なぜ似たもの同士で結婚するのか データで見える「家族の幸せ」
出産や子育てにおいて幅を利かせるエビデンス(科学的根拠)を一切無視した「思い込み」を気鋭の経済学者が論破する。

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1章 結婚の経済学

 家族の始まりは、それが法律上のものであろうともなかろうとも、結婚にあると言えるでしょう。「家族の幸せ」について考えるというのが本書のテーマですが、この章ではまず「結婚」と、そこへつながる「恋愛」について考えてみましょう。

 恋愛と結婚は、それ自体が個人の幸福にとって大きな影響を及ぼすものです。どのように恋愛や結婚が行われるのかを知ることは、個人と家族の幸せを理解する上で欠かせません。

 一方で、恋愛や結婚は、きわめて個人的な営みであるにもかかわらず、しばしば社会問題の一つとして取り上げられます。近年、新聞やテレビなどで、未婚率が上がってきている(結婚率が下がってきている)とか、初めて結婚する年齢が上がってきているといった話を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。

 結婚が社会問題の一つとして捉えられる背景にあるのは少子化です。少子化が進むと、少数の現役世代が、多数の引退世代を支えなければならなくなるため、社会全体としては難しい問題を抱えることになります。実は、結婚している女性が持つ子どもの数は長年安定しているのですが、結婚する女性の数自体が減ってきているため、未婚率の上昇が少子化の大きな原因だと考えられています。

 もちろん、恋愛や結婚は個人的な営みですから、する/しないや、そのあり方について他人がとやかく口を挟む問題ではありません。しかし、恋愛や結婚の妨げとなるような経済的・制度的な要因があるのならば、それを取り除くことは、個人にとっても、社会全体にとっても望ましいと言えるでしょう。

 そういった意味で、恋愛と結婚は、個人の幸福にとってはもちろん、社会全体にとっても重要なイベントなのです。

 この章では、その恋愛と結婚について、三つの話題を取り扱います。

 一つめは、人はなぜ結婚するのかという問題についての考察です。近年、未婚率が上がってきている、初婚年齢が上がってきていると言われていますが、この背景を理解するには、「人はなぜ結婚するのか」という疑問に立ち返るのが近道です。近年の経済学研究では、人々が恋愛や結婚に何を求めているのか、かなり本音の部分まで明らかにしてきています。結婚の持つ経済的な側面と非経済的な側面の双方に注目し、結婚のメリット・デメリットに迫ります。

 二つめの話題は、結婚における「出会い」の場にまつわるものです。恋愛にせよ結婚にせよ、その前提としての出会いの場があるわけですが、時代とともにどう変わってきたのでしょうか。出会いの頻度が増えれば結婚の可能性も変わります。また、どういった場で出会うのかによって結婚相手も変わってくるでしょう。出会いの場が結婚にどんな影響を及ぼしているのか見ていきます。

 最後の三つめの話題は、誰と誰がカップルになっているのかというものです。結婚はする/しないだけでなく、それによりどのような家庭が築かれているのかという点も、私たちの社会のあり方を深く理解する上で不可欠です。世の中にはいろいろなカップルの組み合わせがありますが、その中でも多いのは、やはり「似た者同士」のカップルです。これはさまざまな国の統計でも確認されているのですが、なぜ、カップルには似た者同士が多いのでしょうか

 これら三つの話題は、経済学や他の社会科学分野で長らく研究対象とされてきましたが、近年その分析が飛躍的に進みました。その背景にあるのは恋愛・結婚のパートナーを探すマッチングサイトの隆盛です。プライバシーには十分配慮した上で、マッチングサイトの利用者データを分析することで、公的統計には決して表れない人々の本音や、出会いからカップル成立に至るまでの経緯を詳しく知ることができるようになったのです。

 まずは結婚に関する統計的事実を確認し、それから、これら三つの話題について、順に見ていくことにしましょう。

1 人々は結婚に何を求めているのか

男性の5人に1人、女性の10人に1人は「生涯独身」

 結婚しない人が増えてきている、とはよく耳にしますが、実際にはどの程度増えているのでしょうか。次の図表11は、総務省が行う国勢調査に基づいて作られた50歳時未婚率の推移を示しています。つい最近までは、この数字を「生涯未婚率」と呼んでいました。厳密に言えば、生涯未婚であるかどうかは、生涯を終えるまではわからないのですが、50歳以降に初めて結婚する人はかなり少ないため、50歳時点の未婚率を生涯未婚率とみなしたのです。

 戦後間もない1950年の50歳時未婚率はわずか15パーセントですから、当時はほとんどすべての人が結婚していました。男性の50歳時未婚率は、長年低いままでしたが、1990年頃、時代が平成に入るあたりから急速に上がり始め、2010年には20パーセントあまりに達しました。女性の50歳時未婚率は上下しつつも、2000年頃までは緩やかに上昇し、2010年には10パーセントほどに達しています。

 現代では、男性の5人に1人、女性の10人に1人は50歳時点で未婚ですから、たしかに非婚化が進んでいると言っていいでしょう。ちなみに50歳時未婚率で男女に大きな差があるのは、男性のほうが再婚する人が多いためです。厚生労働省の「第15回(2015年)出生動向基本調査」によると、「再婚男性と初婚女性」の組み合わせは、「再婚女性と初婚男性」の組み合わせの17倍にも上ります。

 男性は、自分の相手には結婚歴がなく、自分よりも若い女性を好む傾向がある一方、女性は相手の結婚歴や年齢をそれほど気にしないといった理由がこの背景として考えられます。

6割の女性が夫に家事・育児能力を求めている

 未婚率の上昇と並んで話題になるのは、初めて結婚する年齢(初婚年齢)の上昇、つまりは「晩婚化」についてです。図表12は、厚生労働省が作成した「人口動態統計」より、平均初婚年齢の推移を示しています。1950年には、女性の平均初婚年齢が230歳で、男性は、259歳でした。そこから次第に上昇し、2009年には、女性286歳、男性304歳へと、男女とも4歳以上、大幅に晩婚化が進んだことがわかります。

 なぜ非婚化・晩婚化が進んできたのでしょうか。この問いに答えるには、現代の日本社会において、人々は結婚に何を求めているのか、結婚にはどんなメリット・デメリットがあるのかを考えてみることが助けになります。

 もちろん、ほとんどの人は、結婚することの最大の理由を愛情だと考えているでしょう。前出の「第15回出生動向基本調査」によると、結婚相手の条件として重視するものに、男性の8割、女性の9割が「人柄」を挙げています。

 一方で、愛情だけでは結婚できない、あるいは結婚生活が長続きしないと考えている人も少なくないでしょう。結婚相手には「家事・育児の能力」を重視すると答えた男性は5割近くいる一方、相手の「経済力」を重視すると答えた女性は4割近くに上ります。

 興味深いことに、結婚相手の「家事・育児の能力」を重視すると答えた女性は6割近くに上り、男性にも家事・育児の能力が求められていることがわかります。さらに、自分の仕事を理解してくれることを重視すると答えた女性は5割近くで、結婚後も働き続けることを希望する女性が多いことを示すような結果になっています。

「マッチングサイト」で垣間見える人々の本音

 ここまでは公的統計に基づいて、人々は結婚に何を求めているのか探ってきました。ここからは少しおもむきを変えて、普段はなかなか明らかにならない、恋愛と結婚における人々の本音を垣間見ていきましょう。もちろん、人はなかなか本音を見せません。そこで社会科学の研究者たちが考えたやり方は、インターネット上で出会いの場を提供する「マッチングサイト」に注目するというものです。

 かつては「援助交際」のおんしようとみなされていたため、インターネットを通じた出会いには偏見がありました。そのため、マッチングサイトを通じてパートナーと出会ったことをおおっぴらに語る人は多くなかったかもしれませんが、最近はまじめな恋愛関係や、結婚に至るような付き合いを求める人のためのサイトも増えてきているようです。

 私が以前住んでいたアメリカとカナダでは、日本と比べてかなり早い時期から、まじめな出会いの場としてマッチングサイトが活用されていた印象があります。少なくとも、マッチングサイトの利用に抵抗を感じているような人はほとんど見かけませんでした。

 私の知人でもマッチングサイトを使っている人はたくさんいましたし、マッチングサイトを通じて結婚に至った同業の大学の先生も知っています。スタンフォード大学のポール・オイヤー教授は、自身のマッチングサイト利用経験をもとに『オンラインデートで学ぶ経済学』(2016年、NTT出版)という本を書いたほどです。

 周囲の若い人たちから聞く限り、日本でもマッチングサイトの利用に対する見方が肯定的になってきているように感じます。マッチングサイトは、日本においても結婚成立に重要な役割を果たすようになってきているのかもしれません。

自己申告のマッチングサイトはウソだらけ?

 アメリカなどに見られるマッチングサイトでは、利用者は年齢、人種、学歴、結婚歴、収入、身長、体重などを登録し、自分の写真もアップロードします。

 ただし、利用者のプロフィールはすべて自己申告で、真偽は定かではありません。ということは、みんな自分のことをよく見せようと身長や年齢はサバを読み、写真も「奇跡の一枚」を使うのではといった疑問がわいてきます。

 研究(*1によると、会ってすぐにバレるような極端な嘘をつくことはないようです。よくある小さな嘘は、体重を23キロ過少申告するとか、身長を12センチ高くするとか、年齢を12歳サバ読みするというものです。

 では、見ただけではすぐにわからないこと、たとえば「年収」はどうでしょうか。マッチングサイト「OKキューピッド」の運営ブログ(201076日)によると、年収10万ドル(約1000万円)を自称する人の数は、実際の人数の4倍にも上るそうです。

 外見に関する嘘は、会えばわかります。年収に関する嘘も、身につけているものや行きつけのレストランなどから大体のところは見抜けるかもしれません。そもそも、相手が多少サバを読んでいることを理解してマッチングサイトを使っているのであれば、利用者は必ずしも嘘に振りまわされているというわけではないのでしょう。

「美人とイケメン」の経済学

 好ましいことであるかは別として、恋愛のパートナー選びにおいては「容姿」も大きな要因となります。データ分析では、容姿も数値化しています。ある研究(*2では、100人の学生に写真を一つ一つ見せ、最低1点、最高10点で採点してもらい、その平均点を利用者の容姿の点数として分析に利用します。

 なかなか残酷なやり方に見えますが、写真以外の利用者情報は明かされません。容姿を採点する学生は、利用者とは別の町に住んでいるので、利用者のプライバシー保護については配慮されています。

 ちょっと話は脱線しますが、容姿の良し悪しが実社会でどのようなインパクトを持つのかという研究は、経済学分野ではしばしば行われています。ここで述べたものと同様の方法で容姿を点数化し、美男美女ほど収入が高くなる傾向を明らかにした研究(*3がその始まりです。

 この話をさらに推し進めて、美容整形によって美男美女になれば、高収入を得られるか検証した分析(*4まであります。それによると、美容整形をして高収入を得るというのはどうやらかなり難しいようです。高収入を得られるほどの美男美女というのはほんの一握りなのですが、美容整形によってその域まで達するのは難しいというのが理由だそうです。

第1章 結婚の経済学(2)

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