社会保障には様々な表情があります。社会保障と聞いて、まず思い浮かべることはどのようなことでしょうか。働き盛りの現役世代なら毎月の給与明細に記されている健康保険料や厚生年金保険料の額、転職をしたり求職中の人ならハローワーク、失業給付、職業訓練、…
為政者が困窮する民を救うという行為は、古今東西、太古の昔から行われてきました。日本でも正倉院に残された古文書の中に、6世紀、飢饉に際して老人や寡婦、障害者などに朝廷が食料を配ったという詳細な記録(どんな基準で誰にどれくらい配ったかまで書いてあ…
しかし、社会保障をきちんと理解するためには、壮大な制度の体系さえ頭に入れておけばよいということではありません。それは、いわば入口に過ぎません。制度を知らないと何も始まりませんが、制度が分かったからといって社会保障が理解できるわけではありません…
もう一つ指摘しておきたいのは、教育の問題です。別に文科省を批判するつもりもないのですが、日本の公教育では、社会保障について、それがなぜ社会にとって必要欠くべからざるものであるのか、きちんと教えていないように思います。もっと言えば、社会保障が依…
この章では、社会保障の制度を支える基本的な哲学について解説を試みます。その前提として、まず社会保障制度について教科書的に説明しておきます。日本の社会保障制度は、国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネットであると定義されています。具…
本書でもすでに繰り返し使っていますが、「セーフティネット」という言葉があります。セーフティネットというのは、空中ブランコの下に張ってあるネットのことです。一般には、失敗して落下しても怪我をしないようにするためにあると理解されています。つまり、…
この章では、日本の社会保障の発展の歴史を振り返ります。その前提として、最初に我が国の社会保障制度の特徴を教科書的に簡単に整理しておきます。第一の特徴は、国民皆保険、皆年金体制であることです。これは世界に類例のあまりない体制であると言えます。そ…
敗戦後まもない時期で、所得格差が広がっておらず、非正規社員がほとんどいない終身雇用と完全雇用という盤石な雇用状況に後押しされて、皆保険、皆年金という世界に冠たる制度をつくることができたことは、前述のとおりです。しかし、制度はつくって終わり、で…
この章の最後に、日本の社会保障制度が国際的にどう評価されているか、少しだけ述べておきたいと思います。日本の社会保障が曲がり角に差し掛かっているのは事実です。ですが、我が国が実現してきた社会保障制度、特に医療や介護(長期ケア)の制度に対する国際…
前章で見てきたとおり、社会保障は経済や財政と密接不可分の関係にあります。そのため、社会保障の制度改革について考えたり、議論したりする場合は、前提として、日本という社会の実態を正しく把握し、事実認識と問題意識を共有しなければなりません。まず、知…
ではどうするか。端的に言えば、支え手=働く人を増やす、総人口に占める労働力人口の割合を増やす──増やせないまでもせめて低下させずに維持する──しかありません。とにかく、働いている人を増やす。働けるうちは高齢者にも働いてもらう、より多くの女性が…
少子高齢化は経済にも大きな影響を与えます。人口が減少すると消費も減ります。労働力も減るため供給も減る。なので経済が縮んでいく。それが普通です。しかし、(1)の冒頭でも述べたように、人口減少の中でGDPを下げないようにみんなで頑張って生産性を上…
フランスの経済学者ピケティの著書『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)が世界的ベストセラーになりました。その中で、ピケティは、長い歴史を見れば、資本主義社会ではr(資本収益率)>g(経済成長率)という式が成立している。だから、黙って放っ…
前章まで、日本の社会、日本の経済が大きく変わってきていることを見てきました。この章では少し視点を変えて、マクロ経済と社会保障の接点について見ていきます。結論を先に言うと、社会保障は「単なる負担」ではなく、経済成長のエンジンたりうる、ということ…
この節では、社会保障と国家財政の関係について考えます。その前に、そもそもの大前提として、この国の財政が一体どういう状況にあるのか。その実態についての認識を共有しておく必要があります。皆さんご承知のこととは思いますが、我が国の財政は巨額の赤字を…
借金の返し方にはもう一つの選択肢があります。経済成長です。成長すれば増税しなくても自然増収が出る。それで返せばいい、ということです。たしかにそうかもしれません。でも、この話には大事なポイントがあります。借金が大きくなりすぎると、本当に返せなく…
ここまでは、社会保障は社会の安定を基底から支えていること、マクロ経済や国家財政と密接な関係にあること、巨大化した今日の日本の社会保障は負担であると同時に経済成長のエンジンたり得ることなどを見てきました。その上で、歳出が歳入を大きく上回る状況が…
私たちの社会が抱えている問題は、端的に言えば不安だと指摘しました。では、その不安はどこからやってきているのでしょう。何が原因で不安は生じているのでしょうか。不安の背景、不安の原因について考えてみましょう。不安の背景には変化があります。第4章で…
現代社会は、日本だけではなく世界を見渡しても、大きな転換期に入っていると思います。これからももっといろんなことが変わっていくでしょう。転換期だということを認識して、国家も企業も、そして個人も、戦略や施策、生き方を考えなければならないということ…
第Ⅲ部のテーマは、日本社会のために社会保障に何ができるか、社会保障はこの国の発展のためにどんな貢献ができるか、ということでした。キーワードは、「安心と成長の両立」ということだろう、と思います。そのためには、経済と社会保障を対立的に考えないこと…
これも繰り返しになりますが、私たちは将来世代に非常に大きなツケ回しをしてしまったことを忘れてはなりません。GDPの2倍以上、1100兆円もの借金を子ども世代にツケ回しています。そこを考えると、成長戦略にせよ景気対策にせよ、やたらと金をばらまけ…
物理や数学の解答とは違い、社会的な問題の答は一つではありません。答はいくつもあり、正解が一つというわけではありません。つまり、選択肢はいくつもあるということです。行政官は、やらなければならないことがあり、実現の方法に選択肢がいくつかある場合に…
次に社会保障にできること、為すべきことは、少子高齢化・人口減少社会を乗り切ることができる、持続可能な社会をつくることです。これはいうべくしてなかなか難しいことです。なぜなら、社会保障に限らず、およそ資本主義社会のすべてのシステムは、経済が成長…
この国と国民のために社会保障ができることの三つめは、社会保障が自らを変革・改革することです。社会が変わったのですから、社会保障も変わらないと持続できない、ということです。もちろん、社会の構造が変化しても、民生の安定や社会の発展を支える社会保障…
最後に、付章として、本文では必ずしも十分指摘することのできなかった制度改革の各論に関する事項について、いくつかの提言を示します。家族政策・子ども政策については、本文で多くを語ったので、ここでは年金と医療・介護について述べることとします。読者の…
一人ひとりの生活保障という意味からも、社会保障制度の持続可能性という意味からも、現役世代の安定的で良質な雇用を保障することは重要課題です。若年雇用対策と女性の就労継続支援はぜひとも必要です。人口減少が始まり、労働人口の確保が優先課題である現在…
第Ⅱ部で見てきたとおり、日本は世界でもっとも高齢化が進んだ社会です。人口の25%を超え30%が65歳以上になろうという国は、日本の他にどこにもありません。高齢化に対応して、医療、福祉、介護のサービス保障のあり方にも改革が必要です。年金と、医療…
①人的資源の確保医療や介護、福祉の人材確保とインフラの整備も重要課題です。医療、介護、福祉は専門職によって成立しています。サービスを増やすにはそれに見合った人材を確保しなければなりません。しかし、一方で労働人口は減少します。これまで通りの人材…
最後まで難しい話にお付き合いいただいてありがとうございました。この本は自分が霞が関の公務員として36年余仕事をしてきた中で感じたこと、考えたことを整理したものです。言うまでもありませんが、私の親元だった役所の意見でもありませんし、もちろん政府…
新書などできるだけ入手しやすいもの、あまり専門的に過ぎず一般教養書に近い内容のものを中心に順不同で選びました。冒頭に掲げた『平成24年版厚生労働白書』は、(自分で言うのも何ですが)社会保障の歴史や基本哲学、今日的課題について体系的にかつとても…
著者紹介香取照幸(かとり・てるゆき)1956(昭和31)年、東京都出身。東京大学法学部卒業。1980年厚生省(現厚生労働省)入省。1982年在フランスOECD(経済協力開発機構)事務局研究員、1990年埼玉県生活福祉部老人福祉課長、1996年…
教養としての社会保障電子版発行日 2017年6月1日 Ver. 1.0著 者  香取照幸発行者  山縣裕一郎発行所  東洋経済新報社〒103-8345東京都中央区日本橋本石町1-2-1電話 東洋経済コールセンター03(5605)7021htt…

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