マウンドは江夏のためにあった——野球短編の傑作12選
名作再び。早世した作家による野球短編だけを集めた、新しい傑作選。

2章 スローカーブを、もう一球

スローカーブを、もう一球

1981(昭和56)年

 三塁側のスタンドが狂ったように騒ぎ始めたのは、9回の裏になって先頭バッターがショートのエラーで出塁し、次のバッターが一、二塁間を抜いて最後のチャンスがやってきたからだろう。

 マウンド上の川端俊介は、三塁側の応援をうるさいなと感じながらも、同時に、敵地にのりこんで試合をする場合の〝心得〟を思い出していた。《応援はすべからく自分に向けられていると思え》──それを思い出せるんだからまだ自分はかなり冷静だなと思い、勝ちを急ぎすぎたことを少しばかり反省した。

 グラウンドは茨城県の水戸市民球場である。三塁側に陣取って最後の攻撃をしているのは地元、茨城県の日立工業高校だった。得点は20と、群馬県からやっ…

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