まだ人の気配のない外野スタンドの、そのさらに向こう側から突然、わっという喚声が聞こえてきた。
打撃練習のためにマウンドに上がり黙々とボールを投げていたピッチャーはその喚声に思わずコントロールを乱し、ケージのなかのバッターに会釈すると外野スタンドを振り返った。
開門を待ちかねていたファンが西武球場の、外野席の芝のうえを走っていくところだった。我先にとゲートを走りぬけ、自由席のいい場所を確保しようというのだ。
4月10日の土曜日、プロ野球の開幕日。天気は下り坂に向かっているという予報だったが、所沢の西武球場は晴天に恵まれていた。風が吹くとまだ肌寒さを感じる季節だが、スタンドは続々と観客で埋まって…
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