根本的に考え、過激に行動する。この姿勢こそが、資本主義を救う鍵を握っている
自由な経済活動を原動力とする資本主義は経済成長をもたらし、私たちの暮らしを豊かにしてきた。一方で、近年は先進国を中心に世界経済が停滞し、広がる格差が社会の分断を招いている。

資本主義を救う「急進的な市場主義」という処方箋

安田洋祐(大阪大学准教授)

 自由な経済活動を原動力とする資本主義は経済成長をもたらし、私たちの暮らしを豊かにしてきた。一方で、近年は先進国を中心に世界経済が停滞し、広がる格差が社会の分断を招いている。深刻化する気候変動や世界的な金融危機によって、市場の失敗や資本主義の脆さも明らかになりつつある。今まで自明の存在として受け入れてきた資本主義という仕組みが揺らいでいるのではないか。こう疑念を抱く人も少なくないだろう。

 では、現代の経済が抱える困難を克服するためにはどうすればよいか。大半の経済学者は、資本主義の仕組みを修正することで、多くの問題を解決ないし軽減できると考える。適切な金融・財政政策の実施、再分配政策や金融規制の強化、炭素税の導入などを通じて、現状と比べてより望ましい経済状況が実現する公算は高い。他方で、こうした穏健的な対症療法は問題を先送りするだけで、せいぜい時間稼ぎにしかならないとする見方もある。資本主義から社会主義・計画経済への移行という原因療法を求める急進的な動きも広がっている。

『ラディカル・マーケット』は、穏健的な資本主義とも急進的な社会主義とも異なる新たな処方箋を提示する。題名に体現されている「急進的な市場主義」こそ、著者であるエリック・ポズナーとグレン・ワイルが見出した第三の道なのだ。市場はその存在自体が善というわけではなく、あくまで良質な競争をもたらすという機能を果たしてこそ評価されるべきだろう。うまく機能していないのであれば、市場を廃止する(=社会主義)のではなく、市場のルールを作り替える必要がある。今までのルールを前提に市場を礼賛する(=市場原理主義)のではなく、損なわれた市場の機能を回復するために、根本的なルール改革を目指さなければならない(=市場急進主義)。本書の立場は、このように整理できる。

 本書が提案するラディカルな改革は多岐にわたる。本論にあたる第一章から第五章において、私有財産、投票制度、移民管理、企業統治、データ所有について、現状および現行制度の問題点がそれぞれ整理され、著者たちの独創的な代替案が提示される。先端研究によってこうしたアイデアがきちんとフォローされている点は各章に通底しており、どの章もそれだけで一冊の研究書になってもおかしくないくらい内容が濃い。中でも、第一章「財産は独占である」は、資本主義の大前提を揺るがし思考の大転換を迫る中身となっている。以下では、その斬新な主張を紹介するとともに、評者自身の評価について述べたい。

 第一章では、財産の私的所有に改革の矛先が向けられる。私有財産は本質的に独占的であるため廃止されるべきである、と著者たちは主張する。言うまでもなく、財産権や所有権は資本主義を根本から支える制度のひとつだ。財産を排他的に利用する権利が所有者に認められているからこそ、売買や交換を通じた幅広い取引が可能になる。所有者が変わることによって、財産はより低い評価額の持ち主からより高い評価額の買い手へと渡っていくだろう(=配分効率性)。さらに、財産を使って得られる利益が所有者のものになるからこそ、財産を有効活用するインセンティブも生まれる(=投資効率性)。

 著者たちは、現状の私有財産制度は、投資効率性においては優れているものの配分効率性を大きく損なう仕組みであると警鐘を鳴らす。私的所有を認められた所有者は、その財産を「利用する権利」だけでなく、他者による所有を「排除する権利」まで持つため、あたかも独占者のように振る舞ってしまうからだ。この「独占問題」によって、経済的な価値を高めるような所有権の移転が阻まれてしまう危険性が生じる。一部の地主が土地を手放さない、あるいは売却価格を吊り上げようとすることによって、地域全体の新たな開発事業が一向に進まない、といった事態を想定すると分かりやすいだろう。

 代案として著者たちが提案するのは、「共同所有自己申告税」(COST)という独創的な課税制度だ。COSTは、1.資産評価額の自己申告、2.自己申告額に基づく資産課税、3.財産の共同所有、という三つの要素からなる。具体的には、次のような仕組みとなっている。

1.現在保有している財産の価格を自ら決める。

2.その価格に対して一定の税率分を課税する。

3.より高い価格の買い手が現れた場合には、

3─ⅰ.1.の金額が現在の所有者に対して支払われ、

3─ⅱ.その買い手へと所有権が自動的に移転する。

 仮に税率が一〇%だった場合に、COSTがどう機能するのかを想像してみよう。あなたが現在所有している土地の価格を五〇〇〇万円と申告すると、毎年政府に支払う税金はその一〇%の五〇〇万円となる。申告額は自分で決めることができるので、たとえば価格を四〇〇〇万円に引き下げれば、税金は一〇〇万円も安い四〇〇万円で済む。こう考えて、土地の評価額を過少申告したくなるかもしれない。しかし、もし四〇〇〇万円よりも高い価格を付ける買い手が現れた場合には、土地を手放さなければならない点に注意が必要だ。しかもその際に受け取ることができるのは、自分自身が設定した金額、つまり四〇〇〇万円に過ぎない。あなたの本当の土地評価額が五〇〇〇万円だったとすると、差し引き一〇〇〇万円も損をしてしまうのである。

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