給源として不可欠な存在です。

 宇宙には、太陽質量の約100倍から約10分の1までの恒星があることが知られていて、重さの順にOBAFGKM型星という名前が付けられています。これらは、本来はスペクトル(色別の強度分布)のタイプ(型)を表しますが、一人前の星(主系列星)では各タイプが温度と質量に11に対応しています。つまり、最も高温で最も重い恒星がO型星、最も低温で最も軽い恒星がM型星となります。

 重い恒星は相対的に数が少なく、軽い恒星ほど数が多くなります。たとえば、太陽に似た恒星G型星)30光年以内に20個程度しかありませんが、太陽質量の半分以下しかないM型星は約270個もあります。

 しかしながら、太陽質量の約10分の1よりも軽い星は、もはや恒星としては存在できず、水素ガスを燃やすことができない暗い星になります。この中でも特に軽い星が「惑星」と呼ばれます。太陽系最大の惑星である木星でさえ、太陽の約1000分の1の質量。地球はさらに軽く、木星の約300分の1の質量です。

 太陽系の惑星は大きく3つのタイプに分けることができます。

 太陽からの距離で分けると、近・中間・遠。サイズあるいは質量で分けると、小・大・中。成分で分けると、岩石・ガス・氷となります。面白いことに、それぞれがこの並びに対応しています(表1・図7。図表では、数字は覚えやすいように概数で表記しています。

 地球型惑星あるいは岩石惑星は、地球、水星、金星、火星。名前の通り、主成分は岩石です。岩石惑星には、宇宙の主成分である水素やヘリウムはほとんどありません。岩石でできているために、ガス惑星に比べ比重が大きいのが特徴です。

 木星型惑星あるいは巨大ガス惑星は、木星と土星。主成分は水素やヘリウムです。

 海王星型惑星あるいは巨大氷惑星は、海王星と天王星。外側に大気はあるものの、大部分は氷でできています。

 太陽系の惑星を内から順番に一列に並べると、太陽の近くに岩石惑星が集まり、その次にガス惑星、その外側に氷惑星が位置します。しかし、これが本当に宇宙の標準なのかどうかは、太陽系以外の惑星の姿が明らかにされないとわかりません。

惑星の姿と恒星になれなかった星

 それぞれの惑星をもう少し詳しく見ていきましょう。

 太陽の一番近くを回る水星は、地球の約20分の1の質量で、大気のほとんどない乾いた岩石の惑星です。地球に最も近い惑星である金星は、地球とよく似た大きさと質量。しかし、二酸化炭素を主成分とする厚い大気があるため、その温室効果によって惑星表面は摂氏460度と熱く、生命が存在するような場所ではありません。

 地球の外側を回る火星は、これまでの探査の結果から水が流れたと考えられる痕跡が見つかっており、大昔には海があったことが確実視されています。また、現在も地下には大量の水があると推測されています。南極大陸で見つかった火星の隕石の中にバクテリアと考えられる痕跡が発見されたこと、火星での生物起源とも考えられるメタンが発見されたことは大きな話題になりましたが、これまでのところ、火星における生命の存在を裏付ける決定的な証拠は見つかっていません。

 火星のさらに外に位置する、巨大惑星である木星や土星はほとんどが水素とヘリウムのガスで、中心に氷と岩石によるコア(中心核)があります。これらの大気は気圧が高すぎて、生命が存在するには難しい環境でしょう。

 海王星、天王星は氷惑星と呼ばれ、どちらも摂氏マイナス220度ほどの凍てついた惑星です。

 他方、軽いために恒星になれない天体のうちの重いもの、すなわち、恒星より軽く、惑星より重いものを「褐色わいせい」と呼びます。褐色矮星は、私たちの太陽系にはない種類の新天体です。

 1960年代、当時京都大学の中野武宣、林忠四郎やアメリカのクマーがその存在を理論的に予想していました。

 惑星よりは重い天体なので、本来であれば惑星より先に発見されてもおかしくはないのですが、系外惑星探査と同様に、世界中での長い探査競争の末、198090年代に発見されました。今では1000個以上の褐色矮星がリストされています(第8章)

 なお、星という言葉は通常は恒星の意味で使われますが、褐色矮星も惑星も、恒星ではない種類の「星」なので、本書ではこれらを区別し、「星」は三者の総称の意味で使うことにします。

惑星系形成論

 さて、先に「太陽系は特別なのか」という問いを投げかけましたが、それに対する答えはこれまでありませんでした。なぜなら、私たちはこれまで太陽系の中の惑星の例しか知らなかったからです。

 しかし、惑星がどのように生まれるのかを物理的に理解することができれば、どのような恒星のまわりに、何個の惑星ができるのかということは、計算やシミュレーションによって予言できるかもしれません。このような研究は、天文学・惑星科学の中で「惑星系形成論」として発展してきました。

 実際、この理論は(少なくとも)太陽系の成り立ちをうまく説明できることがわかっています。たとえば、林忠四郎元京都大学教授らが基礎をつくった「京都モデル」(*2が有名です。その標準モデルを図8に示しました。

 円盤の主成分は、恒星と同じく、ガスと塵です。この塵の大きさは01マイクロメートル1000万分の1メートル)しかありません。

 塵は、お互いが衝突したり、くっつき合ったりして、センチメートル単位のサイズに大きくなり、自分の重みで円盤の赤道面に落ちていきます。そして、赤道面に集まった塵の層は、分裂してキロメートル単位のサイズの「微惑星」と呼ばれる天体になります。さらに、それらが衝突・合体して「原始惑星」になります。

 このとき、大きな微惑星はとりわけ成長しやすい性質があり、それを「暴走・寡占成長」と呼びます。水星や火星は、暴走・寡占成長した原始惑星の生き残りと思われます。地球や金星は、原始惑星同士が衝突して最終的な姿となったようです。

 また、木星や土星は、原始惑星が多量のガスを集めて巨大化したもの。海王星や天王星は、太陽の遠方にあるため主成分は氷ですが、原始惑星の生き残りと考えてよさそうです。

 このようにして、標準モデルは太陽系の成り立ちをうまく説明できます。

 しかし、これらの各プロセスがどのようにして進むかについては、現在でも多くの議論があり、次章で述べる「恒星の形成」とは違って、かなり確立されたモデルというところにまでは至っていません。

 何よりも、この標準モデルでは説明できない系外惑星が続々と発見されてきていることで、この標準モデルの修正や見直しが始まっているのです。

1 宇宙の始まりから、あふれる自由電子とイオン状態の原子核に進行を妨げられ、宇宙に満ちていた光が、38万年後、宇宙の膨張とともに、自由電子と原子核が結合して中性の原子となる「宇宙の晴れ上がり」でまっすぐ進めるようになります。137億年後の現在、その光がマイクロ波となってあらゆる方向からやってきています。これが、観測できる宇宙の限界です。

2 太陽系は、太陽質量の100分の1程度の小質量の円盤(第2章)を起源とするというもの。

[第2章] 惑星が生まれるとき、円盤の世界(1)

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