マウンドは江夏のためにあった——野球短編の傑作12選
名作再び。早世した作家による野球短編だけを集めた、新しい傑作選。

〈ゲンさん〉の甲子園

1985(昭和60)年

「ここは、あの電信柱からこっちが三塁打だったかな」

 真っ白いワイシャツを着て、プロテクターをつけたチーフ・アンパイアが右手で左中間のあたりを指しながらネット裏に歩み寄ってきた。

「そうや。センターの左に電柱あるやろ。あの二本目から右、それから右中間の電柱ね、あれから左が三塁打。それ以外はツーベースやね」

 答えたのは、このグラウンドで何度も試合をしている地元の高校の先生だった。

 丘を切りひらいたところに広いグラウンドがある。小高い丘だから遠くに甲賀の山並みが見えている。野球をするには十分すぎるくらいの広さだ。ただし、フェンスはない。外野手のあいだを抜けたヒットはどこまでも転がっていってしまう。ちゃん…

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