コロナで試される「観光立国」。今こそ出発点を見つめ直す
「カンブリア宮殿」出演で話題沸騰! 日本の国宝を守るイギリス人が教える、「観光でカネを儲ける」ために日本が採るべき戦略とは?
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はじめに

日本を救うのは「短期移民」である

 イギリスで生まれ育った私が日本で生活をするようになって、25年が経過しようとしています。私の半生を振り返ってみると、その多くの時間を「日本経済の分析」に費やしてきたと感じます。

 振り出しは1990年、ソロモン・ブラザーズ証券日本支社のアナリストとして銀行を担当したことでした。アナリストの仕事というのは、投資家のために企業の正確な姿を浮き彫りにするような分析をすることです。それが私の師匠であり、「伝説のアナリスト」と呼ばれたトム・ハンリー氏の教えでもありました。

 当時は金融バブルがはじけた激動の時代。経営の根幹が揺るぎ始めた銀行の姿を客観的に分析すれば、かなり厳しい内容になります。そのようなレポートを出すたびに、私は銀行幹部から呼び出されて、「何てことを書くんだ」というお叱りやクレームの声を頂戴したものです。そのなかでも、日本の銀行からもっとも大きな怒りを買ったのが、不良債権問題でした。

 当時、日本政府や銀行側は不良債権を数兆円と見積もっていましたが、私たちソロモン・ブラザーズが試算するとそんな次元の話ではなく、その10倍近くの20兆円という、驚くような数字が出たのです。このレポートの反響はすさまじいものでした。株式の売り注文が殺到し、会社にも抗議や脅迫のファックスが送られてきて、右翼の街宣車まで押し掛けました。「このレポートは日本経済を壊滅させるアメリカの陰謀だ」という陰謀論が流れることもありました。

 もちろん、これが陰謀などではなく、銀行の姿を客観的に分析したごく妥当なレポートだったことは、後に明らかになりました。

 言うまでもなく、機関投資家は年金など、個人のお金の運用を任されています。投資家に噓をついて不良債権を分析せず、銀行株が下がるはずの事実を無視するようなことは、アナリストとしてできません。そのときはマイナスの話だけではなくて、世界の前例から学んで、不良債権という現実と向き合って早めに処分をすれば、被害は軽く済むとも予言をしました。

 しかし、残念ながら銀行は私のレポートに耳を傾けることなく、口封じをしたり、隠したり、その場しのぎの会計処理だけやったりして、この問題について何か動くことはなく、結果として不良債権が20兆円を大幅に超えるという結果を招いてしまったのです。

 1990年代の後半、私は当時乱立していた大手邦銀はもはや4行しかいらないという「銀行再編」を予測するレポートを出しました。銀行の市場規模を割り出して、それぞれの銀行の規模を照らし合わせて計算すれば当然のように導き出される結果ですが、これも投資家、他社のアナリストからかなりの反発がありました。この分析が妥当かどうかは、現在のメガバンクを数えていただければ明らかでしょう。

■日本は「成長しづらい」国になった

 このような「分析の手法」は、ゴールドマン・サックス証券にヘッドハンティングされ、2007年に退社するまで、一貫して私が心がけてきたことです。現在、縁があって国宝などの文化財を修繕する「小西美術工藝社」代表取締役社長を務めていますが、経営を分析するときもまったく変わりません。

 300年あまりの歴史を誇る老舗企業の経営を改善するため、あるいは職人の技術を継承するなどして「文化財」という業界全体を活性化していくため、私は「分析の手法」をいかんなく発揮しています。事実を客観的に分析して、問題を浮かび上がらせることで、その問題を1つひとつ解決するように努めてきたのです。

 ただ、そのような分析をするたびに、先ほどの不良債権問題ほどではありませんが、周囲の人々から反発を受けるというのも、相変わらずです。さすがに「陰謀論」とまで言われることはありませんが、社長になりたての頃は、周囲の一部から「文化財の何をわかっているのだ」「外国人に日本の伝統文化がわかるわけがない」などという厳しい言葉をかけられたものです。

 そういう意味では、20年あまりにも及ぶ日本でのアナリスト人生を振り返ると、「事実を客観的に分析して、その結果がどんなに都合が悪くても、人間関係を悪化させようとも、建設的な話ができると信じて指摘した結果、反発を招く」ということの繰り返しのような気もしています。

 日本ではよく、正論が通らないと言われますが、自分自身の歩みを顧みると、最初は「反発」が強く、絶対に変えることができないと周囲から言われていたことも、問題を指摘し続けていると最終的には何かの拍子で正論が通った、という不思議な現象を何回も体験してきました。よく考えてみると「反発」が強ければ強いほど、そのような現象が起こったような気がしないでもないのです。

 今の日本経済を俯瞰してみると、どんなに楽観的な見方をしても、戦後の人口激増時代の反動で、人口激減の時代に入りつつあります。先進国はだいたいどこも人口減少時代を迎えていますが、先進国のなかで日本の人口の激増は異例だっただけに、激減のスピードも異例です。

 先進国である以上、GDPと人口には強い相関関係が確認されていますので、日本はGDPが非常に成長しづらい国になっています。そのため、人口が少ない国のように、1人あたりGDPや幸福指標に切り替えないで、あくまで今までのようにGDPの絶対額を中心に国家を運営しつづけるならば、今まで以上に賢く経済政策を運営する必要があります。

 では、「成長しづらい」という未来が約束された日本は、どうすればいいのか考えてみましょう。人口が増えないという現実を変えないかぎり、ただ座して新興国に追い抜かれるのを待ち、その背中を見つめるしかないのでしょうか。

 私はそんなことはないと思っています。実は、それこそが本書の主たるテーマなのですが、人口が減っていくこの日本でもGDPを成長させていく方法があるのです。GDPは、単なる「数字」の問題です。そのような切り口で考えれば、きわめてシンプルな解決策が見えてくるのです。

 先進国の基礎ができているかぎり、人口が増えていけば、相関関係のあるGDPも上がっていく。これは裏を返せば、GDPを成長させたければ、人口を増やせばいいということにほかなりません。

 未婚の男女が増えて出生率が下がっているこの国で、人口を増やすといえば、おのずと答えは限られてきます。少子化対策はいろいろ考えることはできますが、これだけではなかなか、激減を止めるのは難しいと思います。

 理屈上は、1つには、「外」から外国人を呼んで日本国籍を与え、日本人として受け入れる。つまり、移民政策です。

 移民によってGDPが上向くのは、経済の常識です。たとえばカナダにおいては、1990年代の経済成長のおよそ9割が「移民」によるものだったという分析もあるほどです。私の母国のイギリスもこの20年間、移民を主に東ヨーロッパから大量に受け入れてきたことによって、この数年G7の国々のなかで一番成長しています。2014年にはフランスを抜いて、第5位になりました。20年後、ドイツを抜いて第4位になるという予想まであるほどです。この違いは、人口の違いです(2014年には、イギリスの新聞「Telegraph」でも報道されました)。

 もしも日本のように、これまで移民というものを受け入れてこなかった国が移民政策を行なえば、その効果は顕著にあらわれるでしょう。人口減少や高齢化という問題もある程度、緩和されるかもしれません。

 しかし、これまで事実を客観的に分析することを心がけてきた私に言わせると、この移民政策を実現するには、非常に高いハードルがあります。移民政策は、現実味に乏しい施策であると考えています。

■なぜ日本では移民政策が受け入れられないのか

 その理由としてまず挙げられるのが、日本人の拒否反応です。ぜひ移民を受け入れるべきだと主張している人は少数で、多くの日本人は移民政策には抵抗があります。さらに、外国人側から見て、日本社会が移民にとって暮らしやすい国かと言われると、そうではないということが挙げられます。

 みなさんは日本を住みやすい国だと思っていますが、それはみなさんが自国民だからです。外国人の立場から住みやすいかと問われると、決してそうではありません。日本語という言語は日本でしか使えません。日本の文化や風習を知らない外国人がここで生活をするには、語学習得などの「投資」が必要なのです。日本社会での働き方というのも外国人にはかなり厳しく、移住という特典がなければ、この「投資」を見送るという人が多くなるのは当然です。

 日本に世界中からよい人材が集まりにくいという問題が指摘されていますが、根本にはこのハードルの高さがあるのです。私自身も日本で暮らす外国人の1人として、やはり今、日本にいる外国人のレベルが必ずしも高いとは言い難いと考えています。

 社会システムから仕事の進め方、そして結婚して家庭をもって子どもを育てる環境など、さまざまな面を考慮すると、二重国籍も認めない今の日本で、外国人が母国の国籍を捨てて日本人になるメリットは明確ではありません。

 それに加えて、移民政策にはさまざまな負の側面があるのも事実です。国際社会で大きな問題になっているISISにイギリス人やフランス人が参加していますが、この多くはイギリスやフランスに「移民」としてやってきた元外国人です。彼らは移民先の国での生活になじめなかったことで経済的困窮に陥り、社会への不満が募ったと言われています。それがテロリストに合流する者を生んだり、暴動が起きる原因になっているという見方もあります。

 もちろん、日本で移民政策を実現したからといって、すぐにこのような事態が起こるとはかぎりませんし、世界的に見れば移民を受け入れて成功している国は少なくありません。ただ、国際社会でテロの脅威という負の側面がクローズアップされている今、多くの日本人が移民政策というものを即座に受け入れる選択をするというのは、やはり現実的ではありません。

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