衣笠、星野、江夏、村田兆治——珠玉の野球ノンフィクション9編
山際淳司が描いた衣笠祥雄、星野仙一らレジェンドの横顔。再編集版で復刻。
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終章 引退

一本杉球場にて

1986(昭和61)年

 てつさくのあいだから、何本もの手が突きだしていた。

 鉄柵はバックネットのきれるあたりから内野席にかけて張りめぐらされているものである。手首がゆったりととおるほどのすき間があるわけではない。それをこじあけるようにして、子どもの手も、大人の手も同じように突きだされた。

 背番号28をつけ、かつての阪神タイガースのストライプのユニフォームを着た江夏豊が、最後のマウンドをおり、花束をかかえて球場を一周しようとしたときだった。江夏投手と最後の握手をしようと、スタンドにいるファンが鉄柵のあいだから手をさしのべたのだ。

 江夏は立ちどまり、そして右手をさしだした。

 119日のことだった。

 その日、江夏豊の引退試…

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