精密な測定が人類の宇宙観を変える 「大規模構造」を図解!
私たちが住んでいる宇宙とは、一体いかなる存在なのか。実証的アプローチで迫る、宇宙138億年の真実。

第 1 章

宇宙の階層

11 私たちが住んでいるこの世界

まわりを見回すと

 最初から言うのもなんだが、いま読んでいるこの本から目を上げて、ちょっとまわりを見回してみよう。いま、読者は椅子の上に座ってこの本を読んでいるだろうか。あるいは、床に寝転がりながら読んでいるか、あるいは立って読んでいるかもしれない。部屋の中にいれば、四方には壁や窓などが見え、上下には天井や床が見える。その先には何があるだろう。

 その向こう側にはさらに部屋があるかもしれないが、ずっと行けばいずれは建物の外へ出る。そこは広い世界だ。上の方には空が広がり、下の方には地面が広がっている。もし、読者がいまカフェのテラス席など建物の外で読んでいるなら、最初からそんな光景を見ているだろう。

 まわりに建物が多ければ、隣のビルやアスファルトの道路などしか見えないかもしれない。街中でなければ、遠くには丘陵や山などが見えるかもしれない。いずれにしても、私たちのまわりには、日常的な世界が広がっている。

 そんな日常的な世界を飛び出してみることを考えよう。そこには何が広がっているだろうか。普段見慣れた世界のさらに遠くにあるものを想像してみよう。

私たちは地球にへばりついて生活している

 私たちは地球の上に住んでいるので、横方向へはいくらでも移動できる。電車に乗れば100キロメートルほど移動することもたいしたことではない。だが、上下方向へはなかなか大きく移動できない。飛行機に乗ったとしても、その高さは高くてせいぜい10キロメートルほどだ。

 つまり、私たちが経験できる範囲の世界の姿というのは、地球の表面上に限られている。地球の半径は約6400キロメートルであり、私たちはその表面上にへばりついて生活しているのだ。

 空には何が見えるだろう。昼間なら太陽や雲だが、晴れた夜には綺麗な夜空が広がっている。星の世界だ。私たちは星の世界に行くことができない。そこはあまりにも遠い場所で、地面にへばりついた私たちにできることは、地上から見上げてそこに思いを馳せることだけだ。

私たちはどんなところにいるのだろう

 都会ではあまりたくさんの星は見えないが、月明かりのない日に田舎へ行けば、視力のよい人なら4000個あまりの星を見ることができ、さらに天の川がぼんやりと広がって見える。都会に住んでいるとなかなか難しいが、満天の星を眺めて過ごす時間は素晴らしいものだ。

 そんな夜空に広がって見える天体の姿から、私たちの住んでいる地球の上だけが世界のすべてではないことを知る。空には、私たちに行くことのできない世界が広がっていることが一目瞭然だからだ。

 いったい、私たちの住んでいるこの世界とはどんなところなのだろう。私たちがへばりついて生活している世界は、宇宙全体の中でどんな位置にあるのだろう。

地球はそれほど大きくない

 宇宙は想像以上に広大だ。夜空を見上げて見える星々は、あまりにも遠すぎてその距離が実感できない。見た目からは、遠くに見える山とあまり変わらないように見えるだろう。このことから、昔の人は空がドーム状になっていると想像した。東京ドームを何万倍にも大きくしたイメージだ。

 そのドームの外には光が満ち溢れていて、夜空の星はそのドームに開いた小さな穴から漏れ出してくる光で、太陽はそのドームの下を周回しているのだと考えられたりした(図11)。見た目通り素朴に考えれば、こうした世界観に行き着くのは自然なことだろう。

 だが、この世界観はもちろん正しくなかった。視点が自分中心すぎたのだ。古代ギリシャ人はすでに地球が丸いことを知っていた。自然をよく観察しさえできれば、そのことを発見するのは難しくない。

 海のようにまわりに高いものがない場所へ出れば、私たちにも地球が丸いことが確かめられる。例えば、図12は千葉県銚子市から海越しに眺めた富士山の姿と、静岡県富士市から眺めた富士山の姿を並べたものだ。銚子市から海越しに眺めると、富士山の上部しか見えていない。海面が曲がっているため、下の方が見えないのだ。

 銚子市と富士山の距離は約200キロメートル弱であり、その距離で地球の曲がりが実感できるのだから、地球の大きさはそれほど莫大ではないことがわかる。実際、地球の半径は約6400キロメートルだ。飛行機に乗ればほぼ1日で一周できてしまうのだから、その意味では地球というのは小さなものだ。そう考えると、地球は大切にしたい。

12 星の世界

隣の星までの距離

 地球が丸いということは、宇宙空間にぽっかりと地球が浮かんでいることを意味する。その外側には広大な空間が広がっている。地球のまわりを月が回っているが、地球から月までの距離は約38万キロメートル。地球の半径と比べて約60倍のところを回っている。

 地球は太陽のまわりを公転しているが、地球から太陽までの距離はぐっと大きくなり、約15000万キロメートルにもなる。月よりも約400倍も遠くにある。さらに、太陽のまわりには地球以外の惑星が回っているが、最も遠くにある惑星の海王星は、太陽から約45億キロメートルもの距離を公転している。地球と太陽の距離の約30倍だ。

 このように太陽系自体が巨大なものだが、それでも隣の恒星までの距離となると、さらに莫大になる。太陽から一番近い恒星はプロキシマ・ケンタウリという星だが、そこまでの距離は約40兆キロメートル。海王星までの距離と比べて約9000倍も遠い。太陽の大きさは地球の110倍程度だが、太陽をソフトボールぐらいの大きさに縮めて日本のどこかに置いたとすると、プロキシマ・ケンタウリはタイ王国のあたりにあることになるのだ。

 夜空に見える明るい星の多くは、プロキシマ・ケンタウリよりも何十倍、何百倍の距離にある。夜空に明るく見える天体だけ見ても、そこまでの距離は莫大だ。だが、肉眼で見ることのできない暗い星の数はずっと多く、夜空に見えている星の数の比でない。

私たちが住む天の川銀河

 街明かりの届かない場所へ行って月の出ていない暗い夜空を見上げると、目が慣れるにしたがって天の川が見えてくる。薄ぼんやりと光る光の連なりだ。その幻想的な姿は、いろいろな想像を呼び起こす。織姫と彦星が天の川を挟んだところへ引き離されて、1年に1度だけ会うことを許されているという七夕伝説。天の川に沿った銀河鉄道に乗って旅をするジョバンニの物語である、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。

 実際に読者も空いっぱいに広がる天の川を眼前にすれば、いろいろな想像が頭の中を駆け巡るだろう。満天に天の川がかかっている様子を見ると、宇宙の神秘に思いを馳せずにはいられない。

 天の川というのは、個別には見えないほど暗い星がたくさん集まって見えている姿だ。一つだけでは肉眼で見えなくても、似たような方向にいくつも星が重なっていると、肉眼でもぼんやりと光って見えるのだ。地球から見ると川のように細長く見えるが、天の川は全体として円盤状をしている。それが天の川銀河であり、太陽もその中に含まれている(図13)。

 天の川銀河の中心部には「バルジ」と呼ばれる星の密集した領域があり、その形は細長い棒状をしていると考えられている。また、バルジからはいくつかの腕が渦巻き状に伸びていて、円盤には渦巻き模様が見られる。

 天の川銀河は数千億個もの星の集まりだ。大型望遠鏡でも見えないほど暗い星が大量にあるので、星の正確な数ははっきりしていない。天の川銀河の円盤の大きさは差し渡し10万光年ほどにもなる。1光年は、光の速さが1年かけて到達する距離で、約10兆キロメートルに相当する。その10万倍の大きさが天の川銀河の大きさだ。

 ちなみに、太陽に一番近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリまでの距離を光年で表すと約42光年ほどである。それもかなりの距離だが、天の川銀河の大きさはもっともっと巨大であることが少しでも実感できるだろうか。

13 近くにある別の銀河

大マゼラン雲と小マゼラン雲

 天の川銀河は宇宙に無数に存在する銀河のひとつだ。天の川銀河の隣ともいえる場所には大マゼラン雲と小マゼラン雲という小さめの銀河があり、地球から見てそれぞれ約16万光年と約20万光年の距離にある。天の川銀河の大きさが10万光年であることを考えれば、ほとんど天の川に寄り添うように存在している(図14)。

 2つのマゼラン雲は、天の川銀河のように整った形をしておらず、不規則な形をしている。大きさは天の川銀河よりだいぶ小さく、大マゼラン雲は差し渡し14000光年ほど、小マゼラン雲は差し渡し7000光年ほどだ。天の川銀河と比べると1割前後の大きさにすぎない。

 2つのマゼラン雲は天の川銀河を周回しているのではないかと考えられていたが、最近の観測ではマゼラン雲の速度は当初考えられていたよりも大きいことがわかってきた。このため、将来は天の川銀河から遠ざかっていく可能性がある。

天の川銀河のまわりにある矮小銀河

 天の川銀河のそばには、マゼラン雲のほかにも小さな銀河がいくつもあり、天の川を取り巻くように存在している。これらは天の川銀河よりもかなり小さいため、矮小銀河と呼ばれている。図15は、天の川銀河を中心として、半径40万光年ほどの範囲に見つかっている矮小銀河の立体的な場所を表している。

 これら天の川銀河の近くにある矮小銀河のほとんどは、天の川銀河の重力によって、天の川銀河からあまり遠くへ行くことなく付近を動き回っている。

 このように、重力によって逃れられないことを、「重力的に束縛されている」という。先ほどのマゼラン雲については例外的で、天の川銀河へ重力的に束縛されていない可能性がある。

近くにある大きな銀河、アンドロメダ銀河

 天の川銀河よりも大きな銀河で、天の川銀河の一番近くにあるのがアンドロメダ銀河(図16)だ。アンドロメダ銀河はマゼラン雲よりも10倍以上遠くにあり、地球からの距離は約250万光年ほどだ。

 アンドロメダ銀河は、天の川銀河と同様に円盤状をしていて渦巻き模様を持っている。その大きさは差し渡し約22万光年ほどであり、天の川銀河よりも大きい。その中には1兆個ほどの星が含まれている。

 アンドロメダ銀河は、天の川銀河と同様に「渦巻銀河」と呼ばれる種類の銀河だ。だが、まったく同じ形をしているわけではない。天の川銀河のバルジ部分は細長い棒状の形をしているが、アンドロメダ銀河のバルジはもっと丸く、そのような棒状の形はしていない。同じ渦巻銀河と言っても、細かな部分ではだいぶ違いがあるのだ。

 アンドロメダ銀河と天の川銀河はお互いに近づきつつあり、このままいけば約40億年後には衝突すると言われている。星は銀河中にかなりまばらにしか存在していないため、このときに星同士が衝突することはない。だが、2つの銀河が衝突すれば、それらの形は大きく変形し、いずれは一体化して一つの大きな銀河になると考えられている。

14 銀河の集団

私たちは局所銀河群の中にいる

 天の川銀河のまわりには、マゼラン雲やアンドロメダ銀河のほかに多数の矮小銀河が立体的に分布している。そうした銀河は50個以上あり、それらが分布している領域の大きさは差し渡し1000万光年ほどだ。これらの銀河をまとめて「局所銀河群」(図17)と呼ぶ。

 局所銀河群の中で最も大きな銀河がアンドロメダ銀河で、その次に大きいのが天の川銀河、3番目に大きいのがアンドロメダ銀河のそばにあるさんかく座銀河だ。局所銀河群の重心は天の川銀河とアンドロメダ銀河の間あたりにある。

 局所銀河群は重力的に束縛されているので、この銀河の集団をひとまとまりの天体と考えることが可能だ。今から1000億年後から1兆年後までに、これらの銀河は合体してひとつの大きな銀河になってしまうと考えられている。

 一般に、銀河の数が50個程度かそれ以下の銀河の集団を銀河群と呼び、局所銀河群はその一つである。銀河群は銀河の集まりとしては最小の単位であり、それより大きい銀河の集団は銀河団と呼ばれる。

おとめ座銀河団

 私たちの天の川銀河は局所銀河群に属しているが、特定の銀河団には属していない。私たちの一番近くにある銀河団は、地球から見ておとめ座方向にあるおとめ座銀河団(図18)だ。おとめ座銀河団は約13002000個ほどの銀河の集団であり、大きさは差し渡し1500万光年ほどだ。その中心は地球から5400万光年ほど離れたところにある。

 おとめ座銀河団には、天の川銀河やアンドロメダ銀河のような形をした円盤構造を持つ渦巻銀河と、楕円形をした円盤構造を持たない楕円銀河が、混ざって存在している。渦巻銀河よりも楕円銀河の方が中心部に集まって存在する傾向にある。中心近くにはM87という巨大な楕円銀河が存在している。

 おとめ座銀河団も重力的に束縛された集まりであり、ひとまとまりの天体と見なすことができる。おとめ座銀河団の全体にわたって、3000万度ほどの温度を持つガスがプラズマ状態になって存在し、X線を放っている。また、銀河団の中には、特定の銀河に属さない星も存在している。

 一般に、銀河団は数十個程度から数千個程度の銀河の集まりであり、大きさは数百万光年から数千万光年ほどである。それより大きな銀河の集団は超銀河団と呼ばれる。

おとめ座超銀河団、グレート・アトラクター、ラニアケア超銀河団

 私たちが住んでいる局所銀河群は、おとめ座超銀河団と呼ばれる超銀河団の一部をなしている。おとめ座超銀河団はおとめ座銀河団と紛らわしい名前だが、前者は超銀河団、後者は銀河団なので注意してほしい。おとめ座超銀河団は、銀河団や銀河群を100個以上含んでいる。おとめ座銀河団はおとめ座超銀河団の最も大きなメンバーである。おとめ座超銀河団の大きさは差し渡し1億光年ほどある。

 ただし、超銀河団は銀河の集団ではあるのだが、重力的に束縛された天体とは言えない。そのつながりは緩やかなもので、約1億光年よりも大きなスケールで比較的銀河が密集しているところを超銀河団と呼んでいるのだ。

 地球から見ると天の川に隠されている方向に、グレート・アトラクターと呼ばれる天体がある。そこに何があるか見えにくいものの、グレート・アトラクターにはまわりの銀河が重力によって引き寄せられているため、そこに大きな重力源があるとわかるのだ。グレート・アトラクターは地球から2億光年ほどの場所にあり、じょうぎ座銀河団という銀河団を中心とする場所にあるようだ。

 グレート・アトラクターを中心として、おとめ座超銀河団や付近にあるいくつかの超銀河団や銀河団などをまとめて、ラニアケア超銀河団という名前で呼ぶことが提案されている。この名称が定着すれば、おとめ座超銀河団はラニアケア超銀河団の部分的な構造に成り下がる。そして、天の川銀河や局所銀河群はラニアケア超銀河団に属する天体ということになる。

第2章 大規模構造の発見(1)

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