衣笠、星野、江夏、村田兆治——珠玉の野球ノンフィクション9編
山際淳司が描いた衣笠祥雄、星野仙一らレジェンドの横顔。再編集版で復刻。

そして今夜もエースが笑う  

1987(昭和62)年

 ある投手のことをここに書いておこう。

 かれは早くからその素質に注目されていた。だけれども、自分の持っているものをうまくマウンド上で表現することができなかった。

 そして、ある日、かれはマウンドの上で、これかもしれないというものを見つけるのだ。

 その日のことを、ぼくは書いている。

 奇妙なのは、そのゲームがいよいよあと一人で終わるというところまできて、あらだいすけがふっと気の抜けたような微笑を浮かべたことだった。

 そのときの、ごくわずかな表情の変化、マウンドにいるピッチャーの顔の筋肉がちょっとゆるんだということをおぼえている人など誰一人としていないだろう。

 その年、プロ野球は阪神タイガースの話題でもち…

この作品では本文テキストのコピー機能を制限しています

01