霊長類最強・吉田沙保里が語る「隙とタイミング」
“オグシオ”潮田は、自らを取り巻く空間をどのように把握するのか? 北京五輪出場の選手をはじめ16人のアスリートに、アフォーダンス理論の生態心理学者がインタビューする。

エリア

【Area】

身体の延長しているところ、一瞬で知覚する広さ

Reiko Shiota○Badminton

Hiroshi Nanami○Football

Koji Matsushita○Table Tennis

速度差が200㎞もあるシャトルへの対応

潮田玲子

バドミントン

空間を20分割して、シャトルを打つ!

○しおたれいこ

1983930日福岡県生まれ。

高校2年で全日本ジュニア・シングルス優勝。

小椋久美子とペアを組み

'04年全日本総合ダブルス優勝、'07年に4連覇。

'05年ヨネックスオープンジャパンダブルス3位、

デンマークオープンダブルス優勝。

'08年北京五輪出場。

三洋電機㈱所属

Reiko Shiota

Badminton

佐々木 バドミントンを始めたのは何歳ですか。

潮田 6歳からです。

佐々木 バドミントンのシャトルは、一流の女子選手のスマッシュだと初速が時速250㎞。8m飛んでレシーブ時には時速50㎞に減速すると言われてます。その間わずか03秒。この独特な動きに慣れて、さらに自分は人とは違うようにシャトルを扱えるようだと感じたのは何歳くらいですか。

潮田 小学校3年、始めて4年めぐらいです。自分では普通に打っているのに相手が捕れないとか、普通にやって勝てる感覚がありましたね。小学校56年からコート全面を使って試合をするようになったのですが、そこで初めて四隅を狙ったり、クロスの球を覚えたりしました。

佐々木 シャトルのコントロールはどのように練習するのですか。

潮田 買い物カゴを隅やネット前に置いて、いろんな球種で入れる練習です。これは基本です。

佐々木 どれくらいの球種を打ち分けるのですか。

潮田 うーん、難しいですね。大きく言えば上から打つのは「クリア」「スマッシュ」「カット」「ドロップ」の4種類ですが、「カット」と「スマッシュ」の間とか「ハイクリア1)」「ドリブンクリア2)」とか。横から見た軌道だけをとれば45種類ですけど、3次元の世界だから100くらいあると思います。

佐々木 どこでそのたくさんの違いをつくるのですか。

潮田 ラケット面の工夫でコースを変えます。高さは打点の位置、緩急は力の入れ具合です。肩ではなく前腕ですね。

佐々木 手首はどうですか。

潮田 下に叩きつける、角度をつけるときは手首を入れるし、固定してそのままポンと出したりもします。

佐々木 球種、軌道、速度は、どの時点で決めているのですか。

潮田 球を追っている視界に相手も見えますから、打つ瞬間に変えます。そこでフェイントを入れたりもします。相手にラケットの面を読ませない選手は強いです。自分がレシーブする場合は、相手のラケット面は全部見えないけれど、だいたい予測がつきますね。相手の全身を見ていて、動き、身体の入れ方、打つ場所から予測してこのあたりに打ってくるだろうというのがわかるんです。

佐々木 そうした予測が裏切られるような意外な球は1試合でどれくらい来ますか。

潮田 思ったよりスマッシュが速くて捕れないことはありますが、「ええっ?」と思うようなことはほとんどありません。12回くらいですかね。そういう意外性の球というのはエース球というんですが、これがある人は凄く強い。

2人で一つの意図を共有する

佐々木 ただ強い球を打つのではなく、シャトルを操って相手の動きもコントロールするわけですね。何手先まで考えてますか。

潮田 特にダブルスはサーブ回り、4球めまでがとても大切です。サーブ、相手からの返球、これを打って戻ってくるまでがサーブ回り。強いダブルスはその4球でラリーをせずに勝てるんですよ。

佐々木 どんなサーブがいいんですか。

潮田 ダブルスの場合、ネットすれすれでシュッと落ちるサーブがいいです。後ろを狙うのであればラインぎりぎりのところです。浮いちゃうとダメなんですよ。ちょっとでも浮くとバチッとプッシュされちゃうんです。

佐々木 サーブからの数球には決まったパターンがある?

潮田 あります。でもラリーに入ったときには作戦というかパターンはないんですよね。相手によって球も違うし、たくさんのパターンに対応できないとダメです。

佐々木 ラリー中は声掛けはしますか。

潮田 「捕って、捕って」「前、前」とかはありますが、ほとんどしません。そんな余裕がないですから。2人の呼吸が大事です。

佐々木 ペアのパートナーがあそこに返してくれればよかったのに、というのはありますか。

潮田 あります、あります。そういうときはプレーが切れたときに話すんです。まったく同じというのはないですが、似たような局面に何度もなりますから。「じゃあ次はあそこに打ってみてね」とか。そうやって同じような局面を作るんです。

 そうだ、思い出した。この前の海外遠征(イギリス)で初めて体験したんですよ。

佐々木 プレー中に話した?

潮田 そうなんです。相手のスマッシュをペアの小椋(久美子)がずっとポーンと大きく返していたんです。彼女は打たれているから見えないけれど、私には客観的に見えてたんです。それでオグッチ(小椋)にボソッと横から「前に置いてみて」って言ったんですよ。それでポッと前に置いたら見事に決まったんです。ラリー中にしやべるのって、ほんとにないですから。オグッチに聞こえると思ってなかったけれど、それが決まったんです。マッチポイントを取ってたいちばん最後のラリーでのポイントでした。

佐々木 小椋さんには相手コートの、その空間が見えていなかった。

潮田 ええ、でも私の言葉が入ってきたんだと思います。それで置いてみたって言ってました。

佐々木 監督、コーチも声を掛けるんですか。

潮田 「大きく」とか「沈めろ」とか、やはり見えていないところを言ってもらったりしますね。

佐々木 小椋さんとペアを組んでどれくらいですか。

潮田 丸4年です。

佐々木 理想を100とすると今の2人はどれくらいですか。

潮田 80くらいはいってると思います。まだまだ埋められるところはたくさんあります。

佐々木 2人で一つになったなと思えるところは、たとえばどういうところですか。

潮田 私は前衛が多くて前にどんどん詰めるんですけど、相手がそこでかわしてくる球を小椋が速く詰めてくれるようになったとかです。常に自分が決めるのではなく、私は小椋に決めてもらおう、小椋は私に決めてもらおうという感じでやってると、コンビネーションがうまくいきますね。「私が作るから、あなた決めてね」みたいな。もちろん、「失敗したら頼むね」もありますけど(笑)。

佐々木 一つの意図を共有できるようになってきたんですね。

エリア 【Area】 身体の延長しているところ、一瞬で知覚する広さ(2)

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