野球に関して好きな話が、いくつかある。
例えばこれは、ちょっと昔のアメリカ野球の話だ。とてつもなく足の速いキャッチャーがいてね──と始まるやつがある。
ある日、バッターが一、二塁間のゴロを打った。一塁手は打球を追って走る。ピッチャーがベースカバーに入るところだ。ところが、一塁手がかろうじてその打球をつかむと、ピッチャーはまだマウンドにいた。彼はヒットを打たれたと思ってマウンドから動こうともしなかったのだ。それでもバッターは一塁でアウトになった。なぜかって? キャッチャーがバッターより先に一塁ベースに辿りつき、一塁手からの送球を受けたからさ。
「あんなに足の速いキャッチャーはそれ以後お目にかかっ…
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