世界中の危険地帯を取材する、クレイジージャーニー裏日記
危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレスの、世界を股にかけたクレイジーな旅の記録。

第一章 ドラッグでつながる世界

キーワード

マリファナ(大麻)合法化……マリファナの使用を法律的に認めようとする動き。現在、マリファナは使用目的が医療用と娯楽用の2種に大別されている。世界的に全面解禁を求める声が多い。また、刑罰が執行されずに実質合法化された国も増えてきている。

メキシコ麻薬戦争……メキシコで2006年頃から続く、麻薬密売組織の連合体であるカルテルと政府との対立。もしくは、密売組織同士の抗争のこと。2016年だけで死者数が2万人を超えたとされ、シリアのような戦地以外では地上でもっとも危険な状況にあるという。

トランプ大統領……第45代アメリカ合衆国大統領。不動産王の億万長者として有名だったが大統領選挙では当初、泡沫候補と思われていた。選挙戦中や大統領就任後に過激な発言を繰り返し、世界中の注目の的になっている。ただし発言には一貫性がなく、その政治手腕を疑問視する声も多い。結婚相手の趣味は東欧系の美人で一貫している。

不法移民と壁……トランプ大統領の過激な発言に「不法移民を防ぐための壁を国境に建設する」「費用はメキシコ政府に払わせる」というのがある。この発言を受け、アメリカに入国する不法移民は駆け込み的に急増中で、壁もどうやら本当に建設されるという。

麻薬ビジネスの何が問題なのか?

薬物はそれ自体が健康に害をもたらし、強烈な依存症に陥る可能性がある。現在、世界で流通している麻薬を大別するとヘロイン、覚醒剤、マリファナになるだろう。このなかで、マリファナについて合法化を求める声が多く、カナダやオランダなどは実質的に合法化されている。問題なのは健康面だけではなく、違法な取引によって発生した利益が犯罪組織に流れていることである。それらのアングラマネーの一部はテロ組織にも流れており、間接的にだが多くの人を殺傷するための資金源ともなっているのだ。

1 ジャマイカ

マリファナ先進国ともいうべきジャマイカの実態を調査したい。そして、人々はどのようにマリファナと付き合っているのか。その生活実態もあわせて調べたい。

戦場以外でもっとも危ない場所

「いま興味のあることはなんですか?」

 2015年正月の特番放送後、当時、番組の演出だったTBSの横井雄一郎さんにこう聞かれた。局の11階にある社員食堂。その奥の喫煙席に陣取って遅めのランチを食べながらの、のちに慣例となる「次にどこ行くんですか?」ミーティングでのことだった。

「メキシコの麻薬戦争ですかね」

「聞いたことがあります」

「ニュースでもよく流れているじゃないですか。マフィアが見せしめでバラバラにした遺体が放置されるとか」

「そこって危なくないですか?」

「うーん、戦地以外では、地球上でもっとも危ない場所のひとつじゃないかと思います」

「テレビカメラが同行するのは難しいですかね?」

「あんなところに取材に行くのは、本当に〝クレイジー〟ですよ」

 いくら『クレイジージャーニー』といえども、麻薬戦争の取材は危険すぎるだろう──このときは笑って流したのだが、このミーティングをした頃から、約2年をかけてジャマイカ、アメリカ、メキシコをめぐる、マリファナ(大麻)合法化7と麻薬ビジネスの取材をスタートさせることができた。

 取材を通して見えてきた、世界を取り巻く麻薬ビジネスの現状をご紹介したい。

マリファナ合法化に向かう世界

 マリファナ合法化を取材するにあたって、まっさきに思い浮かべたのはジャマイカだった。ジャマイカには以前から興味があった。

 ジャマイカを象徴するものといえば、レゲエ音楽のボブ・マーリィ、陸上のウサイン・ボルト、そしてマリファナだろう。別にレゲエやマリファナを体験したいというわけではない。旅行好き、それもかなりヘヴィな体験をしてきた旅人たちが口を揃えて、「あの国はヤバい!」と言っていたからだ。

「なにがそんなにヤバいのさ?」

 当然ながら質問することになる。すると、「常識が通じない」とか「〝あり得ない〟が当たり前」だからだという。

 世界中を旅した連中が衝撃を受ける国。

 どんな場所なのか興味が尽きない。だが、行くべきタイミングが見つからない。いつ行こうかなと思いながら、現地に住んでいる友人とのやりとりを続けていた。

 あるとき、その友人とFacebookで連絡をとりあっていると、「ファーム(農場)とスラム街ぐらいなら行けるんじゃないか」という話になった。ちょうど同じタイミングでTBSの横井さんから「次、どこか行くとこ決まってますか?」と連絡が入っていた。さっそく折り返しで電話をかける。

「行きたいと思っている国はありますよ」

「どこですか?」

「ジャマイカです」

「それって……」

 自身も旅好きである横井さんは、当然のことながらジャマイカに行くことの意味にピンときたようだ。

「取材したら面白いと思うんですよね。ギャングの仕切るスラムとか、後はマリファナ農場がですね……ん? 聞いてます?」

「聞いてますけど、どうしてそんなところに行きたいんですか?」

『クレイジージャーニー』では、スラム街を中心にした取材を紹介していた。そこにいきなり「マリファナを栽培しているところを見に行きたい」と私が言い出したのだから、横井さんが面食らうのも無理はない。

「ジャマイカに行ってみたい。それだけですよ、理由なんて」

 細かく説明するのも面倒なので簡潔に言った。

「じゃあそこに、一緒に行ってもいいですか?」

(はぁ……また勝手なことを)。私は「別に構いませんけど」と返事をしつつ、ただ、見たことのないような場所に立つときのことを想像していた。いままでにない体験ができるはず。決して、確証があったわけではないが、そう思っていたのだ。

 私はこれまで、世界各地で麻薬ビジネスについて取材してきた。だからといって、麻薬を使うことをオススメしているわけではないし、ましてや自分自身で使用することもない。ただ、日本を含め世界中で麻薬が流通していること8は紛れもない現実だ。

「日本に暮らしていて、一度も大麻に触れずに30歳になるヤツっているのか?」

 ある売人にそんなことを言われたのが裏社会を取材してきて印象的だった。おそろしく若いうちからドラッグに魅かれる人がいる一方で、本当に存在しているのかわからないというほど全く縁のない人もいる。どこにでもあるようで、誰でも手に入れられるものではない。つまり、ドラッグを「商品」として捉えた場合、それを扱うビジネスは、ずいぶんといびつになるのではないかと思ったのだ。

 犯罪やアングラの世界を取材する者として、その実態を把握しておきたいと考えた。生産者、売人、消費者……麻薬に関わる様々な人々に接することで、いかにしてドラッグは「商品」として流通していくのか、これまで覆い隠されていた市場の姿がおぼろげながら見えてきた。

 ここ最近、世界で大きな変化が起きているのが、マリファナ市場だ。とくにアメリカでは、医療目的や嗜好品として使用する場合のマリファナ合法化が進められている。2012年、ワシントン州の住民投票で使用が合法化されたのを皮切りに、20141月にはコロラド州で娯楽目的のマリファナ使用が解禁されるなど、合法化の動きは全米に広がりつつある。

 2016118日、ドナルド・トランプが当選したアメリカ大統領選挙の投票日、マリファナの解禁を問う住民投票が多くの州で実施された。その結果、カリフォルニア州、ネバダ州などで認められることになり、西部の各州で軒並み合法9となった。これでアメリカ国内の完全合法化は時間の問題と思われたが、大統領となったトランプは、マリファナの合法化には慎重な姿勢を見せているため、再び先行きは読めなくなった。

 だが、これまでの流れが完全に断ち切られるわけではない。アメリカで進むマリファナ合法化の動きを追うことは、ドラッグビジネスで何が起きているのかを知ることにもつながるだろう。

 現在、麻薬は生産された国で消費されるという「地産地消」スタイルをとっていない。むしろ、輸出入を前提としたグローバルな商品となっている。ジャマイカやメキシコ、その他の中南米諸国、アフガニスタンなど別の大陸で生産された薬物の多くは、アメリカや中国のような大国に向けて輸出されている。もちろん違法であるから密貿易である。なぜ生産国の消費者ではなく、リスクを冒してまで外国へと運ぶのか。その理由は単純で、高く買ってくれるからである。金を出す人がいるから、そこに商品を届ける。商売の基本形にすぎない。

 生産、仕入れ、消費という三者の関係は、本章で扱っているジャマイカ、アメリカ、メキシコ3国の関係においてとくに顕著である。この3国を取り巻く状況を把握すれば、麻薬ビジネスと世界的に進むマリファナ合法化への動きが見えてくるだろう。そして、その流れに日本だけが例外的に巻き込まれないなど、あり得るはずもない。そんな厳しい現実も同時に見えてくるはずだ。

第一章 ドラッグでつながる世界(2)

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