終わらないトランプ支持 4年半の取材、アメリカ1005人の声
現地発。次もトランプなのか?

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新たなブラック・マンデー

写真:「アメリカ製を買い,アメリカ人を雇おう」などのプラカードを掲げる支持者たち(2017年7月,オハイオ州ヤングスタウン)

 「トランプに勝ち目なし」と笑われていた支持者にとって、2016年大統領選は痛快そのものだった。勝利から2カ月半後、私は、ラストベルトから就任式に向かう支持者の車に同乗し、アパラチア山地を越えて首都ワシントンに向かった。

 トランプが就任半年の節目にラストベルトで開いた「凱旋集会」にも支持者と参加した。トランプは「仕事は戻る、家を売るな」と演説し、街を去るべきか長く迷ってきた支持者を熱狂させた。

 ただ、就任2年を迎えようとする頃には「もう二度と投票しない」という声も聞こえ始めた。地域の雇用ピラミッドの頂点に君臨してきた米自動車大手、ゼネラル・モーターズの工場の生産停止も決まり、動揺も始まりそうだ。当選から2年間の「労働者の街」を伝える。

1 就任式(プロローグから続く)

支持者「移民は同化して当然だ」

 就任式の会場に集まった人々の声を聞いてみよう。

 「いやあ、素晴らしい演説だったね」

 カウボーイハットのリチャード・ジャガニー(74)は大満足という笑顔だった。

 「特に我々のような庶民をアメリカの経済や政治のシステムの中に戻すというメッセージが気に入った。ワシントンに巣くう既得権の勢力を一掃するという意味だ。いまシステムの中にいる連中を追い出してくれることに期待しているよ」

 リチャードはメリーランド州で30年間「スモールビジネス」を経営してきた。郵便物に小さな広告ステッカーを貼る商売。元々共和党員だが、政治に興味があるわけではなかったので就任式に来ることなど一度もなかった。せいぜいテレビで見るぐらいだったが、トランプの就任式となると「話は別だ」という。「どんなに渋滞に巻き込まれようが、長蛇の列に並ばされようが、今回は価値があると思った。トランプのような指導者の誕生を長く待っていた。彼はこの国を大きく変えるだろう。エリートが庶民に指図をする国から、庶民が中心にいる国への変化だ。自分がエリートだと思っている連中は、私よりも「私のお金」の使い道を知っていると思っているが、そんなことはない。私だって知っている。税率が下がれば、私はその分を寄付に回すことができる。私は自分で寄付を受け取るのに値する、ふさわしい人や団体を選ぶ」

 政策的には「メキシコ国境の壁」を支持しているという。「移民には賛成だが、それらは合法であるべきだ。当然だろ? でもあまりに長く放置(軽視)されてきた。アメリカに移り住むのであれば、彼らの文化を(アメリカに)持ち込むのでなく、我々の文化に同化する覚悟を持つべきだ。アメリカは「メルティング・ポット(人種の坩堝)」であり続ける必要がある。これまではそうだった。メルティング・ポットとは同化であり、「あなたはあなたの文化を維持し、私は私の文化に残る」ではない。自国の文化がそんなに偉大と思うなら、なぜその国を出てきた? 出身国に戻ればいいじゃないか」

 そう言ってリチャードは「そうさ、オレはカントリー・ボーイさ」と付け加えて、笑った。私には、言いたいことをズバッと言ってやった、という趣旨に聞こえた。

写真:「移住するなら同化せよ」と話したリチャード・ジャガニー(2017年1月,首都ワシントン)

 メルティング・ポットとは一般的に、アメリカという移民国家で、人々が民族や宗教の違いを超えて溶け合い、新しい「アメリカ人」や「アメリカ文化」ができるという意味で使われる。これに対し、1960年代ごろから「サラダボウル」という表現が使われることが増えた。こちらは、移民たちはアメリカ流の暮らし方を受け入れながらも、それぞれの出身国の文化や習慣も維持し、ニンジン、レタス、トマトとして溶けずに共存しているという趣旨だ。

決め手は「実行力とイスラエル擁護」

 「私は最初っからトランプ支持者よ」

 そう胸を張ったのはミズーリ州ブランソン(Branson)から来ていたインテリア・デザイナーのサラ・サクマン(62)。傍らには医師の夫ランドルが付き添っていた。

写真:就任式に参加した支持者のサラ・サクマン(右)とランドル夫妻

 「私は合衆国憲法の強固な支持者。アメリカが年々、軍隊と警察、法と秩序に敬意を払わなくなっていることに憤ってきた。トランプ大統領がそれらを取り戻してくれると信じている。法と秩序、軍隊と警察への敬意を取り戻すことができれば、国を取り戻せるのです」

 保守派の定型になっているような発言だった。「法と秩序(の回復)」は共和党大統領ニクソンが、ベトナム反戦運動や公民権運動で価値観が揺さぶられる中、1968年大統領選で多用したフレーズだ。もう少し考えを聞いてみよう。「私は厳格な保守主義者。憲法の精神、つまり個人の自由と責任を取り戻す必要があると考えている。学校教育からリベラル派を排除し、ポリティカル・コレクトネスも取り除き、個人が自由にお金を稼げるようにするべきです」

 「オバマ時代の8年間は「抵抗の時代」だった。地元でティーパーティー(茶会)の事務所を運営し、帰還兵やバイク愛好家が立ち寄る場になった。夫は私が過去8年間、彼の病院の建物で活動に打ち込むのを許してくれた。大勢の人々が事務所に出入りして、(リベラルな)テレビ番組に向かって叫んだり、車のバンパー用ステッカーを作ったりして活動してきた。おかげでトランプが圧勝した。あなたにもステッカーをあげるわね」

 後ほど選挙結果を確認すると、確かにミズーリ州ブランソンがあるタイニー(Taney)郡では、トランプが78%を得票し、民主党候補ヒラリー・クリントン(得票率19%)を圧倒していた。

 傍らでインタビューを聞いていた夫ランドルも支持理由を二つ語った。

 「彼はニューヨークのスケート場の工事が難航した際、問題を解決した。高層ビルをいくつも建ててきた。これは理屈じゃない。銀行と交渉し、資金繰りにめどをつけ、ビルを建てた。口先だけの政治家にはできない。政府をビジネスのように運営してほしい。彼の子どもたちもクラッシー(おしゃれ、エレガントの意)だ。子育ても完璧にやった。この実行力に期待している」「彼のイスラエル擁護の姿勢も支持する。選挙中、イスラエルにあるアメリカ大使館を(テルアビブから)エルサレムに移転すると明言した。素晴らしい。国連でも(多くの国から批判される)イスラエルを守り抜くと約束した。民主党はイスラエルをずっと裏切ってきましたから」

 夫の言葉を聞いて、サラも加勢した。

 「オバマは何度もイスラエル、(首相の)ネタニヤフを裏切った。イスラエルは日々、脅威に直面している。いったいアラブはどれだけの土地があれば十分なの? アラブは中東全域に土地を持っているのだから、イスラエルにも持たせてあげなさいよ。祝福よ。神がイスラエルに与えた土地よ。私たちは娘を連れて何度もイスラエルに行ったわ」

 トランプは就任後、在イスラエルのアメリカ大使館をエルサレムに移転した。国際社会からの非難など、気にする様子もなかった。「実行力」と「イスラエル擁護」。サラとランドルは大喜びしていることだろう。

「ビジネス界は大喜び」

 若いカップルにも声をかけてみた。そろって「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(アメリカを再び偉大にしよう)」のロゴが入った野球帽をかぶっていた2人だ。金融機関で働くジョン・マレッツが「ワシントンのダウンタウンで暮らす少数派です」と自己紹介した。首都ワシントンでトランプの得票率は、わずか4%。その意味で少数派というわけだ。

 「経済的に見れば、アメリカは今後よくなる一方だ。8年間の民主党オバマ政権で、ビジネスは痛めつけられた。規制が過剰だった。実業家トランプは経済成長の価値を理解している。成長の足かせになってきた規制を撤廃し、大幅な減税を実行し、富を生み、雇用を生み出すだろう。私は最も規制の影響を受けた金融業界にいるので、苦しい8年間を過ごしてきた。この日を喜んでいるのは私だけではない。勤務先で企業融資を担当しているので、トランプ当選後のビジネス界の興奮をこの目で見てきた。ビジネス界は大喜びだ。投資意欲満々。いつでも発射準備ができている」

写真:「ビジネス界は大喜びだ」と金融業界で働くジョン・マレッツ(左)
第1章 新たなブラック・マンデー(2)

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