「探検部に入ったからには4年で卒業しようと思うな」
2013年、講談社ノンフィクション賞を同時受賞した「早大探検部」出身の二人が、探検の現場から執筆の方法論までを語り尽くす。

構成 森山憲一

デザイン 大岡喜直(next door design)

第一章 僕たちが探検家になるまで

男子は誰でも探検好きだ

高野 子どもって探検や冒険が好きじゃない?

角幡 確かに小さいころ、恐竜の発掘の話とかすごい好きでしたね。小学館とか学研の学習漫画みたいなのあるじゃないですか。ああいうのに出ていた恐竜の発掘の話をワクワクしながら読んでました。イグアノドンがこういうふうに見つかったとか、最初に見つかったのは鼻のツノだったとか、ユタ州のどこかでなにが見つかったとか……。

高野 あったね、ユタ州。

角幡 大きな恐竜の骨格が見つかったみたいな話がおもしろくて、だから、自然の中を旅したり、なにか探したりするようなことに対しての憧れがあったんだろうなという気はしますね。やっぱり川口浩探検隊*も好きでしたし(笑)。

川口浩探検隊

19771986年にテレビ朝日系列で放映された番組。俳優の川口浩が隊長となって、未知生物などの荒唐無稽な謎を探索するというもの。

高野 これは男子は普通好きだよね。

角幡 うん、好きですね。

高野 とくに俺たちの世代はまだ自然が残っていたし。ちょっと前に小学校3年のときに書いた作文が出てきたんだよ。それ読んでると、もう「探検」「冒険」って言葉が頻繁に出てくるわけ。

角幡 へえー。

高野 裏山みたいなところに行って、道がないところをヤブかき分けて「すごい冒険をした」とか書いてるんだよ。自分は冒険家になろうとか探検やりたいと思っていたわけではないんだけど、そのころの小学生男子にとって、そういうのは普通だったんじゃないかな。「今日ちょっと冒険行こうぜ」とか「あそこの弁天様の森、探検しようぜ」とか。秘密基地とか作らなかった?

角幡 秘密基地はやってないけど、空き家に忍び込んだりというのはよくしてましたね。いわゆる幽霊屋敷。

高野 幽霊屋敷ね、あった、あった。

角幡 僕の実家は北海道なんですけど、家の周囲が自然に囲まれているわけではないんです。郊外まで行けば囲まれているんだけど、そこまで行くには子どもの足だとちょっと遠いんですよ。僕が育ったあしべつという街はけっして大きくはないんですけど、小学校1年生とか2年生の行動範囲なんて半径500メートルくらいに限られるじゃないですか。隣の学区に行ったら別の縄張りみたいな意識もあったから、だいたい町なかで遊んでいたんです。秘密基地みたいなところはなかったので、空き家に忍び込んだり近くの裏山に行くぐらいですかね。裏山の沢にカニ捕りに行ったり、川に釣りしに行ったりとか、そういうことが多かったかな。裏山といっても遠いんですけどね。ちょっとした遠征気分で。

高野 スケールがデカいんだな、北海道は。

角幡 だから身近に入り込める自然というのはあまりなかったんですよ。

高野 俺の生まれ育った八王子というところは平地がないんだよね。坂とか小さい山みたいのばっかりで。起伏に富んでるから植生もすごく多様性があるし、小さい森とか原っぱとか川とか、そういうところはたくさんあった。遊びやすいんだよ。

角幡 僕の実家では、カブトムシ捕りに行ったりクワガタ捕りに行ったりするのも、自転車で10キロぐらい行かなくちゃいけないんですよ。

高野 それは遠いな。

角幡 中学生にならないと行けないわけです。だから、そんなに自然と親しんだという記憶はないけど、でも、やっぱり冒険とか探検というものに憧れはあったんだろうなという気はしますね。

高野 「冒険・探検がいつ好きになって探検部に入ったのか」という聞かれ方をよくされるんだけど、そうじゃなくて、みんな昔は好きだったのにどんどんやめてっちゃって(笑)。

角幡 要するに、子どものまんまってことですね(笑)。

高野 ある意味ね。そういう部分が俺は変わらないんだけど、みんなほかの人が変わってっちゃったという気がする。

角幡 なるほど。

高野 俺は、『ムー*』に載っているようなものもすごく好きで。アトランティス大陸の謎だとか、ピラミッドは宇宙人が造ったとか、世界は核兵器で一度滅んだとか、そういうものが大好きだったんだけど、それも記憶をさかのぼっていくと、小学校時代によく読んでいた「世界の不思議」とかいう図鑑に源流があるように思うんだ。図鑑って科学的なものじゃない? その中にUFOとか未知動物とかアトランティス大陸とかが当たり前のように載っていたんだよね。

『ムー』

学研パブリッシングが刊行する月刊誌。サブタイトルは「世界の謎と不思議に挑戦する」。超能力、UFO、未知生物、超古代文明などがテーマ。

角幡 それ、大人が読む本じゃなくて、子どもが読む本ですよね。

高野 そう。同じシリーズのほかの巻は、野生動物とか植物とか、まったく普通の図鑑なんだよ。でも「世界の不思議」にはいろんな怪獣が出てくる。ネス湖のネッシーとか北欧のクラーケンとか。

角幡 クラーケンってタコですよね。タコの化け物。

高野 いや、タコって最近の話なんだよ。

角幡 そうなんですか?

高野 最近の映画ではたまたまタコになっていただけで、俺が読んだ図鑑では超巨大クラゲ。直径200メートルぐらいの巨大クラゲがザバーッと出てくる絵が見開きいっぱいにあるわけ。タンカーみたいな船がその上に乗っかってひっくり返されてる感じ。ものすごいインパクトがあった。ほかにも、オオウミヘビらしき真っ黒いものが向こうからバーッと迫ってくる写真とか。

角幡 やっぱり昔から未知生物には並々ならない関心があったと(笑)。

高野 いやあ、みんな好きだったと思うんだけどな。

角幡 僕も中学生や高校生のときに本屋でUFOや未知生物の本を立ち読みしてました。たま出版あたりのですね。高校生のころなんかは見つかったら恥ずかしいから、エロ本みたいにこっそり読んでました。そういうのってある種のタブーなんでしょうね、大人にとっては。

 ところで、『幻獣ムベンベを追え*』を最近読み返したんですけど、意外と慎重な物言いから始まっているから、未知生物を探したいというのは本音なのかな、どうなのかなと思いながら読んでいたんですけど。

『幻獣ムベンベを追え』

高野のデビュー作。アフリカ・コンゴで未知生物を探した早稲田大学探検部隊の記録。第四章参照。

高野 なに、慎重な物言いって。

角幡 「こういうものが実在してると無条件に信じているわけではない」みたいな書き方。

高野 そりゃそうだよ。当然じゃない? 好きということと信じているということは違うからね。

角幡 川口浩探検隊を信じていたというのは本当なんですか。

高野 それは本当。ジャングルの奥地で謎の原始猿人バーゴンを探したりとか、頭がふたつある蛇を探したりとか、そういうのをかぶりつきで見ていたから、ずっと事実だと思っていたんだよ。大学で探検部に入ってからその話を先輩にしたら、「いや、あれはウソだろう」と言われてがくぜんとしたんだよね。

角幡 それもマズいですね、ちょっと、変わってると言ったら失礼かもしれないですけど(笑)。僕は川口浩探検隊は好きだったけど、ウソだと思ってました。

高野 本当に? 夢がないね、君は(笑)。

角幡 常識があると言ってください(笑)。でも、やっぱり影響されてる部分は絶対にあって、僕が探検部に入ってやりたかったのは川口浩みたいなことだったんです。

高野 具体的にはどういうこと?

角幡 川口浩が行くところって、だいたいジャングルじゃないですか。そういう場所で謎の動物を探すというのが多かったと思うんですよ。

高野 それ、俺がやってたことと同じじゃん。

角幡 だから……(笑)。

高野 角幡、そんなの全然やってないじゃない。

角幡 イメージです、イメージ。密林がうつそうとしていて激流があって──という場所に行きたかったんです。でも、そういうジャングル的な探検のイメージに合うテーマがなかなか見つからなくて、そんなときにヤル・ツアンポー峡谷のことを知ったんです。だから『空白の五マイル*』は川口浩の変形版ともいえるわけなんですよ。

『空白の五マイル』

角幡のデビュー作。チベット、ヤル・ツアンポー峡谷の未踏地域を踏査した記録。第四章参照。

高野 ずいぶん変わったんだね(笑)。

第一章 僕たちが探検家になるまで(2)

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